少女を救うぼっち男
昼の購買では、端っこに追いやられる人がいる。例えば俺、そして、俺の目の前にいる彼女。彼女は背が俺の首までしかないため、毎日のように左に回るつむじをガン見している。髪の毛はベージュ色で、弱酸性メ●ットの香りがする。
ただ、俺は彼女の顔を見たことがない。俺が一番端っこで、彼女が一番端っこから一つ前、つまり俺の前だからだ。それじゃ表情なんて分からない。一度でいいから、こっちを向いてくれないかなぁ。
そんな彼女には背後霊が取り憑いている。毎日彼女の左腕に掻き付いて、口ぎたない文句を垂れ流し、彼女を俯かせている。俺の目線からだと、本来つむじは頭の中央より少し上のはずだ。でも彼女のつむじはいつも、頭のてっぺんにある。
「くっら、あんたくっら。あたし、あんたのそういう暗い態度見てるとムカつくんですけど。誰かが可愛がってくれるとか思っちゃってるわけ? いやいやムカつくだけだから。あんたの後ろにいるボッチも、ムカついてんじゃない?」
彼女は何も言わないで、ただ耐えている。いつもと同じように。でも、俺は知っている。本当は、怖くて仕方ないってことを。サラサラして絹みたいな髪の毛が、フルフルと振動しているから。肩も、胴体も、脚だって。全部が震えているんだから。
俺はボッチだから、女子に話しかけることができない。毎日つむじを見ているこの人も、女子だから。多分、キモいと思われる。俺は彼女を背後霊から救いたいのに、自分が彼女に嫌われるのが怖くて、何もできないでいる。毎日のように。
「チビ、ブス、バカ。陰キャ。あんたって不良品よね? あたし見なさいよ、あそこにいるでしょ? 限定十個のチョコチップバナナクリームパン買って、友達と話しながら教室戻ってるでしょ? あれが勝ち組の姿! 羨ましくてたまらないよね?」
背後霊、その正体は、彼女が作り出したEさんの妄想だ。クラスで最も
彼女は、うん、と頷いた。そして、いつの間にかガラガラになった購買の受付で、おばちゃんからチョコチップなんとかをもらった。1500円を払って。定価200円なのに、おばちゃんは毎日、限定品を彼女の為に保存して、高値で売っている。
(どうして! 嫌だって言えよ! 君はチビだとしても、ブスでもバカでもないはずだ! 陰キャかもしれないけど、俺と比べたらずっと陽キャだ! お願いだから、俺にそんな姿見せないでくれ! 見てられないんだよ、君が傷ついてるのを!)
気づいたら足が前に出ていた。1000円札を三つ持って。財布の紙幣はゼロだ。
「これ持ってけ! そのパン買う! 2000円だぞ、釣りもいらねえ!」
これで、気づかれないと思う。彼女のポケットに、1000円入れたこと。
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