第130話 ゲテモノのあれこれ(10)

 先日、誕生日を迎えた私にプレゼントと称して知人から小包が届きました。


 阿寒湖漁業組合のステッカーが貼られた発泡スチロールの箱。

 阿寒湖と言えば北海道ですが、はて。一体何を送って来やがったのか。


 箱を開けてみると、何やら赤い生き物がぎっしりと詰まっていました。

 明細を見てみると「ウチダザリガニ 1kg」と記述が。


 食えというのか。

 食ってエッセイのネタにしろということなのか。

 いいだろう。その挑戦、受けて立つ。


 ということで、今回はザリガニを食べた話です。


 淡水の甲殻類……とりわけ、カニやエビ、ザリガニなどは私の小説に食材として登場させたいと常々思っていました。元より、現実でも戦時中など食事は貧しかった時代では食べられていたもの。現代よりも遥かに食事事情的にシビアなファンタジー世界では絶対食べていると確信しているからです。


 実際、私の世界では水稲耕作をしているので、水路に水が流れている時期になったら村人はタニシと一緒に捕って食べてたんじゃないかな。


 稲が育ち始める時期にはイナゴもやってくるし、それを食べに来るカエルに、それを狙うヘビ……田んぼの周りにはいろいろ食の副産物があると思うと、一気に農村の食卓のイメージが膨らみます。


 お気づきですか?

 イナゴも、カエルも、ヘビも既にこのエッセイで報告しましたね。そう、私がこれまで食べてきたゲテモノは、この農村の食卓を追体験するためだったのです。


 ……まあ、肝心のタニシもザリガニも未摂食ですが。


 他の生き物と違ってこいつらは易々とは手が出ないのですよ。

 淡水の生き物で怖いのは寄生虫だけでなく、それが棲んでいる水質の汚染状況も十分注意しなければなりません。現代の池や川の汚さ具合は推して知るべしですから。

 まして、上位捕食者であるザリガニは生物濃縮の極致とも言える存在です。なので、そこいらの池や川に棲んでいるザリガニに手を出すのは、さすがの私もちょっと抵抗があったのですよね。


 どうにか安全に食べることができないかと思っていましたが、こうやってチャンスが巡ってくるとは。ありがたやありがたや。さあ、さっそく食べてみよう。


 その前に、ウチダザリガニについて軽く解説。

 ウチダザリガニはアメリカザリガニと同様、環境省指定の特定外来生物。もともとは食用のために日本に持ち込まれ、各地で養殖、放流して定着。

 ニホンザリガニやアメリカザリガニよりも体が大きく、低水温に強いため、現在、北海道で大繁殖中。そのため、駆除したウチダザリガニをレイクロブスターと称して販売しているそうな。今回送られてきた品もその一つ。


 特定外来生物なので生きたままの運搬は基本的に厳禁。なので、事前にボイルしたものを冷凍しているようです。どうりで殻が真っ赤になっていると思った。


 ざっくり数えてみると30匹くらい。数字で見るとなかなかの量ですが、人間のために品種改良された食材と違って天然生物は可食部は少ないもの。1㎏と書かれてあるものの、ほとんどが殻の重さと推察されます。


 果たして、どれだけの食い応えがあるのか。そう考えると、いい資料だなぁ。どれくらいザリガニを捕れば一人前の腹が満たされるのか、数字的な参考になる。


 既に茹でてあるとはいえ、淡水生物はやはり寄生虫が怖いので、鍋に酒と水を半々くらいにして再度ボイルします。


 その時点で匂いがエビ。びっくりするほどエビ。

 泥の中に棲んでいる生き物とは思えないほど食材の匂い。さすがは食用として持ち込まれるだけの種ではありますね。


 10分ほど茹でた後、ザルで湯を切って皿へ盛り付け。下手に調理せず、ありのままのザリガニの身を味わおうと思います。


 ちなみに、これだけエビの匂いがするんだから、結構な出汁が出ているんだろうなと思って茹で汁を飲んでみたのですが、普通に美味しいという。調味料でちょちょっと味を調えれば、立派なスープになると思います。


 気を取り直して、ウチダザリガニのボディから尻尾をぶりんっと引き抜く。

 この工程はエビそのもの。ザリガニという名前なのにカニよりエビ要素が圧倒的に多い。しかし、やはりハサミが特徴的だからカニなのか。生物学的分類などなかった時代では外見的特徴に由来するしかないんだろうけど。

 まあ、そんなことはどうでもよく、カニをほじくるスプーンみたいなやつで尻尾の中まで掻き出すと、私の親指くらいの身が取れます(私のSNSに画像があるので、よければ見に来てください)。


 弾力はエビ。味もエビ。エビそのものと言われれば違うけれど、類似する味という意味ではやっぱりエビ。ザリガニ味というのが正しいんでしょうがね。美味いか不味いかで言ったら、断然美味しい。


 次いで、ハサミの部分をバキバキ割って、中の身をほじくり出す。この工程はカニですね。尻尾の身とは違い、こっちは口の中で繊維がほろほろ崩れる。エキスも相まって、こっちはカニの脚を食べている感じ。個人的には尻尾よりこっちが美味しい。子供たちが大きいのが捕れたらハサミの奪い合いとかしそう。


 殻を剥き、身をほじくり、食べる。無言で繰り返すこと40分。ようやく食べ終わることができました。

 時間経過で満腹感が出てきてしまって正確なところはわかりませんが、1㎏あれば一食分にはなるんじゃないかな、という食べ応え。言い換えれば、1㎏くらいは確保しないと晩御飯には厳しいかもしれないぞ、ミラン君。


 茹で汁のエキスの濃さを思えば、食べた後の殻も砕いて、再度出汁を取ればスープの素になりそう。殻に使われているキトサンは発酵を促進させる働きがあるため、その出がらしも肥料の材料として使えそう。そう考えると、ザリガニは手間こそかかれど何度も活用できる食材なのかもしれませんね。


 いや、今回はいろいろ考えながら食べることができた。贈ってくれた知人には本当に感謝しています。


 余談ですが。

 食べている間、ずっと換気扇を回していましたが、それでもしばらく間、部屋からエビの匂いが取れませんでした。


 皆さんも、ザリガニを食べる時はお気を付けください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る