フクセイ・ガール

ゆずさくら

第1話

 俺は初めての街に呼び出され、友達と昼飯を食うことになっていた。

 通りは広く、行き交う外国人も多い。彼らは観光で来ています、という感じではない。街で働いている外国人だった。

「なんか随分変わった建物が多いな。変わったって言うとあれか。オシャレなというべきか」

「ああ、ああいうやつだろ。ここらへん、大使館が多いんだよ」

 ふと見ると、反対側の通りを、髪の長い女性がさっそうと歩いて行く。まるでスポットライトを浴びているように、その女性だけが際立ってかわいく見える。

「おい、今の…… すげえかわいい」

 俺は腕を上げて、指をさしそうになるが、友人に制される。

他人ひとを指差すなよ…… ああ、たしかにかわいいな。テレビのキャスターかなんかかな?」

「キャスターみたいな人がここ通るの?」

「高級マンションとかがあるからな。近所で暮らしている可能性はなくはない」

「へぇ」

「これだから田舎者は……」

「お前だってそんな都会じゃないんだろ。知ってんだぞ」

「名古屋市内と岐阜じゃずいぶん違う」

 俺はふと正面のビルのテナントごとの看板に気付く。青、赤、黄、大胆な配色のロゴ。

「違うわけねぇだろ…… えっ、G〇〇GLEって…… ここにあるの?」

「本社じゃないぞ。研究所の一つが、だぞ。世界のG〇〇GLEの本社がこんな辺境の国にあるわけないだろ」

「本社なんて行ってないだろ、自社ビルではなさそうだし。あっ…… 火星移住計画のポスターも…… G〇〇GLEはなんでこのところ火星移住計画推しなんだろうな」

 ポスターには、自衛隊のポスターのように、男女が並んで空を指さしていて、『行こう! 火星へ。火星チャレンジ2020』と書かれている。

「頭いいやつの考えることはわからんよ」

「その通りだ…… なっ?」

 俺はさっきのキャスターかと思うような、かわいい女性が歩いていくのを見た。しかし、まったく違う服に思えた。着替えたのだろうか、俺の記憶が間違えているのか、それとも別人なのに同じ顔に見えた、のだろうか。

 そのまま歩いていると、またとびきりかわいいと思った女性が歩いている。今度こそ間違いない。別の服を着ている。テレビのドッキリなのだろうか。

「えっ、今の見たか?」

「何が?」

「同じ顔の人が…… すれ違って」

「へぇ、そんなの珍しくないから。興奮すんなって」

 いや、確かにとびきりかわいいから、興奮はしていたけど……

「ほら、あそこ、また同じ顔」

「そういうことを大声で言うなって、田舎者みたいで恥ずかしいから」

 いやいやいや、田舎者とかそんなの関係ねぇし。けれど、騒いでいる自分が恥ずかしいと思ったのは確かだったので、声には出さなかった。

 それから友達の言っていた店に着き、食事をとった。

 食事の後も、その街をブラブラしていたが、やっぱりそのかわいい女性とすれ違った。

 もう俺は、驚きもしなかった。

 スマフォで時間を確認すると、俺は言った。

「それじゃあな。俺はこのあと合コンだから」

「えっ、マジかよ。この後、何も予定ねぇから、俺もまぜてよ」

「いや。お前の知らねぇヤツばっかだからな。悪いけど」

「ケチ。じゃあな」

 そんな感じで、俺は合コンへ向かった。




 その日の合コンの帰りだった。

 俺は繁華街のど真ん中を通って帰らなければならなかった。

 大学の友達に呼ばれて行った合コン。ハメられたように、俺以外は全員、反対方向に『仲良く』帰っていく。二次会があるなら、帰り道がどこだろうが問題ないのだが、この合コン、二次会の『に』の字さえでない雰囲気。故意に二次会の話を『俺のいない所で話そう』としているようだった。

「こんなのないよな〜」

 と思いながら、俺は一人、フラフラと繁華街を歩いていた。

「お兄さん、いいいるよ。寄ってかない?」

 店の前からお兄さんが出てきて声をかけてくる。

「個室ビデオだよ。安くしとくよ?」

 なんか、やたら声を掛けられる日だ。

 合コンもそうだが、今日はついていない。声を掛けられないように、一つ通りを迂回して駅に向かおうと考えた。

 たしか、こっちに回れば……

「おにいさん、熟女。熟女パブどお?」

「こっちは若いよ、女子大生もいるから、ねぇ」

 あれ? なんかこっちの通りにもそういう店が増えてる。俺はもう怖くなって、少し走り気味に迂回した。

 そうしている内、酔いが回ってきた。

 気持ちいいのか悪いのか、どこを歩いているのか。やばいな…… けれど電車が走っているのは見えている。方向はこっちでいいはずだ。

 呼び込みされない、ただし電車の音で騒がしい通りを一人で歩いていた。

「ん?」

 目の前に黒いワンボックス車が止まっている。

 その後ろに一人男が立って待っている。

「?」

 車のすぐ近くのビルの出入口から、袋に詰められた何か『成人』サイズの大きさのものを、男三人が抱えて出て来る。袋は暴れているようにモコモコ動いている。人さらい? コンクリ詰めして港に落としちゃう?

 俺は思わずスマフォを取り出し、それを撮影してしまった。

 車は、後部ドアからその袋を中に入れると、スッと発車してしまった。

「行っちゃった……」

 俺は袋を持って出てきたビルの前まで行き、ビルの名前をスマフォで撮った。

「これ、やべぇやつだよな……」

 と思った時、俺の視界から見えていた道、ビル、電車が通る高架やらなにやらが全て見えなくなった。手を伸ばすと何か布に当たる。しまった!

「助け……」

 手足を持って担がれると、車に載せられてしまっていた。

 最初の内は逃げられないものかと、手足をバタバタと動かしてみたが、袋は固くて細くて、身動きが出来ないことがわかった。

 無駄な抵抗を止めて、連中が何か話すのかどうか聞き耳を立てていたが、酔っていたせいなのか俺はその内寝てしまった。




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