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「殺す……殺してやる……絶対殺してやるぞラビッ!!」


 奴はまだ生きていた。しかも追い詰められたことにより先ほどまであった余裕が消え、隠しようもない醜悪さを露呈していた。狂ったように『殺す』という単語を繰り返す彼に、先ほどほんの少しだが感じた武人の片鱗は、もう消え失せていた。今、目の前にいるのは、思い通りにならないと駄駄を捏ねる一人の子供だった。ただし手には俺の命に届く凶器を握っているのがタチが悪い。あまりの身勝手さに怒りよりも呆然さが先にきて、


「……情けないな、レオナス」


 つい本音をそのまま口にしてしまった。


「ああん!?」


 それに対し、唾が飛ぶほどの剣幕で食ってかかる彼。確かに力は目を見張るものがある。だが精神が全くそれに追いついていなかった。


「この世界でネイティブと正しく接していれば、強さに見合った気持ちも手に入れられたかもしれない。だがお前はそれを拒んだ。力だけを欲した。それがお前の敗因だ」

「言ってくれるじゃねェか! じゃあ証明してみろよ! お前が俺より強いってよォ!」

「なんでそこまで人を支配したがるんだ」

「俺はなァ……人を支配する側に立ちてェのさ。支配される側になったらおしまいなんだ。もっともらしい理由をつけて、永遠に搾取され続けからな。俺はそれを親父から……いや、この話は関係ねェか。……とにかく、俺は搾取する側に周る。誰にも脅かされない力を手に入れてな! 1億ドルは俺のもんだ! ラビ、お前みたいな良い子ちゃんには渡さねェ!」


 頭を掻きむしりながらそう告げる彼。それは歪んだ心情の吐露に他ならなかった。彼が現実世界でどのような境遇なのかは、今は想像することすらできない。だが向こうの世界で与えられた屈折を、この世界で晴らしているのは明らかだった。1億ドルという大金が、その歪な精神を加熱させる燃料となっていた。

 俺はそんな奴を見て、正面から迎え撃ちたくなった。そんな歪みのはけ口でリーナを怖がらせ、おそらく他のネイティブにも危害を加えているだろう彼を、真正面から叩き落としたいと思ったのだ。


「お前と話しても、もう埒が明かないな。いくぞ、ここで決着をつけてやる」


 杖を構えてそう宣言する。


「……ハ! 威勢が良いじゃねェか。良い子ちゃんって言われたのがそんなに気に食わなかったかァ?」

「別に、ただお前とはとっとと話を切り上げたくなっただけだ。それに……」


 ――俺は『良い子ちゃん』と呼ばれるような人間じゃない。


 昨晩のリズレッドとの、自分勝手な行いが招いたいざこざを思い出して、思わず苦笑いをした。


「……それになんだよ? つーかなに笑ってやがんだオイ!」

「……いや、なんでもない。さあ、もう始めよう。俺も早く向こうに加勢しないといけなくてな」

「おいおい、もう俺様に勝つ気なのかよ」

「ああ」

「……チッ」


 それを皮切りに、少しの間断が訪れた。

 竜蟲に備えてMPは温存したい。攻撃が奴に有効打を与えられることは先ほど確認できたので、できることなら物理のみで勝負を決めたかった。

 握る杖に力を込めて、俺は大地を蹴った。


「いくぞ」


 最初に動いたのは俺で、それに次いでレオナスも走った。お互いの距離が近づくにつれ緊張が増し、擬物の体が汗で滲むような錯覚さえした。

 お互いが間合いに入った瞬間、先に攻撃を仕掛けたのはレオナスだった。装飾顕微な剣が俺を真っ二つにすうために横に一閃し、それをスライディングして避けると、勢いを殺さずにそのまま奴の懐まで入った。


「はァ!」


 真下まで移動すると片膝をつき、杖を勢いよく突き上げて相手の胴体を狙った突攻撃を放つ。だがそれを読んでいたレオナスは後ろに飛んで寸前でそれを交わす。


「しまッ!」

「遅ェ!!」


 飛びすがら、奴が二度目の斬撃を飛ばす。突き上げた状態から次に移れる動作は少ない。俺は全くの無防備で迫る刃を受け入れるしかなかった。


「ッ!!」


 低い姿勢だったため狙いが浅かったのか、不幸中の幸いで真っ二つに切断されることはなかった。だが斬られた胴体に横一筋のレッドエフェクトが表示される。HPバーも三分の一ほど削られてしまった。


「くそ、一度後退を……」


 一瞬過ぎる後退策。だがそれは、エルダー城で俺がバーニィに行った失策を、再び行う行為に他ならなかった。退くとわかった状態で退かせるほど、奴は甘くはない。ならば行動はただ一つ、前進のみ。膝立ちから直立姿勢へと飛び戻ると、すぐさま奴と再び対峙した。


「ハハッ! いいねェ!!」


 笑うレオナスに対し、俺にそのような余裕はなかった。どうすれば奴に攻撃を当てられるかを考え、結論を出す必要があった。それも再び交戦するまでの、この短いコンマ数秒の間に。そして導きだされた解答は――


「いくぞレオナス!!」

「来いラビィィイ!!」


 互いの獲物が振り抜かれ、弧を描いた。そして、

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