第11話 洋食屋レイク
郷子さんのお店「洋食屋レイク」は、地元の駅前のビルの2階にある。
外装もお洒落で郷子さんのこだわりが感じられる。
学校が終わって家に帰った後、僕は持ってる服を全部引っ張り出し、ネットを参考にしながら、十分に悩んで決めてきた。
郷子さんの店に行くのに恥ずかしい恰好では行けない。お姉ちゃんや栗はいつも通りの格好だ。もうちょっとおめかしして来て欲しかったが、元が良いから二人とも僕より全然お洒落に見える。
こんなことなら、もうちょっと服を買っておけばよかった。いや今僕が着ている服も、お姉ちゃんが買ってきてくれたものだからお洒落なんだろう。
僕が履いている靴は、栗がオススメしてくれた革靴だ。オススメされたといっても
「アンタの靴、ほんとダサい!学校の運動靴じゃん。そんなので外出歩かないでよ。誰かに見られたら私のセンスまで疑われちゃうじゃん。服もお姉ちゃんが買ってきてくれたやつだけ着て!
気付いてないの?なんであんな英語がいっぱいかいてあるTシャツ買ってくるのよ!今から一緒にデパート行くわよ!そんな靴はいてたら一緒に出掛けられないじゃない!」
と酷評されたわけだ。運動靴の何が悪いんだ。履きやすいし、何より歩き疲れないじゃないか。
靴というのは履きやすさが命だろ?
それに英語のTシャツだって、あれはシェイクスピアの戯曲の一部なんだ。栗にはまだ分からないだろうけど、シェイクスピアはお洒落なんだ。
まあ今日はネットを見て、今一番お洒落とされている格好できたんだ。この辺はさすがお姉ちゃんで、お姉ちゃんが買ってきてくれる洋服は僕から見てもお洒落でネットなんかにも似たコーディネートが最新の流行として載っている。
僕としては『マクベス』や『ハムレット』のほうがお洒落だと思うんだけど。まあ洋食店に運動靴が似合わないのはなんとなくわかるけど。
郷子さんの店の前からはいい匂いがした。デミグラスソースみたいな匂いだ。懐かしいにおいにも感じられ、でも新しさも感じさせられる匂いだ。
郷子さんがホームシッターを辞めて、ホテルで修業している間にきっと郷子さんの料理の味も変わったのだろう。
僕はうれしくも悲しいながら、お店の門をくぐった。
「いらっしゃいませ、何名様ですか?って近江じゃん!それに愛日さん、栗ちゃん!いらっしゃい」
僕たちを出迎えてくれたのは郷子さんではなく、郷子さんの娘の豊だった。
明るい笑顔は郷子さんによく似ている。
「開店から来るのにずいぶん遅くなってごめんね。本当は母さんといっしょにきたかったんだけど、今取材でなかなか帰ってこれないんだ」
「そっかぁ、近江のお母さん売れっ子作家だもんね。でも来てくれてうれしいよ。さぁ3人とも奥のテーブルが空いてるから座って座って。今ママも呼んでくるねん」
明るい子だ。郷子さんの娘さんだから当然か。
「アンタ、何見とれてんの。ウザいんだけど」
栗が端正な顔をいつものごとくブスッと歪めて言ってきた。
「別に見とれてなんかいやしないよ」
僕はそっけなく答え、郷子さんの姿をそわそわと探していた。
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