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「デカブツ相手じゃあ分が悪いが、その大きさなら十分にオレたちの武を振るえる! そもそもここはオレたちの街だ。エルフに命運を委ねるなんざ、領主の恥ってもんだぜ!」
「フランキスカ殿……だが……!」
心配するリズレッドを察したのか、バッハルードがさらに言葉を引き継いだ。
「安心しろ。こちらには城塞兵と召喚者から募った義勇軍がいる。このような大軍、指揮する人間がいなければその力の一割も発揮できぬだろう。俺たちはただその役割を買って出るだけだ」
「バッハルード殿……わかった、だが無茶はしないでくれ」
心からそう告げるような声音に、思わずバッハルードを吹き出した。
今までの慇懃とした態度から、血気盛んな武人へと舞い戻ったかのような、快活な笑いだった。
「はっはっは! こんな小娘に心配されるとは、俺も歳をとったものだ!」
心配するだけ無礼。
腹の底から笑い声を上げる彼を見て、リズレッドはそのような感情を抱いた。長らくギルド長として任を果たしていた男が、その滾る闘争本能を久々に解放しようと言うのだ。たとえそれが自分の命にかかわる事態であろうと、この街のために魂を燃やし尽くさんとする彼らに、もはや何が言えようか。
リズレッドはこくりと頷いて、二人の検討を祈った。
だが最後に一つだけ言っておかなければいけないことがあった。
「――だから、小娘はやめろ!」
その叫びが皮切りとなった。
リズレッドとメフィアス、エレファンティネとロックイーター、そしてマナとホークを含む大勢の義勇軍を率いたフランキスカとバッハルードは、十体の眷属を相手取る。
「『多勢に無勢』なんて甘ェこと考えてる奴はいねーだろうなァ! あっちから勝手にホームに乗り込んで喧嘩売ってきたんだ! 思う存分歓迎してやれェ!!」
フランキスカが吠えた。
その怒号を受けて後ろの兵たちが雄叫びを上げる。
眷属たちは全員が女性の姿をしており、そして各々が目を引くほど整った顔立ちをしていた。人間であればその容姿だけでいくらでも生きる道を模索できそうな彼女たち――だがそれも、腰から生えた禍々しい羽と、
「……」
虚空しか映さぬ瞳では、魅力よりも不気味さが上回る。そしてなによりも厄介なのは、鍛錬を積んだ城塞兵の剣をたやすく見切り、痛恨の一撃を見舞ってくる膂力だった。
「ぐあぁッ!?」
勇猛果敢に剣を振って挑む兵士たちが、次々と武器を弾かれ、折られ、躱されては、圧倒的な力によって鎧ごと宙を舞って吹き飛ばされる。
まるで巨人でも相手取っているかのような、種族差からなる無慈悲な現実。
「油断するんじゃねェ! こいつらは姿形は人とそっくりだが、レベルはおそらく30を超えている! お前らが相手取った過去の敵の誰よりも強いと思えッ!」
「おおオォーーーー!」
おそらくフランキスカがいなければあっという間に瓦解していたであろう集団が、大きく唸りを上げた。
スキルこそ使用していないものの、これこそが過去の革命で勝利を勝ち取った男の持つ、大きな力だった。集団をまとめ、鼓舞し、士気を昂める。強者に弱者が立ち向かう際に絶対に必要な要素を、彼は持っていた。
そしてその激は、離れた場所で巨大なロックイーターと激しい攻防を繰り広げる、一人の戦士にも届いていた。
「あーあ、やんなっちゃうなぁ」
エレファンティネは頭をぼりぼりと掻きながら、本当に困ったように呟いた。
だが、やがて口端がにやりと引き上げられると、うろんな光しか灯していなかった眼光が、鋭く尖った槍を思わせる獰猛さを放った。
「冷静沈着が僕のスタンスなんだけど、大将があんなに楽しそうに張り切っちゃ、こっちも燃えてくるよ」
それこそが蛮族の子孫特有の、純粋に戦いを愉しむ特性なのだ。エレファンティネは入隊当時、それを疎ましく思っていたことをふいに思い出した。彼は賢人の家の出であり、それまで特別に蛮族派と対立こそしなかったものの、常に一定の距離を保って人生を送っていたのだ。
しかしそんな距離を、フランキスカはずかずかと縮めてくる。見習いだったころに初めて敵のリーダーを討伐し、勝鬨を上げたたときは大変だった。その日の夜に行われた祝賀会で、髪がぐしゃぐしゃになるほど乱暴に頭を撫で回され、翌日まで痛みが残るほど肩をばしばしと叩かれたことを覚えている。本人よりもフランキスカのほうが喜んでいる有様で、その日は飲めない酒を無理やり飲まされて、盛大に撃沈した。
本当に、なんとも粗野で乱暴な領主だ。だがそれでも、エレファンティネが兵役を辞めなかったのは、フランキスカにそれだけの魅力と、真に自分を仲間だと思っている気持ちがわかったからだ。
「――そういえば、あのときもこんな緊張感のなかにいたねぇ。あの、最初に勝鬨を上げたときも」
迫り来る過去の悪夢を眼前に捉えながら、エレファンティネは嗤った。フランキスカと同じ、戦闘を心から愉しむ笑みで。
「さて、それじゃあ行きますか」
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