第10話 〈感謝!100PV〉電車

電車に閉じ込められたことがある。


あれは社会人になった頃。母から「餅つき手伝いに来て!」と指令が入り、私と姉は打ち合わせて、年末一緒に帰省した。


行きの電車の中、私は姉から借りたコミックを引きずり込まれるようにして読んでいた。

姉も何か、本を読んでいた。


ふと気付いた。周囲から、音が消えている。

本から顔をあげると、乗客がいない。

無人の駅のホーム。電車はいつの間にか止まっており、扉は固く閉ざされている。


のどかでうららかな昼下がり。

乗り換え損ねた私と姉は、停車中の電車に閉じ込められていた。


端から端まで歩いてみた。誰もいない。

非常ボタンを押してみたが、無人の運転席で鳴り響くだけ。

いつになったら動き出すのか、分からない。


結局、駅名を検索し、駅に電話をかけたら笑いながら駅員さんがやって来て、扉を開けてくれた。

当時は「笑い事じゃない!」と思ったが、今振り返ると笑い事である。

大幅に遅れて帰省すると、餅つきはとっくに終わっており、母からは「二人揃って、何やってるの!!」と怒られた。


あれ以来、電車の乗り換えには敏感になった。

観察していると、最後に車掌さんが乗り過ごした乗客がいないか確認しているようだ。眠り込んだ酔っ払いを起こしたりしている。

あの時、なぜ私と姉が見過ごされたのかは、謎だ。


当時はそんな余裕は無かったけれど。

せっかくなら、もっといろいろやってみたらよかった。

座席に寝そべる。つり革にぶら下がる。大声で歌う。運転席に入り込む。

禁止事項の解禁。束の間の優越。


もし2度目があれば、もっと楽しみたい。


これを読んで、「なんでそんなことになるんだよ!!」と思った、そこのあなた。

読んでみてほしい。

オノナツメ氏の、「not a simple」

きっと、あなたも読み過ごす。


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