人間椅子という快楽
人間椅子という快楽
「芙蓉様はまだ来たばかりであまり説明していませんので、かわりに私が芙蓉様の椅子の紹介をしましょう」
光はゆらゆらと動く自分の椅子に鞭を振るいながら、私の椅子を説明し始めた。
「芙蓉様が使われている椅子の原産地はアメリカです。今は日本に帰化していますけど」
「ねぇ、光さん。男の方も椅子になればこの男子禁制の夢見女館に来る事が出来るの?」
「いいえ、芙蓉様。ここにいる者達は、皆、去勢されています。男を捨てなければこの館に入る事は出来ないのです。彼等の中の多くの者は社会で男性として働き、夢見女館では女性の体の下で椅子になったり、テーブルになったり、コート掛けになったりして、女性に奉仕し、快楽をむさぼっているのです。彼等にとってはそれは男性からの解放であり、私達はそれに協力する者です。私達女性はただ自分達の幸せだけを求めて、女性解放をすすめるのではなく、もう一つの性である男性の解放運動も推し進めなければなりません。そうしなければ真の女性解放は為し得ないでしょう。女性と男性は相互関係で成り立っています。例えば女性は自分達の社会進出を求める一方で、男性が正社員として働くのを放棄し、アルバイトだけで生きて行く権利を認めなければなりません。また女性はズボンを履く権利を求め勝ち取っていったわけですから、男性がスカートを履く権利も認めなければならないのです。女性がリーダーシップを取る上では、協力するリーダーではない男性の、またリーダーに成る気のない男性の存在を認めていかなければならないのです。強い女達が増える一方で、弱い男達が増えるのは当たり前の事です。だからこそ私達は寛容な心で、男を軟弱に育て、支えていかなければならないのです。
そういえば芙蓉様の椅子の事ですが、アメリカ北部や北ヨーロッパの男子は質が良いのですよ。アメリカ社会には差別や階級があるので、かえって調教しやすいという面もありますが、一方、私達が彼等に今までの男性像を押し付けないからこそ、彼等は男性像からの解放を求めて性器を捨て、椅子になるのです。私達は彼等のその誠意を尊重し、愛しく思います」
私は光の言葉を聞きながら、この部屋の和んだ雰囲気について考えていた。光景として衝撃的な大広間の風景は、決して殺伐としたものではなかった。シャンデリアの明るい光の下、人々は人間椅子の上に座り和んでいた。この空気は人々だけで作られたものではなく、人間家具達が醸し出す幸福感が創り出していたのだろう。
私はたんぽぽとひまわりをとても愛しく感じ、二人の頭を撫でた。二人は私の手に頭をこすり付けて喜びを表した。
光の話が終わると、スミレが自分の椅子を賛美し始めた。
「おーほほほ、芙蓉ちゃん。私の椅子はね、ヨーロッパのお貴族サマだった女達を私がハントして連れてきたのよ。まぁ、調教は夢見女館の調教専門の方にお願いしてきたんだけどね。…… 女はいいわよ。柔らかいし、肌触りもいいし。私のサイズに合う女は白人系じゃないとなかなかいなくてね。私のお気に入りなのよ」
「まぁ、気に入った人を椅子用に連れてきてもいいの? スミレちゃん」
「そうよ、芙蓉ちゃん。この会場にも結構椅子が夫って人が多いのよ。私の隣の紀乃下さんもその一人で、彼女の椅子は夫と彼の会社の同僚なのよ」
紀乃下は、宜しく、と言って頭を下げた。私は、芙蓉です宜しく、と挨拶した。紀乃下の隣に座る乙姫は、大きく手を上げて言った。
「私のはねぇー、お兄ちゃん達なのよぉー。今日は上の兄に暁生の、真中のに冬芽のコスプレをさせてきたのよぉー」
私は大きな声で笑った。暁生と冬芽というのは『少女革命ウテナ』のキャラクター達だった。アニメでは暁生と冬芽が、乙姫がコスプレしているキャラクター・樹璃の下で馬のように伏せているなんて光景は無かったし、想像も出来ないのだが、コスプレーヤーである乙姫は、そのような設定を演じているのである。凄い想像力だった。
「乙姫さんって、笑わせるわよね」
「んもう、芙蓉さんって、趣味が合うわよねぇー」
スミレが乙姫の言葉を遮って、乙姫の隣に居る篠崎、鳥居、黒川達の椅子を紹介した。彼女達の椅子は夢見女館が用意したものだったが、どれも逸品ばかりだった。
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