転生、ダメ。ゼッタイ。

豆苗わかば

ep1:お前一人で釣り合うとでも思ってんの?

プロローグ・1:生まれた可能性

「おはよ」


 ……おはよ。

 珍しいな、お前が先に起きてんの。


「ん~~。なんか、いい夢見てて、グッスリ眠れたかも」


 どんな夢だよ。


「あんたとシてる夢、かな」


 ……昨日足りなかったの? それともヤりすぎたの?


「足りないってことないでしょ、失神させといて」


 じゃヤりすぎ?


「ていうか満足?」


 お前もタフんなったもんだなあ。


「ね。最初のころは歩けなくなってたもんねえ、うち」


 体力ねえくせに敏感だから。


「だからトレーニングしてんじゃん。タイヘンなんだよ、野獣クンの相手はさぁ」


 誰が野獣だ、紳士的だろが。


「変態という名の?」


 泣かしたろか。


「なんもなくたって毎回泣かすくせに。アパートだったら通報されるよ」


 お前の泣き顔がかわいいのが悪い。


「ほ~~、笑顔はかわいくないとでも?」


 普段は笑っててほしいから、泣き顔は夜だけの楽しみにしてんだよ。


「……キザな言い回しを思いつくようになったねえ。んん?」


 顔赤いぞ。


「お互い様だばーか」


 その手に乗るかバーカ。


「ちっ。ところで、そんなにお尻なでられると感じてきちゃうんだけど」


 今日予定は?


「ないねえ」


 明日出かける予定は?


「ないねえ。ほーん、うちの腰抜かそうって魂胆ですか、ほーん」


 最近見てねえなって。


「別にいいけどさ、ごはんくらい食べさせてよね。あんたおっぱじめると底なしなんだもん」


 じゃ、とりあえず朝飯前に一発。


「それで終わったためしないでしょっての」


 お前が上で。


「……じゃ、取引」


 なんだよ。


「今日は、あれ、やって……縛り」


 ……こりゃまた珍しい。


「いいでしょ……たっぷりご奉仕してやっからさぁ……」


 眼鏡かけて乗ってくれたらいいぞ。


「……なんでよ。恥ずかしいんだけど」


 だからだよ。

 バッチリ見えてるときの表情がかわいいんだよな。


「ほんっと、変態……」


 交渉成立。

 ご希望通り、メチャクチャにしてやるよ。


「はいはい、ごはん食べてからね」


 乳首立ってんぞ。


「乳首しかなくて悪かったな」


 興奮してんのわかりやすくて助かる。

 それに、最近ちょっとはあるだろ。


「誰かさんのおかげですかねえ?」


 だろうな。感謝しろ。


「そんじゃ、せいぜい体で表させてもらいますよ…………んっ…………」



――。



――。



――。



◇◇◇



「……なんだこの夢」


 桧山ヒヤマ伸夫ノブオは、ベッドでそうつぶやいた。


 えらいラウンド数の淫夢だったのは覚えているが、相手の女に心当たりがない。

 フルスクラッチ妄想彼女か。

 その割には夢がなさすぎるんと違うか。バストあたり。

 フルスクラッチのくせに生々しすぎる。


 そして、トランクスを濡らす感触。

 左手道に手を染めてから、とんとやらかしていなかった事態だ。


「…………。恥ずかしいのはこっちだっつう……あーーーーー」


 桧山伸夫。

 高校2年生。

 男子。

 趣味:オタク。

 部活:なし。

 特技:なし。

 夢:なし。

 希望:なし。

 彼女:なし。

 仲のいい女子:なし。

 同居人:実質なし。


 エロゲーのキャラ育成で夜ふかししても、朝飯の支度はせにゃならぬ。

 飯を食わにゃあ腹が減る。

 ああ、無情。


「あ~~……だっる……」


 しかも洗濯とシャワーが追加だ。

 寝坊助の慌ただしい朝ルーチンが走り出す。

 朝飯を食い終わる頃には、夢の記憶はさっぱりと消えていた。


 季節は初夏。

 この日、自分の身に降りかかる『呪い』を、伸夫はまだ知らない。



◇◇◇



――界面連結術式を開始。

――『勇者』素体の検索を開始。

――検出。

――個体数・1。

――繋杭アンカー固定を確認。

――前回執行時の齟齬エラーが未解消。

――二次執行要員の派遣を提案。


――二次執行要員の派遣は保留。

――今回執行の結果をもって再度決議する。


――了解。

――因果律干渉術式を開始。

――未現死亡要因を検出。

――事象流イベントストリームロッドを再投入。遡行ロールバック・8.3クロック

――過程プロセス破却キャンセルを実行。

――霊魂捕獲器ソウルキャプチャー待機スタンバイ


――転生召喚術式、執行。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る