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だが土煙から突撃してきた俺を見て、ロックイーターは、
『……やはり生きていたかァ!』
あざ笑うでもなく、蔑むでもない。初めからそんなことはわかっていたという態度で、そう告げた。
『お前ならその程度のことはしてくると思っていたぞ!』
そう叫ぶと、奴は体をよじった。
信じられないものを見た。巨人の左腕が動いたのだ。俺に折られて使い物にならなくなったはずの腕が確かに挙動し、眼前へと迫ってきた。
「再生ッ!?」
あの攻撃を溜める時間は、同時に再生するためのカモフラージュでもあったのだと、遅れて悟った。初弾が躱されたときの対抗策を、密かに準備していたのだ。左腕を終始だらりと垂れ下げていたのも、見せつけるように膨れ上がった右腕を天に掲げたのも、全てはこの二撃目を確実に当てるための誘導だったのだ。
身がぶるりと震えた。恐怖からではない。命を賭して戦う戦士の姿に、感動にも似たものを感じたのだ。目がロックイーターに釘付けになった。立場は違えど、現実ではただの大学生でしかない俺には、その姿を尊敬に値するものがあった。……だが、
――待っている、いつまでも。だから、必ず帰ってきてくれ。
その眩しさは、彼女の残影でかき消された。そうだ、待ってると言ってくれた人がいた。約束をした。ここで勝手に釘付けにされて、殺される訳にはいかない。
その思いが激しく胸を突いたとき、咄嗟にひとつのスキルを発動していた。お前が俺を釘付けにするなら、
「《挑発》ッ!」
瞬間、瞳がないはずの奴の視線が、一気に俺へ集中したのがわかった。血走った目で他の被写体がすべて排除され、俺だけをフォーカスするような激しい視線だった。
挑発が相手の思考に干渉し、強制的に自分に注視させる効果があるのは先ほどわかっていた。ならばいま、挑発など必要ないほどに、過集中とも言えるほど注意を向けられている状態で挑発を使用すればどうなるか?
答えは目の前にあった。
もう奴は俺以外に……いや、もはや俺の全景すら映っているかわからないほど、ある一点に注視しているのがわかった。すなわち、俺の命だけを睨み据えていた。
これがフェイクの可能性もまだ捨てきれない。だがそれを確認する間などなかった。一秒にも満たない攻防のなかで未来を手繰り寄せるため、本能の閃きのように導き出した行動に、すべてを賭けるしかなかった。
俺は挑発の言葉に続けて、さらに新たなスキルを叫んだ。
「《ファイア》ッツ!!」
狙撃型ではない放射型の火炎が目の前に現れた。途端、ロックイーターが喚いた。
『ウヌォオッ!?』
奴に命中したわけではない。炎は俺の前方で展開され、誰を焦がすでもなく燃焼して消えた。だというのに奴は苦悶の声を上げた。それを聞いて、俺は手繰り寄せた策が功を奏したのだと確信する。
ロックイーターは体を痙攣させ、そこに一瞬の硬直が生まれた。
これこそが最大の狙いだった。過集中のなかでさらに撃ち込まれた挑発により、極小の一点に注がれた視野。俺はそこに灼熱の光を放出したのだ。
閃光弾ほどの光度はないが、光による威嚇など想定しておらず、ましてや血眼になった奴には、それで十分だった。光が視覚を灼き、伝達神経を麻痺させたのだ。そしてそこに、俺の最後の勝機があった。
「ウォォオオオオオオオオッツ!!!!」
時間限界が迫る疾風迅雷を駆使して走った。速く、速く。この最大の勝機が終わる前に。未来への扉が閉まらないうちに。もっと疾く。
そして巨大な奴の体を剣戟距離まで捕えると、ありったけの力を込めて叫んだ。
「ストライク……ブレイクァァッァッツ!!!!」
疾風迅雷の加速とストライクブレイクの瞬発力を加えて地を蹴ると、体が投擲槍の撃ち飛んだ。ブラッディスタッフを強く握り、勢いのまま突き上げた。 ――果たして俺の攻撃は、
『ッッ!!!?』
ついに命中した。
驚嘆の声とともにロックイーターの胸が削れ落ちた。
目が眩んだ一瞬の隙が、俺と奴の運命を分けたのだ。ふたつのスキルでのバフに加えて、さらにMNDを攻撃力に変えた一撃が、巨人の胴体を穿ったのだ。
『バ……カ……な……!?』
信じられないという声音でロックイーターが唸った。
自壊覚悟の攻撃を放ち、それすら撒き餌として使う慎重に慎重を期した攻撃。だがそれすら跳ね除けて、自らが討伐されたという事実に、ひたすら驚愕している様子だった。
奴は、本心では俺に負けるなど想像だにしていなかったのだろう。しかし、それも無理のないことだ。レベル差で言えば倍以上のひらきがある以上、本来そこに敗北など生まれる筈がないのだ。先ほどの俺の暴走がなければ、いまのストライクブレイクすら大したダメージを負わせることなく終わっていただろう。それでも、俺が奴の命を削り取った事実は変わらない。
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