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「……ん? 報酬金までもらっちゃっていいんですか?」

「それだけ《ロックイーター》の討伐には価値があるということです。支部長もこのギルドを治める身。たとえ罪人に対してでも、公正な依頼書を交付しなければ、信用が落ちると思ったのでしょう」

「なるほど……」


 あのバッハルードという男には、強い信念を伴う独特の迫力があった。

 それがギルドという大組織を任される人間の責任なのだと思い至り、今回の一件が本当に特例なのだと再確認する。


 だがここにきて、俺はとある重大な問題をもうひとつ抱えていることを思い出した。

 この問題を解決しなければ、《ロックイーター》どころか、他のどんなクエストも達成できないだろうと確信すら持てる、大きな問題点を。


「……なあクラウド。ここら辺で安く武器を提供してる店を知らないか?」


 そう、俺は今日のゴーレム戦で《ナイトレイダー》を破壊されてしまったのだ。


「いや、俺も今日この街に来たばかりだしなあ。というか《ナイトレイダー》はどうしたんだよ?」

「この通りだ」


 鞘から剣を抜いて、無残に折れた黒剣を彼に見せる。


「うわぁ……派手にいったな。そこまで折れちまったら、修復とかいうレベルじゃない……買い替えどきってやつか」

「だよなあ……でもこいつのアビリティはかなり重宝していたから、新しく買い換えると言っても……」

「あー、MNDを攻撃力に変換するアビリティだったか? たしかに、非力なお前にはうってつけの武器だもんな。俺は基本、大剣ばかりだから貸すこともできないし、どうしたもんかな」


 非力と言われると物申したい気もするが、剣士の彼に言われてはその通りだと返すしかない。

 大剣マニアの彼なら、もうこの街の武器屋をチェック済みかと思ったのだが、当てが外れてしまった。


「あのぅ……」


 腕を組んで考え込む俺たちを尻目に、ロズがおずおずと手を上げた。

 二人同時に彼女に振り向き、それに少し戸惑ったように目線を泳がせたあと、彼女はとある提案を俺たちに示す。


「アビリティの継承を行える付術師なら、こちらに伝手があります。宜しければご紹介いたしましょうか?」

「付術師……ええと、アイテムに付与されたアビリティを、違うアイテムに移動させることができる職業……でしたっけ?」

「はい、その他にも特定の素材をもとに、新たなアビリティを創造したりもできますね」

「え、そんなこともできるんですか? ……知らなかった」

「ふふ、神託される方が少ない職業なので無理はないです。代金は高くつきますが、その分、自分に見合ったアビリティを整えられますよ」

「代金……かあ」


 俺の手持ちは、長旅と今回の不運ですでに悲鳴を上げていた。

 今日の宿泊代はなんとかなるが、明日は屋根のない場所で野宿ということも、十分に考えられる状況なのだ。そんな中で高額な対価を求める付術師に仕事を依頼するなど、無謀とも言って差し支えないだろう。

 リズレッドに渡したドロップアイテムの中に、高額なものが混じっていたのを願うばかりである。


 だがそこで、俺は換金できそうなアイテムを所有していることに気づいた。


「ひょっとして、これ売れますか?」


 そう言って取り出したのは、アモンデルトとドラウグルからドロップしたアイテムたちだ。


 《アモンデルトの歪羽》《魔人の魂欠》《インテリメガネ》《愚者のブーツ》《醜悪な黒角》《???》×2


 この一年で、このアイテムたちが特になにかのキーアイテムである可能性が低いことはわかった。いつか売ろうと思っていたのだが、日々の旅路に忙殺されて、鞄の奥底で眠らせていたのだ。


 インテリメガネや愚者のブーツなどは高レベルの冒険者が装備する、それなりに高価な品なようだが、あまりにもリズレッドのトラウマと深く関わりすぎており、とても身に着けることができなかった。


 というか《???》に至っては、未だにどのようなアイテムなのかわからない。見た目は手のひらに収まるサイズの黒い宝玉で、《鑑定眼》を使っても、全く情報が表示されないのだ。


「こちらは《ブラックアイテム》ですね」


 ロズがその宝玉を手に取りながら、さらりと答えた。


「《ブラックアイテム》?」

「はい。高位の《鑑定瞳》を使用することで封印が解けて、中が確認できるようになるアイテムです」

「この小さい玉の中にアイテムが入ってるんですか?」

「ええ。ですが中から出てくるものが、同じく小さいものとは限りませんよ。物体の大きさを無視して宝玉に格納されていることも多いでから」

「まるっきり魔法ですね……まあ、この世界ならではってことか」

「? どういう意味ですか?」

「ああ、いえ、こっちの話です。……それで、この《ブラックアイテム》は、高く売れそうですか?」

「うーん……これは中身がわからない宝箱のようなものでして……博打好きな人間になら売れないこともないですが、それほど高額にはならないかと……」

「……そうですか……」

「あっ! でもこちらの装備品は素晴らしい品質ですよ!」


 落ち込んでいる俺を見かねて、《インテリメガネ》《愚者のブーツ》に《鑑定瞳》を使用したロズが、ぱんと手を叩いて賑やかす。


「どちらもレベル30から装備できるアイテムのようです。付与されているアビリティも申し分ないですし、これなら適切な場で売れば、ひとつ十万Gにはなりますよ!」

「そんなにですか! 良かった、それなら付術師の方に仕事を依頼……できますよね?」

「そうですね、五万も見積もっておけば、受けていただけると思いますよ」

「そうですか、助かった……」


 つまり付術師に仕事を依頼しても、十五万は手元に残るということだ。それだけあれば、それなりの武器を見繕うこともできる。

 少しだけ運が上向いてきたのを感じ、思わず笑みが溢れる。

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