おとこのこめをさましたんだぁ!

 話がそれなりにまとまったというところで、シンは戸惑いだす。

 俺もまた、そう言えばと思う。シンをどうしよう。

 帝国の崩壊後、まあ、残党とはいえ、戦闘部隊。

 危険な目に遭うかもしれないし。

 このまま、この村で大人しくしておくのが吉だろうが。

 「……シンはどうする?」 

 俺は、一同に聞いてみた。

 「……普通、私なら、危険な目に遭わせたくないってするけど?」

 マフィンは、その通りな答えを言ってきた。

 「……だそうだけど、シンはどう?」

 俺は、シンに向き直って、聞いてみた。

 「……う……。僕は……。」

 困惑の表情はそのまま、また、言葉を詰まらせていて。 

 「……行きたい。」

 紡ぐ。

 「……。」

 「……。」

 「?」

 聞いていて、俺とマフィンは、沈黙。アビーは相変わらず、首傾げ。

 「……シン。あなた、危険なことは承知?」

 俺も思っていることを、マフィンは真剣な眼差しを向けて問う。

 この先には、どんな危険が待ち受けているのか、分からない。

 俺たちが同行するからといっても、安全とは限らない。

 「……。」

 シンは、何も言わず、分かっていると頷く。

 「……。」 

 マフィンも、何も言えない。

 「……本当は、怖い。でも、逃げ出したくない!だって、僕は王子なんだ、将来は父さんの後を継いで、王様になるんだ!だから……。」 

 それだけでは、多分不安だ。

 せめて、不安をなくしたく、シンは続けてくる。

 その表情は、子どもらしい顔の裏に、流石王族というような、雰囲気を抱き。

 「……ふぅ。ま、止めないわ。」

 マフィンも、頑として止める、というわけでもない。

 また、シンが見せた、真剣さを、ちゃんと受け止めている。

 なら、自分も、とシンの目線に腰を落としたなら。

 「……私も、大和も、アビーも、全力を尽くすつもり。けれど、もし危険だと思ったら、自分で率先して、安全な場所に隠れて、ね?」

 「!うん!」

 マフィンは、シンに約束を言ってくる。

 聞いたシンは、大きく、同じく真剣な表情で頷く。

 「分かった。では、遅くなったけど、準備しましょ。私は、町に行って、軍関係者に当たってみるわ。」 

 マフィンは、そんなシンに、にっこりと微笑んで。

 最後、立ち上がり、やっと準備の話をした。

 その矢先のこと。

 「きぇええええええええい!!荒獅子!!!」

 「?!ぎゃわわ!!!ば、ばっちゃん?!な、何?!お、俺悪いことした?」

 「……。」 

 「……。」

 外から、怒号が響いてきて。

 最初のは村長さんらしいが、次のはどう聞いても、レオおじさん。

 何かしでかしたとか、分からないけれど。

 結果として、空気が変わり、静かになってしまう。 

 マフィンは、何だか複雑そうな心境だ。

 「夜中にわしの夢に出て、吠えまくったじゃろうがぁ!!」

 「?!はぁ?!何のことだぁ?!俺ぁ昨夜、普通に寝てたぞ!寝言やいびきはかくかもしれんが、そも〝獅子王の咆哮〟なんて、寝ぼけ眼でできるかぁ!」

 「……本当じゃろうな?」

 「……ばっちゃん。言いたかないが、俺って、他の人の夢に干渉するってことできたっけか?」

 「……。」

 まだ続く。

 どうも、村長さんの夢の中に、レオおじさんが出てきて。

 咆哮したことが原因のようだが。 

 八つ当たりに近い。昨日のことが原因で、夢の中に登場したと見るべきだ。

 レオおじさんは、ついでに弁解も述べる。

 証明に、自分が持てる能力について、言っていた。

 耳にした村長さんは、押し黙ってしまう。

 「そんな器用なことできたら、今頃ウィザードでしょうが。あたしが見る限りそんなことないし。」

 「?!か、母ちゃん……。うぅ……。もう少しソフトに言ってくれよぉ。」

 「!エルザおばさん?」

 傍らに、エルザおばさんがいるみたいで。フォローを入れている。

 ……が、らしいや、ちょっときつめ。レオおじさんが、弱々しく言っていた。

 「……ふん!じゃろうな。じゃったら、あれか。昨日のやつの残りか。どうやら、わしの耳奥にまだ、残って折るようじゃ、ぬしの咆哮が。」

 「!が、がははは……。多分それ。ご、ごめんよぉ……。」

 「よい。わしもわしじゃ。それじゃ、わしは中へ帰る。すまんかったのぉ。」

 「……がははは。いえいえ……。」

 「……。」

 終わったらしい。こちらに、家に向かう足音が聞こえてくることから、どうも村長さんが帰ってきているらしい。

 「マフィン!」

 「!……は、はい!」

 玄関に着いた早々、村長さんはマフィンを呼ぶ。

 言われるがまま、マフィンは玄関に向かうため、こちらから姿を消してしまう。

 「荒獅子がぬしに要件がある、ということじゃ。通すぞ。」

 「……あ、はい。」

 村長さんが、告げることは、マフィンへの客だと。

 レオおじさんを紹介しているようだった。

 マフィンは、頷いたようだ、そんな声が聞こえる。

 その後、微かな足音が聞こえたが、やがて、消えるように聞こえなくなった。

 同時に、村長さんの気配もなくなる。

 「……。」 

 静かにして、ついその気配を追おうとしても、やはり見つからない。

 どこに行ったか分からないことから、疑問にやはり、首を傾げてしまう。

 「!」

 その替わりとして、どかどかと荒っぽい足音が響き渡り。

 どうやら、レオおじさんのようだ。

 「うっ?!」

 遅れて、マフィンの足音がってところで、気まずそうな声を上げる。

 「?」

 何事と思いつつ、耳をすませば。

 「!!」

 聞こえてきたのは、沢山の、子どもたちの声。

 「……。」

 俺は、予想される騒がしさに、押し黙り。

 マフィンにとっては、昨日の記憶、リフレインか。

 最後にも、足音があり。

 複数の様々な足音。

 一人は、荒っぽさもあり、静かでもあり。

 エルザおばさんのようで、他は、まばら、よく分からない。

 そうであっても、レオおじさん、子どもたち、エルザおばさんと来たなら。

 他はつまり、レオおじさんの他の奥さんたちだ。

 一家総出?

 「!」

 その通りである。

 広間に通されたからで、レオおじさん一家全員が、眼前に現れた。

 見ていたとはいえ、こうも総出だと、圧巻、俺は言葉を失ってしまう。

 「って、皆……どうして?」

 頭を振って、言葉を取り戻して聞くことには。

 「それは……。」 

 「?」

 レオおじさんが、答えようとするものの、途中で区切り。

 かつ、にんまりと笑い、視線をエルザおばさんに、向ける。

 何を考えているのだろう、そう思ってしまう。

 「これだよ!」

 話を振られたエルザおばさんもまた、同じように笑ったなら。

 背中に隠していたであろう物を、体の前に差し出してくる。 

 同じく、他の奥さんもまた、同様に。

 「!」

 それは、丁寧に風呂敷に包まれた、お重のようだ。

 なお、大家族仕様のものらしく、大きく。数があることから、総容量は莫大だ。

 「これは……?」

 そう気付き、巨大さに圧倒されながらも、聞くと。

 「お昼ご飯。それとさ、マフィンちゃんに、ちょっとしたお礼。ほら、昨日、世話になっただろ?」

 「!」

 エルザおばさんは、にこやかに答えた。

 その言葉に、はっとなり。

 それは、マフィンも同じようだ。

 「!エルザおばさま……!」

 マフィンもまた、エルザおばさんの言葉に、言葉を失っていて。

 もちろん、注目していた、お重の大きさに、もあるが。

 「……。」

 そのままながら、マフィンはそっと、だが、呆れたように笑みを浮かべる。

 「!!あーっ!昨日の……男の子!!起きたんだ!!」

 「ほんとだー!元気ー?ねぇ!」

 「!!」

 広間に進む内に、気付いたか、子どもたちが声を上げて。

 自身の母親の陰から顔を出し、指さしては、喜びに笑い声を上げる。

 耳にしたシンは、その大勢の圧力に、身を退いてしまう。

 「!」

 エルザおばさんは、シンの様子に気付き。

 かつ、子どもたちに圧倒されていると気づいたなら。 

 「!お前たち。あんまり驚かすんじゃないよ!」

 「「う~?は~い!!」」

 子どもたちを宥める。 

 いつもはそれぞれバラバラに、それこそ喧しいと思うほどの子どもたちだが、この時は素直に、揃って返事をした。

 子どもたちが静かになったと思ったら。

 エルザおばさんは視線をシンに向けてそっと微笑む。

 「……目、覚ましたんだね。よかったよ!子どもを見ると、つい自分の子供のように思ってしまってね。あたしも、心配しちゃったよ。」

 「!……は、はい。ご、ごめんなさい。……迷惑かけちゃって。」 

 言うことには、心配をしていたと。

 また、言いながら、視線をそっと、自分の子どもたちに向けて。 

 慈悲深く、笑みを漏らし、そっと、頭を撫で回していく。

 それは、昨日のエールだろう。

 子どもたちが送った、沢山のエール。

 きっとそれが、シンを目覚めさせるきっかけに、なったに違いない、と。

 そのエール、シンに届いていたか分からないが。心配かけたことに、シンは、先ほどとは一転して、申し訳なさそうにして、頭を下げる。 

 「!なはははは!大人しく、真面目な子だね!いいよいいよ!そんな顔しなくてさ!言ったろ?自分の子供みたいだって!これは、あたしの気持ちさね!」

 「?!わ、わわっ?!」

 そんなシンに、エルザおばさんは豪快に笑って。

 シンを抱き寄せたなら、髪をぐちゃぐちゃになるほど撫で回した。

 シンは、そんな突然なために、思わず目を丸くし、顔を赤くして。

 されるがままに、頭を撫で回されていて。

 「……。」

 マフィンもアビーも、そんな様子、遠くから優しく眺めていた。

 「……さ!折角料理持って来たんだ、お腹減っているだろ?坊や……、ええと名前は……。」

 「!……シンです!」 

 「そうか。シンか。じゃ、シンちゃん、何も食べていないだろう?用意、するからね。」

 「!」

 一しきり、撫で回したなら、シンを開放し、向き直っては聞いてくる。

 その際、名前を知らなかったが、聞き、復唱しては、早速と立ち上がる。

 エプロンを締め直したら、食事の準備を始めるつもりだ。

 「!お昼ー?やったー!!」

 「わーい!」

 エルザおばさんがそういう行動を示したなら。 

 子どもたちも勘付き、一斉に飛び跳ねだす。

 「?!ゆ、揺れる?!」

 一斉に飛び跳ねたがために、家中が一斉に揺れて、つい、声が出てしまう。

 「わーい!お昼ー!!!!」

 「……あ、アビー……。」

 傍ら、アビーもまた、笑顔で飛び跳ねて。

 それも、子どもみたいなはしゃぎよう。

 だが、相当な能力があるために、その衝撃は凄まじく、揺れ方は大きい。

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