紙飛行機

綿麻きぬ

夢、星、世界

 手に持っているのは『進路希望調査表』まだ、何も書き込まれていない。


 それを片手で持ちながら、僕は川辺の土手に座っている。何を書けばいいか分からずに、ただひたすら夕空を見ている。


 夕空は直ぐに消えていった。まるで僕の将来の夢が消えたように。


 僕はもう幼稚園生の時の夢など思い出せない。それに小学生の時のも。


 夢なんて只の理想で、現実なんじゃない。それに気がついた時にはもう遅かった。


 きっとあんなに無邪気に語っていた夢や、友達に応援された夢だってまやかしだった。


 まやかしを信じ続けたら幸せになれただろうか? まやかしは理想じゃなくて、現実になれただろうか?


 答えは多くの人が「はい」と答えるだろう。


 答えた人たちは一握りの成功者か、まやかしだということに気づいているが自分を騙しているかだろう。


 そんな事を考えてるうちに空一面に星が散りばめられる時間になった。


 だけどそんな星はもう見えない。それは涙かもしれない。だけど僕には世界が、周りが、隠してしまったように思えた。


 隠れてしまった探し物はもう見つからない。


 そんな僕は願いをのせて紙を折る。涙をのせて、止まることない針への願いをはるか彼方へ飛ばすために。


 そうやって出来た紙飛行機は重かった。


 もう星明かりしかない夜、手に持つ。そして、飛ばす。それは暗い暗い夜に吸い込まれるように消えていった。


 それが遠くに消えていったことを確認した僕は立ち上がった。少し伸びをして、帰途に着いたのだった。

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紙飛行機 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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