おふろあがりにびっくり!

 子供たちの騒がしくも楽しげな声が終わったなら、次は俺と、レオおじさんの番となる。

 「!おっし。行くか。」

 「!あ、はい。」

 レオおじさんは立ち上がり、にっこりと笑って俺の肩を叩き、催促してくる。

 俺もまた頷いて、立ち、レオおじさんに続いた。

 脱衣所に来ると、洗濯物の多さに、言葉を失う。 

 大家族なだけはある。

 洗濯物が山積みになっている場所に、見え隠れする籠の一部から、多さを物語る。

 洗濯物を出すのに、何だか申し訳なく思えてくる。

 「おうおう!気にせんでいい!ほら、そこ。アビーの服もあるだろ?」

 俺が戸惑っていると察したレオおじさんは、気にしなくていいと言い、ついでに指もさす。 

 その向こうにあるのは、無造作に置かれた、アビーの服。

 結構躊躇なく出していることから、性格をも感じ取れるほどだ。

 「……。分かりました。」  

 他人にお世話になること事態に戸惑いはあるが。

 息を呑み、俺は自分の着ていた服を脱ぎ、洗濯物の山に入れて。

 浴場に足を進めていく。

 後から、レオおじさんも続いてきて。 

 「!!」

 俺はちらりと見た、レオおじさんの姿に息を呑む。

 服からでも分かる、筋肉質な体形は、露になった際、より際立って。

 「……。」

 何だか、比べると俺の肉体が、貧相にさえ思えてくる。

 「!……がははは。気にすんな!お前さんはお前さんのいい所があんだから、な!」

 「!……あはは。」

 俺の考え何て、簡単に察された。レオおじさんは、笑い飛ばしてくれる。

 釣られて俺も、笑みを漏らした。

 さて、男同士二人で入ることになった浴場。

 大きな、木を組んで作られた浴槽は、お湯を沢山に湛えてはいるものの、子供たちの暴れっぷりを想起させる、辺り一面に、むやみやたらに一部は飛び散っていた。

 浴室、浴槽共に広いが、大人数だと狭いな。

 「おっし!大和!背中洗ってやる!」

 「!あ、はい!」

 浴室を見ながら、思い巡らせていたなら、レオおじさんが椅子を持ってきて、座っていいよと指示し。

 俺は、頷いて、遠慮せず座り、背中を向ける。

 「んじゃ。始めっか。」

 後ろでスポンジタオルを泡立てたなら、レオおじさんは言って、俺が向けた、背中にあてがって、擦りだす。

 「?!い、いててて?!」

 有難いが、……力が強すぎた。感じる痛覚に、思わず悲鳴を上げてしまう。  

 「!うぉっと。……すまんすまん。子供たちにするみたいに、やってしまったぜ……。」

 「……い、いえ。大丈夫です……。」

 入れ過ぎたと、レオおじさんは謝ってきて。俺は、大丈夫だと言う。

 「……!……。」

 それならばと、レオおじさんは力を緩めて、擦り。

 強い押しを感じるが、痛くはなく、安堵し、背中を預けて。

 それから擦っている最中、無言だが思っていることもある。

 子供たちには、俺が痛みを感じるほどの力加減でやっていたのか。

 そう思うとレオおじさんの子供たちは、見かけによらず、頑丈なのかもしれない。

 背中洗いが終わったら、今度はレオおじさんの番に。

 入れ替わりで、レオおじさんが椅子に座り、背中を向ける。

 「!」

 同じように、スポンジタオルを泡立てて、背中を見ると、その筋肉の付き具合に、また息を呑む。

 その背中は、背の高さは元より、筋肉により、さらに大きく見え。

 また、不思議なこともある。 

 レオおじさんの前面は、主に夫婦喧嘩ではあるが、傷跡が多くあるのに対し、背中には見受けられない。

 それは、……生きていて、色々あったけど、背中を向けたことはないという、現われか?

 「?おい、どうした?」

 「い、いえ……。」

 見とれていたら、レオおじさんが声を掛けてくる。

 俺は、言葉詰まらせながらだが、続けるつもりで。

 「……その、レオおじさん。背中、きれいですね……。」

 そう言葉を紡いだ。

 「がっははは!俺を口説いているのか?そういうのは、アビーちゃんにでもしてやれよ!……って、まあ。そういうわけでもないか。」

 「……あ、はい。何でだろうな、って。」

 聞いたレオおじさんは、最初肌の綺麗さを言われ、口説いているのかと笑い飛ばすが、そうではないという意図を汲み取り、最後、言葉を変える。

 俺は追うように続けることは、何でだろかの疑問で。

 「……。それはな……。」

 レオおじさんは、俺の質問に答えるようで。

 意味深な表情をしながら言葉を紡ぎ出す。

 「……野獣相手に、背中向けたらダメだろ?血気盛んな相手だ、背を向けたら即襲われる。……だからさ。食い止めるためにも、俺は背を向けずに戦ってきたそう言うことだ。がははは。」 

 「……なるほど。」

 紡ぎ出された言葉には、勇気さえ感じるもので。 

 村を守るために、背を向けず戦ってきた。

 そういう、ある意味、英雄とは何たるか、言葉もそうだが、背中までも語る。

 格好も、よく見える。

 「……ん?」

 見えた所で、ふとした疑問、いや、齟齬を感じて。

 アビーから聞いた話だと、古傷の多くは、エルザおばさんとの喧嘩でついた、ということだったけど……。

 「……立ち向かってきたから、背中に傷はないのは分かりましたが。その、前面の古傷は……?」

 「!!!」

 その真相はと、俺は聞いてみて。

 すると、一転して、身震いし、背筋を強張らせる。

 「うぅ~。古傷がぁ~……。」

 「!す、すみません。いらないこと聞きました……。」

 「い、いやいいんだ。」

 冗談かどうか知らないが、腕やら肩にある傷跡に手を添えては、何だか痛そうにして。

 その様子は、先の誇らしい大男とは反対に、怯えている様子で。

 俺は、聞かなかったことにしようとするものの、レオおじさんは続けようとする。

 首を後ろに向けて、怯える瞳をこちらに向けながら、口を動かして。

 「笑わない?」

 「……大丈夫です。」 

 最初、笑わない?と聞いて来る。俺は、大丈夫だと、聞き入って。

 「……おk。この、これらの傷はな、こんな俺でもおっかねえ生き物から付けられたもんだよ。」

 「……はぁ。」

 紡がれ始める、言葉。生返事ながら、相槌打って。

 「……野獣なんかよりも、怖い。……そうだよ。母ちゃんさ。」

 「……エルザおばさんでしたか。」

 その正体を告げたなら、レオおじさんは両腕を組み、身震いして。

 知ってはいたが、合わせて俺は、納得し。

 「……その、ええと。じゃあ、話題変えましょう。楽しくなる話題とか。」

 この件はもう終わった。

 なら、話題を変えて、折角汚れ落としと、温まりに来ているんだ、もっと、良いものをと俺は提案する。

 「!ああ、そうだな。……さて、何がいいかな。」

 レオおじさんも、気を取り直して、話題を考える。

 その間俺は、背中洗いをして。

 思いついた話題に、相槌打ちながら。

 時に笑い、その後のお風呂タイムを満喫した。

 

 お風呂から上がり、二人とも服を着る。

 湯気をも纏い、広間に向かうその最中にて。

 「おおっと!大和ちゃん!あんたもなかなかやるね!」

 「?!はっ?!」

 広間の入り口からエルザおばさんが顔を出し、にやりと笑みを浮かべては、気になることを言ってくる。 

 何のことやら分からず、驚きの声を上げた後、首を傾げて。

 ……さて、その真意知るのは、入ってからで。

 「ほっ?!」

 広間に入ってから俺は、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 広間に戻っていきなり目についたのは、アビーで。

 だが、服装がおかしい。俺が与えた服だが、下はショートパンツ、きちんと履いているものの、問題は上で。

 アビーはなんと、ブラジャーを付けてはいるものの、貸した服は、ボタン止めシャツだ、その胸元を広げて、良く育った大きな胸を晒していたのだ。

 そんな情景見て、俺は顔を赤くしてしまい、かつ、しまったとも思う。

 アビーのバストサイズを考えていなかった。

 以前、アビーから服を借りた時、下はともかく、上は結構余裕があり過ぎて、ガバガバだった。

 貸した服は、マフィンの採寸により、俺に合わせたもの。

 当然、サイズ違いになる。

 「!あ、大和ちゃん!お帰り~!服ありがとね!」

 「!!あ、ああ……。」

 俺が登場したことに気付いたアビーは、第一声として、お帰りと、感謝を述べて来て。

 そこには、服のサイズ違いなんて、気にしている様子は感じられない。

 俺は、赤面のままのため、しどろもどろになりながら、返事をする。

 「?」

 今日もまた、いつになく続く変な様子に、アビーは首を傾げて。 

 「……えと……。」

 状況的に、目のやり場に困る。

 変に緊張しながら、言葉を紡ごうと口を動かして。

 「……アビー……。その、服のサイズ合ってなくて、ごめん。何だか、変な感じになってさ……。」

 そう伝える。

 アビーは、一瞬理解していない様子を見せ、首を傾げたが。

 理解したなら、顔を明るくして、にっこりと笑みを返す。

 「ううん。いいよいいよ!あたし、気にしない!工夫したら、ちゃんと着れるもん!胸は窮屈だったけど、開けたら楽になったし、こうすると、いつもより何だが涼しいの!」

 そんな俺に、やっぱり気にしていないと返してくれて。

 それ以上に、俺の行いが嬉しかったのだと。なお、そこから窺い知れることには、……自分の胸が曝け出されていることを、気にしていないという感じ。

 ……思うところ、色々あるけれど、この言葉でまとめられる。

 アビーらしいや。

 「なははは!そこら辺気にしないとか、この子も大物ね!さすがは、あの時、帝国に行くことを買って出ただけはあるわ!」

 「……ははは……。」

 アビーのそんな様子を遠目に見ていたエルザおばさんは、大したものだと笑いながら称賛する。 

 その肝っ玉っぷりには、流石とエルザおばさんは認めているのかも。

 釣られて俺も笑うが、何だかまだ緊張もしていて、乾いた笑いでしかない。

 「がはははは!大和もなかなかだが、アビーもなかなか大胆だな。こりゃ、その内俺たちよりも、腹の据わった奴になっかもな!」

 「……ははは……。」

 俺の後ろにいたレオおじさんもまた、アビーの服装を見て、かつ、エルザおばさんの話を聞き、アビーの話も聞いた後、これは将来、敵うまいと想像し、笑い飛ばしてきた。 

 返答としては、不釣り合い、これも乾いた笑いしか浮かばないや。

 レオおじさんは、そんな俺の肩をポンポン叩き、前に進み出て、皆の眼前にその姿を晒す。

 全員の視線、中央において、一挙に集める様子は、家の長であっても、さながら王様にさえ見えてくる。

 先ほどの恥ずかしさも、そんな様子を目にしたら、いつの間にか消えていた。

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