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――だが、アミュレの人気者としての板の付きようは予想外だった。
そういえばリムルガンドで最初に会ったときも、こんな感じで底抜けの明るさを振りまいていたっけ。
死霊術師の一件ですっかり忘れていたが、案外こういう振る舞いのほうが彼女の性に合ってるのかもしれない。
だけどあんなアイドル然としたポーズは、当然だがこの世界には存在しないし彼女も知らなかったはずだ。
おそらくどこかの召喚者が知識を吹き込んだのだろう。全くどこのどいつだ、うちの大切なパーティメンバーに俗っぽいものを教えた奴は。
浮かれる患者の群だけでなく、中央広場の各所は活気に包まれていた。
それもそのはず、今日は防衛戦の勝利を祝った祝勝会を一日中開催されているのだ。
どうもウィスフェンドは戦争で勝利すると、こうして祭りを開催するのが習わしらしい。開催人は領主のフランキスカと、あのギルド支部長のバッハルードだ。
遠方から帰ってきた城塞都市防衛戦団も帰ってきて、賢人と蛮族のふたつの像が立ち並ぶ中央広場は縁日のような密度と熱気に包まれている。
「ラビ、もう怪我の具合は良いのかー!?」
リズレッドと隣合いながら開かれた露天などを見て周っていると、パラソルの下でエールを仰いでいた城塞都市の住人が手をぶんぶん振りながらそう叫びかけてきた。見知った顔ではなく、初めて言葉を交わす男性だった。まだ日が高いというのに昂揚しているところを見るに、すでにもう完全にできあがっているようだ。
「はい、癒術院の人たちのおかげでもう完全完治です!」
そう叫び返すと、男はがははと笑いながらジョッキをかかげ、残っていた酒を一口に胃に流し込む。
「そうだろうそうだろう! この街の癒術は世界一よ!」
どの世界でも地元の話というのは楽しいものなのだろう。彼は上機嫌にそう語った。実際、癒術院の尽力によって俺の体はかなりの速度で傷を癒すことができた。どうもトリガーによって痛覚を通した状態で受けた傷は、ヒールを受けて即回復という訳にはいかないらしい。これからも力を使うときがあるなら、この点は配慮した方が良いだろう。
「すっかり有名人だな」
そんなことを考えていると、隣のリズレッドがそう告げてきた。
「はは、あんな皆に見える形で決着を付けちゃったしな。この一週間、外に出るだけで数人には声を掛けられるよ」
そうなのだ。あの日以降、城塞都市で俺の名は知らない者がいないとう程有名になってしまった。そしてその情報は瞬く間に向こうの世界での掲示板にも書き込まれることとなり、結果、
「ラビー! 今度オレたちのゴーレム狩り手伝ってくれよー! ギルドで受けたはいいけどあいつ固過ぎんだわ!」
再び見知らぬ召喚者から声をかけられる。
こちらも御多分に漏れずエールを片手に昼間の大宴会の真っ最中である。
俺はそれに手を上げて応える。
――そう、召喚者の情報伝達の早さは、こちらの世界の人の比ではない。
ここ数日間、このように全くしらない召喚者からのパーティの誘いがひっきりなしに舞い込んでくるようになっていた。弔花に鏡花以外とのパーティプレイを勧めた手前、俺も無下に断ることもできない。結果、誘いを受けた場合は体調が回復したらという前提のもとでオーケーしている状況だった。丁度良いし、一緒に弔花を誘ってみるのも良いかもしれない。
「……君は本当に、人を変える天才だな」
そんなやりとりをしていると、ふいにリズレッドがそう呟いた。
顔を向けるとなにやら感慨に耽っている様子で、そんなことを言われる節が思い浮かばない俺は素直に疑問を口にした。
「ん? どういうことだ?」
「この広場はこんな、陽気な催しを開催できるような状況ではなかった」
「――ああ。メフィアスたちにぼろぼろにされて、それをたった一週間でここまで復元できるなんて、この街の人の建築技術は本当に凄いよ」
「はは、違うよラビ。確かにウィスフェンドの職人たちが並ならぬ腕の持ち主揃いなのは事実だ。だけど私が言っているのは、物ではなく人の心の在り方だ」
「……?」
「……ここはなラビ、君がこの世界から消えてからというもの、血を見ぬ日はないのではないかというほど闘争の渦中となっていた。初めて訪れる侵略の恐怖の前に、ネイティブと召喚者が二派に分かれて己の主張をぶつけ合っていたんだ。――そこで実査に武器を手に取り、強行な手段に出る光景も珍しくはなかった」
「……そんなことが」
「賢人と蛮族の二像が並ぶこの中央広場は、ふたつの派閥を対立させる場所として打ってつけだったんだ。実際フランキスカ殿も、これ以上の騒ぎを起こすなら街から召喚者を永遠に排除する考えもあったらしい」
俺はその話を聞いて、改めて自分が犯してしまった事態の深刻さを知った。俺が軽はずみな行動でロックイーターに挑んだばかりに、城塞都市の住人を恐怖の底へと落としてしまった。そう考えると、こうして迎えられている状況に甘んじるのではなく、いますぐ姿を消したほうが良いのではという気になり、
「――罪悪感を感じるか?」
その心中を即座に察したリズレッドが、俺が口を開く前に先行してそう告げた。
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