kac10作 お題を元に作った作品集
お題「切り札はフクロウ」
タイムマシンの切り札
「うーむ。あとはこのファンの問題だけなんじゃが」
研究室でハッテナー博士と助手のパッシリーが頭を抱えている。
彼らが開発しているのはタイムマシンだ。
二人を悩ませているのは、タイムマシンの動力を回すためのファンだった。
タイムマシンを動かすためには、とんでもなく強いエネルギーが必要なのだが、そのエネルギーのままファンを回すと、ものすごくうるさいのだ。
それはもう時を駆ける気力を無くすほどの騒音なのだ。
そういうものなのだ。
「色々試したが中々いい解決方法がみつからんのぉ」
「そうですねぇ~、ふぁ~あ」
博士の言葉に助手のパッシリーがあくびで答える。
「もうこんな時間か。今日はもう休むとするかの」
博士はパッシリーの肩を一度叩き、寝床に向かった。
――翌日
「博士! 博士!」
パッシリーがハッテナー博士を揺さぶっている。
「なんじゃ、騒がしい」
博士は寝ぼけまなこを擦りながらパッシリーに悪態を吐く。
「これ! 見て下さい!」
パッシリーが博士の目の前に設計図を押し付ける。
「お、おい! そんな近いと見えんじゃろ!」
博士はパッシリーから設計図を奪い取り、メガネをかけてから目を通した。
「ぱ、パッシリー! これは! このファンの設計図、お前が考えたのか?」
博士の問いに、パッシリーは「へへへ」と頭を掻いて照れている。
「なるほど。この形状ならいけるかも知れん! これは我々の切り札になるやもしれんぞ!」
博士は嬉しそうにパッシリーの肩を叩いた。
――そして。ついにその日はやってきた。
パッシリーの設計図を元に作ったファンの消音性能は素晴らしく、最後のピースがはまったタイムマシンは完成した。
それは、小型の宇宙船のような形状であった。
「よし、それでは起動してみるぞ」
博士がタイムマシンのスイッチを押した。
「ワクワクしますね!」
パッシリーも嬉しそうだ。
「まずはどこへ?」
「わしはタイムマシンの開発を夢見た時からずっと、初めはジュラ紀と決めておったんじゃ」
「おお! ジュラ紀!」
「さて、年代を設定して……、おい! パッシリー! ドアが開いておるではないか! 早く閉めんか!」
「ああ、うっかりしてました」
パッシリーが入り口のドアを閉めようとした時、寝ぼけたフクロウが一羽、タイムマシンに飛び込んで来た。
「うわぁぁぁー!」
驚いたパッシリーが博士にぶつかり、博士は押された反動でタイムマシンのボタンを押してしまった。
その瞬間、ジェットコースターの頂点から落下するときのような感覚が二人を襲った。
絶叫と共に、しばらく不快感と戦っていた二人だが、ふいに身体に重力を感じその身を起こした。
「う~ん、どうなったんだ?」
パッシリーがまだふわふわする頭を振りながら外の様子を伺う。
「は、博士!」
パッシリーが声を上げて博士を窓の外を見るように促す。
「おお! 素晴らしい!」
二人の目に、大小様々な恐竜が闊歩している光景が映った。
「やりましたね! 博士!」
と喜ぶパッシリーの顔にフクロウが覆いかぶさってきた。
「うわ! やめろ! コイツ!」
パッシリーは思わず入り口のドアを開け、フクロウを外へと追いやった。
「……ふう。まったく」
パッシリーは安堵のため息を吐いた。
「とんだ来訪者じゃったな」
「フクロウだけに、ですか?」
「ギャグではないわ! よし、パッシリーよ。次は旧石器時代に行ってみるぞ!」
博士は嬉しそうにタイムマシンを操作する。
そこから二人は様々な時代を飛び回った。
マヤ文明へ行き、中華春秋時代から三国志の歴史を追った後、ギリシャを観光。
最後に日本の戦国時代を堪能してから、二人は一旦現代へ戻ることにした。
「いやー、楽しかった。明日はどこへ行きましょうか、博士」
パッシリーが興奮冷めやらぬまま入り口の扉を開けた。
「……え?」
外に出ようとしたパッシリーが言葉を失う。
「どうしたんじゃ?」
パッシリーの後ろから覗き込むように外を見た博士も同じように言葉を失った。
目の前には樹齢何年かもわからないような巨大な樹木が見渡す限りにそびえ立っている。
「博士、もしかして年代間違えました?」
「い、いや、そんなはずは……」
博士は振り返り、タイムマシンの年代を確認する。
それは確かに二人が出発したはずの年代と日時を指し示していた。
「ホッホー! 良く戻ってきたホー!」
突如、外から二人に声を掛けてくる人物がいた。
二人が声の主へ顔を向けると、そこには人間ほどの大きさの巨大な鳥が立っていた。
「ひっ!」
思わず二人は声を上げる。
「言い伝えは本当だったホー!」
鳥は構わず言葉を続ける。
「な、な、な?」
パッシリーは驚きすぎて言葉が上手く出ないようだ。
「なんだキミは!?」
かわりに博士が鳥に問いかけた。
「私は今の地球の支配者、トリ族の大統領なんだホー!」
「……と、トリ族?」
二人の声が揃う。
「そうなんだホー! 博士達がタイムマシンを動かした日、一緒に乗ったフクロウがいたホー? あれが私達の先祖だホー」
「あ、あのフクロウが?」
パッシリーが信じられないといった様子で繰り返す。
「ジュラ紀に残された先祖から生まれた卵が、なんやかんやあってここまで来たんだホー」
「そ、そこはフワっとしてるんじゃな」
「フクロウだけに、ですか?」
博士の言葉に、思わずパッシリーがツッコミを入れる。
「ギャグではないわ!」
二人の掛け合いに、目の前の鳥も目を細めた。
「我々はこの世界線を維持するために、お二人に協力したんだホー」
「協力、とは?」
博士が問う。
「そちらのタイムマシンを作るための最後のピース、……ファンの設計図だホー」
「なっ!」
博士は驚き、助手のパッシリーへと顔を向ける。
「あ、あれはお前が考えたものじゃなかったのか!?」
「いやー、実は朝目が覚めると机にあの設計図が置かれていたんですよ。見てみると素晴らしい作りだったので、……言い出せなくてすいません」
そう言ってパッシリーは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「あのファンは我らがフクロウ族の羽をモチーフに作っているんだホー」
「なるほど、フクロウの羽の形状じゃったか。フクロウの羽は消音効果に優れていると聞いたことがある」
「それを彼に渡し、タイムマシンを完成させてもらわないと、この世界線を維持出来ないんだホー」
「……そういうことか。あれは、私たちの切り札であり、君たちの切り札でもあったということか」
博士はそう呟くと力なく膝から崩れ落ちた。
「……さて、それでは私はそのタイムマシンを使って、設計図を置いてくるんだホー」
そう言うと、鳥は羽を大きく広げ、タイムマシンへ向かって飛んでいく。
その羽音は、驚くほど静かであった。
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