33

 EXP +1200

 G +5000

 アイテム 《バーニィの首飾り》獲得

 LvUP 15 → 16


《ストライクブレイクLv1》を習得しました》


《ストライクブレイク》

 発動時間:即時

 再発動時間:60秒

 射程距離:6メートル


 効果:

 相手の間合いに一瞬で入り込み、すさまじい威力の突攻撃(剣)をおこなう。



「……は……はァ……はァ……」


 肩で息をしながら、俺は自分が切り落とした首を、じっと見つめた。新しく習得した《ストライクブレイク》は、バーニィが俺に対して放った、高速の突撃剣だろう。あの凄まじいスキルを継承してくれた兄弟子の最後を、せめて目に焼きつけようと思った。

 床に落ちた首は、同じように俺を見ていた。だがその双眸に先ほどまでの虚無の闇はなく、ステンドグラスから落ちる月明かりに、淡く照らされていた。


『アトヲ……タノ……ム……』


 声ははなかった。だが唇の動きで、確かにそう伝えてくるのがわかった。 

 彼はそれで満足したのか、そのまま動かなくなってしまった。今度こそ本当に、彼は人としてあの世に還れたのだ。


「……バーニィ」


 戦闘が終わったことを確認すると、リズレッドが寂しい表情で、ゆっくりと彼の首へ歩み寄った。

 亡骸の前で膝を折って故人を悼むと、持ち上げて強く抱いた。


「すまない……私が不甲斐ないばかりに……お前はあんなに、私の特訓についてきてくれたのに……それを……こんな最後で……」


 涙を押し殺し、必死に謝罪した。心の底からの懺悔だった。今、彼女の脳裏には、彼が騎士団に入ったときから壊滅するまでの、輝いたていた日々が流れているのだろう。もう二度と戻らない、遥か遠い輝きが。


「バーニィさんは、リズレッドのことを恨んでなんかいなかった」


 きっとそんなことはわかっているのだろう。だが言いたかった。『あとをたのむ』と託してくれた彼のためにも、かけられる言葉は、全てリズレッドに伝えたかった。

 それを聞き「ありがとう」と、小さく呟いた彼女は、首をステンドグラスの前に置き、胸に手をあてて祈った。


「女神アスタリアよ。今、あなたの子が天へと戻りました。どうかその御心で、彼の魂に安らぎの救済をお与えください」


 しばらく黙祷し、振り向いたとき、リズレッドの顔にはもう悲しみはなかった。


(――強い)


 本心からそう思った。共に苦楽の日々を送った仲間の、不幸の死を前にして、弔い、願い、再び前を向く。

 並みの人間では膨大な時間がかかることを、彼女はこの一瞬で、すべて終わらせたのだ。

 《スカーレッド・ルナー》という二つ名を改めて思い起こした。その名前からは、強い意思が燃え盛り、剣を振るう騎士が想像させられる。きっと彼女は本来、そういう女性なのだ。故郷が滅びるという一大事がなければ、俺など歯牙にもかけない強い人なのだ。そう思うと、自分はリズレッドの弱った心に漬け込んで、今の関係を築いたような気がして、情けなくなった。

 だがその思いは、ひとまず棚上げすることにした。まずは一勝だ。少ないが、確実に彼女に近づいている。今はそれだけで十分と考えるべきだった。

 リズレッドに歩み寄ると、そんな俺の決意を察したのか、とても母性的な顔をしながら、


「よくやったなぁ、えらいぞラビ」


 と、まるで子供を褒める母親のように言った。

 先ほどの仕返しなのだろうか、頭にポンと手を置いてそう告げられ、一瞬で顔が真っ赤になるのがわかった。


「――ッ!!」


 この年でこんな褒められ方をするのは恥ずかしかったが、成果を賞賛してもらえるのは、素直に嬉しい。


「まだまだ、師匠には追いつけないけどなー」


 苦し紛れに言うと、彼女はくすりと笑ったあと、


「こんなに早くに追いつかれたら、流石に困ってしまうよ」


 と笑った。そこで唐突に理解した。バーニィさんも、生前はこういう風に褒められて、いつか肩を並べる日を夢見て、剣を振るい続けたのだと。

 なので俺はその夢を引き継ぐと決めた。彼を斬った俺が願いを成就させ、天にいる兄弟子に少しでも胸を張りたくなったのだ。


「あ」


 そこで一つ思い出した。彼を倒したときにポップした《バーニィの首飾り》のことだ。


「これ、彼が落とした物なんだけど、知ってるか?」


 ポップしたアイテムは、余程大きな物でなければ自動でバッグに格納される。俺は腰の後ろに装備されたそれをまさぐり、取り出してリズレッドに見せた。

 金色のチェーンと、本体に女神アスタリアの微笑んだ横顔で彫刻された一品だった。


 リズレッドはそれを見て、遠い過去を懐かしむように語った。


「それはバーニィが入団してすぐに、私が渡したものだ。未熟なのにあまりに無茶ばかりする奴だったのでな、女神アスタリアのもとに、何の成果も残せぬまま還るつもりかと、注意の意味を込めて贈ったんだ」

「そうだったのか……」

「もう随分前なのに、まだ付けていてくれたのだな……」

「……これ、俺が貰ってもいいか?」

「……ああ、いや、むしろラビが付けてくれ」

「……リズレッド……」

「お前もバーニィと同じく、見ていて危なっかしいからな」

「そりゃないだろ!?」


 そう言って俺は首飾りを装備した。《鑑定眼》を使用したが、特に何かあるわけでもない、普通のペンダントだった。

 だがこれに込められた思いは、きっとリズレッドと俺を助けてくれる。そんな気がした。

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