第13話 蒼井先生(郷子さんの視点)
私の名前は守山郷子(もりやまさとこ)。38歳のシングルマザーです。
私は今、洋食屋のお店のオーナーシェフをしています。
小さいころから夢だったシェフになれたのも、売れっ子作家の蒼井平子(あおいひらこ)先生のお宅でホームシッターとして雇ってもらえたからです。
蒼井先生も私と同じシングルマザーだったのです。
私には娘が一人おりますが、蒼井先生には三人のお子さんがいます。長女の愛日ちゃん、長男の近江くん、末っ子の栗ちゃんです。
娘が7歳からに10歳になるまでの3年間、ホームシッターをさせていただきました。
私の娘は、近江くんと同い年です。なので蒼井家から見れば、近江君が10歳で愛日ちゃんが12歳、栗ちゃんが8歳になるまで蒼井家で働かせていただいたのです。
当時蒼井家でお世話になる前の私は、旦那と離婚したばかりで経済的に困窮し、ずっと専業主婦をしていたので社会に役に立つようなスキルはなにも持ち合わせていませんでした。
唯一多少自慢ができたことは料理の腕でしょうか。それもしょせん家庭料理に対して多少のおぼえがあった程度です。
こんな私を採用してくれる場所はどこにもなく、小学校に上がったばかりの娘を食べさせていくためにパートや内職でその日暮らしの生活を送っていました。
そんな折、娘が学校から帰ってきて私に言うのです。同じクラスの蒼井近江くんはいつも授業参観に誰も来ないと。お母さんが来ないのは私だけだと思ってたから、きっと近江君のおうちもお父さんがいないんだねと。
私は本に帯をつける内職をしていた時に見た名前を思い出しました。確か蒼井なんとかだったな。
もしかしたらと思い、携帯で「蒼井 作家」と検索すると。」検索エンジンの一番上に蒼井平子先生の名前が出ました。
そのホームページにアクセスすると、先生の個人ホームページが開きました。そこのリンクにあった求人募集の欄に、ホームシッターの文字があり、私は試しに応募してみました。
翌日、先生の編集担当さんから連絡があり、面接がしたいので駅の喫茶店に来ていただけますかとの連絡が有りました。
先生の家のご住所がバレないように、ということで駅の喫茶店を指定されたのですが、私の家からの最寄り駅、娘の言っていたこの名字と先生の名字の一致。
私は先生が、蒼井近江くんの母親であると確信しました。
指定された喫茶店に行くと、若いスーツを着た女性と、私くらいの年齢のとても上品な装いの女性が二人いらっしゃいました。
若い女性はやはり担当編集さんであり、名刺をいただきました。もう一人の女性は、蒼井先生ご本人でした。
私はまさか先生ご本人がいらっしゃるとは思わず、少しびっくりしました。
面接が進む中で、私がシングルマザーである旨を伝えると、担当編集さんの横でずっと黙って私の話を聞いていた先生が、初めて私に話しかけてこられました。
「あなた、シングルマザーなの?ホームシッターとして働いてもらうには、私が取材に出ている間は毎日お願いすることになるけど大丈夫なの?」
私は、現在の生活状況などを包み隠さず先生にお話ししました。そして先生に尋ねました。
「私の娘は今7歳です。先生には7歳のお子さんがいらっしゃいませんか?
男の子で近江くんというお名前ではないですか?」
「なんであなたが近江のことを知ってるの?」
先生が訝しげな眼で私を見たので、私の娘、豊が近江くんと同じ学校の同じクラスであることを話しました。
すると先生は
「あら、じゃあ私たちはママ友ね」
と優しく微笑みかけてくれました。
先生は私を採用してくださり、一般的なホームシッターの2倍近い額の時給で私を雇ってくれました。
先生のおかげで、私と豊は人並みの生活ができるようになりました。
これが私守山郷子と蒼井平子先生との出会いです。
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