第51話
イベントが見たい。そう思っているからと言って、ロイ達をストーキングするわけにもいかない、だからイベントが起きそうな場所に、立ち寄ったりしている。
今日は街を、イベントを見るために散策している。
そう俺がここにきたのは、イベントが起きるのを期待しているがためだ。
なのになぜ会いたくもない奴を、目撃する羽目になるのか。
―― 最悪だ
私服姿だが、見間違いようもない。あれは騎士Aと、一緒にいた騎士Bだ。
なんでこんなところにいる。別に騎士が、街にいてもおかしくはない。ないが近づきたくなくて踵を返す。
「あっお前! 待て! おい!」
回れ右をした直後に、大声が上がる。俺の名を呼んだわけではないが、嫌な予感がして駆けだす。
「待てって! 待ってください!」
なんか声がとてつもなく、必死さを帯びてきている。
立ち止まらないと延々と、追いかけられそうな勢いだ。それはそれで、厄介なことこの上ない。
しょうながく立ち止まり、騎士Bが来るまで待つことにした。
「なんのご用ですか……」
「これをお前に渡しに来た。アッ言っておくが、俺からじゃないからな!」
袋に入った何かを差し出しくる。そして焦ったように、言葉を付け足す。
―― いやそんな、必死にならなくても表情でわかるって
物凄く嫌そうな顔をしている。こんな表情をしているやつからだなんて、欠片も思わないから安心してくれ。
「おい、さっさと受け取れよ」
「どなたからですか?」
差し出された何かを、受け取らずにいるといぶかしげな顔をされる。
だがこちらから言わせれば、なぜ受け取ると思われたのか不思議でしょうがない。
「それは……言えない」
「なら受け取れません」
一歩下がって、お持ち帰り下さいと付け加える。すると大仰に口をあけて、目を見開いてくる。
「なんでだよ!」
一々リアクションが、大きい奴だ。こいつにも、近づきたくはないが騎士Aほどの怖さは感じない。
そう怖くはないんだ。けどさっさと離れた方がいい。なぜかそう思っている自分がいる。
言動も見た目も、ガキそのものだ。なのに何故だがそう感じる。
「誰からのものか分からないなんて、怖くてうけとれませんよ。何を仕組まれてるか分かったものじゃないですし」
「はあ? あの方がお前相手に、そんなことするか!」
何を言っているんだとばかりに、眉間に皺を寄せたあと鼻で笑われる。
腹の立つ態度だが、今はそれどころではない。こいつはいま『あの方』といった。
こいつはあの夜、騎士Aと共にあらわれたやつだ。
お忍びっぽい王子の傍にいた騎士―― たんなる想像だが、王子に仕えている可能性は限りなく高い。そんな奴が、自分でない誰かに頼まれて俺に何かを渡しに来た。そして名を告げられた困るであろう誰かのために『あの方』とぼかした言い方をする。
以上の事を、考えてこれを渡して来い。そうこいつに言ったのは、王子の可能性が高い。単なる俺の想像だ。もしかして違うかもしれない。けど王子の傍で仕えているであろう騎士のこいつに、命令できる立場なのは確かだろう。
―― 関わりたくない
王子にも騎士にも、もう関わりたくない。だといのに、なんでこんなことになってるのか。
「怪しいものじゃないぞ。ほら」
「…………」
袋から、取り出すと俺の方に見えるように差し出す。その表紙をみて、思わず手が出そうになった。
欲しいと思ったが、発行日が古くてどこにも売っていなかった本だ。
「おい何するんだよ」
「なにか挟まれてると、困るので」
本の背表紙をつまみ、少し強めに左右に振る。何も落ちてこない。特に術が、仕掛けられている様子もなかった。現段階では、害はなさそうに思える。
「……今回きりというのでしたら、受けとります」
「そうか!」
とりあえず今は、無害そうに見える。ならさっさと受け取って、こいつとおさらばしたい。その思いから受け取ると返すと、目が輝いた。
「なんでそんなに、嬉しそうになさってるですか?」
「お前が喜ぶか気にして、そわそわ動いて仕事にならないんだよ……」
疑問を告げると、表情がげんなりしたものに変わる。なんだかものすごく疲れたような顔をして、ため息までつかれた。
「……それは、大変ですね」
とりあえず面倒なので、慰めの言葉をかけておく。
それにしてもなんで王子が、俺が本を気に入るかをそんなに気にするのか。
―― もしかして、王子じゃないのか?
王子が、どんな奴なのかは知らない。いやキャラとしては、知っているけれど実際にはそこまで関わっていないからな。けどキャラとしても見た限りでも、どちらもそんな子供じみた態度をとるようには思えない。
もしやもしかして、『あの方』って、姫か? 王子とあった時の、王子の妹である姫の顔が浮かぶ。王族であるから、騎士Bがあの方といってもおかしくはない。
もしや姫が、俺に一目ぼれをして……ないな。俺の様な凡顔のモブに、そんな事は起こりえない。ジルベールに、というのなら納得するが俺ではありえないだろう。
そうなると、結局誰だか分からないという結論に達してしまう。
「じゃあな、確かに渡しからな!」
「ええ」
念を押すように大声をだす騎士Bに、面倒くさくなっておざなりに返す。
「おい勘違いするなよ! 俺はお前より強いんだからな!」
背を向けて速足で去っていく背中を見送る。
やっといなくなってくれる。そう安堵していたら、勢いよく振り返って脈絡のないことをいってきた。
別に俺が、お前より強いからな。と、マウントを取った訳でも無い。そんな話は、一切していないのにである。
「わかってますよ」
至極面倒くさいので、適当に肯定して返す。すると騎士Bは、満足げにうなずいて帰っていた。
なんというか、言葉遣いとか態度とかとにかく全てが子供っぽい奴だった。
疲れた。だが騎士Aのような、そこ知れぬ怖さの様なものがないだけまだましだ。
どちらにしろ関わり合いにはなりたくない。もう二度と会わないことを、願って帰路についた。
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