第3話 小説を書き始めたきっかけ(3)
処女作を書き上げてからしばらくして、私は高校を卒業した。
私と友人Sは別々の道へ進む。私は大学へ。彼は専門学校へ。
学校が違えば交友関係は疎遠になるもの。私は新しい環境に四苦八苦しながらも、新しいヲタク仲間たちと出会い、それなりに愉快な大学生活を送りながら執筆の練習をしていた。
そんなある時、友人Sが久しぶりに我が家を訪ねてきた。
当時はまだ携帯電話が普及していなかったので、ノンアポで友人宅に突撃なんて割と当たり前の光景である。
「ホームページやらねぇ?」
開口一番、友人Sが言った。
自作のホームページを開設して、そこに小説を掲載しようというのだ。アマチュアが小説を発表する手法としては、当時はそれがスタンダードだった。
「随分、攻めるな」
「お前の作品を読まなかったら、俺だってHPを立ち上げてまで小説書こうとか思わなかったよ」
その言葉を彼の口から聞いた時、私はなんとも言えない気持ちになった。
自分が書いたものが誰かに影響を与えた。その事実は、劣等感が強い私にとって、なかなか感慨深いことだった。
「ちなみに一週間に一回更新な。破ったら罰金500円」
「うええぇぇ」
そして、私たちはすぐにHPを開設し、大学を卒業するまでの四年間、そこで二人で執筆活動を続けた。(実はもう一人いるのだが、今回は割愛)
ここでの活動が物書きとしての白武士道の原点だろう。
四年間で、私は長編小説を十本ほど書き上げた。
今となっては読み返したくもない駄作集ではあるが、それでも長編十本というのはなかなかの数字ではなかろうか。
しかも、その一つである「エリクシルを継ぐ者」という作品は電撃文庫の一次選考を突破することができ、私の中で大きな自信となった。
ただ、当時はネットで掲載するようなシステムではなかったので、通過者の名前は発表月の電撃文庫の新刊の折込チラシと一緒に記載されていた。
私はその折込チラシを大切に保管していたのだが、独り立ちするときの引っ越しで紛失してしまったので、今では証明することができない。夢だと、妄言だと指摘されても否定できないのが残念だ。
しかし、その後は鳴かず飛ばず。
そうこうしているうちに大学を卒業し、就職し、大人になった私はだんだんと物を書かなくなっていった。
シェアード・ワールドを書きたいと思って構築していたエインセル・サーガの拡張短編集「風の軌跡」の執筆を最後に、私は筆を置くことになる。
†††
「カクヨムっつーのがあるんだけど。お前、今度からプラットフォームをこっちに移さないか?」
久しぶりに会った友人Sが、そんなことを言った。
あれから十年が経っていた。
彼は社会人になっても精力的に創作活動を続けており、あちこちの出版社に投稿を重ねている。編集から声が掛けられたこともあったそうだ。未だ納得のいく結果は出ていないが、私の物書き仲間で一番にプロになるとしたら間違いなく彼だと思う。
それに比べて、私は停滞していた。
思った以上に社会人というのはハードで、なかなか創作する時間を捻出することができなかったのだ。それでもちょこちょこと何らかを作ってはいたのだが、投稿するようなレベルには到達していなかった。
これじゃいかんと思って、一本だけ出版社に向けて投稿した作品があるが、まったくと言っていいほど音沙汰がない。私自身も納得のいく出来ではなかったので、当然と言えば当然だったかもしれないが。
順調な友人Sを見ていると「後から来たのに追い越され」の気分になる。それでも時々、こうやって喝を入れに来てくれるあたり、私にはもったいない友人だ。
だからこそ、負けていられないという思いが強かった。
仕事が忙しいだの、なんだの理由をつけて執筆から遠ざかっていた私だったが、どんどん先へ進んでいく彼に少しでも追いつきたかった。
プロになるとすれば間違いなく彼が先だろうが、プロになった彼から「白武というやつと切磋琢磨してきたおかげだ」と誇ってもらえる存在でありたかった。
だから、頑張ってもう一回書こうと思った。
そして、2018年の6月。
私は友人Sの勧め通りカクヨムに登録し、「ファウナの庭」の連載を始める。
目指すはドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテスト。ファンタジーしか書いてこなかった私にとって、ぴったりのコンテストだ。
仕事との両立は苦難の連続だった。
もともと仕事が原因で執筆できていなかったのに、その現実を気持ち一つでねじ伏せようというのだ。連載中はかなり頑張った。
新世代ファンタジー小説コンテストの期日にはなんとか滑り込んだものの、結果は散々だった。それでも実に久しぶりに私は物語を完結させることができた。その達成感、満足感は私に書くことの喜びを思い出させるに十分だった。
こんな言葉が自然と出る。「……次、何を書こうかな」。
ここまで読んでいただいた諸兄には私の怠け癖が十分伝わったことと思う。
けれども、こうして喝を入れてくれる友人たちがいる限り、あれやこれや、なんやかんやありながらも創作活動を続けていくのだろう。
おお、タイトル回収。私ってば優秀。
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