第43話

――数日後


「レイザード!」

「ぐっ……」


 扉が開いて、シーディスさんが入ってきた。と思ったら、衝撃に息が詰まる。

 一体なんだ。何が起きた。


「良かった……」


 声で分かった。どうやらジルベールに、抱き着かれているらしい。隙間からロイの姿も見える。

 一体お前は、何をしているだ。せっかく主人公たるロイがいるんだぞ。抱き着くならロイに抱きつけ。何を考えている。


 そう言おうと思ったが、寸でのところで止めた。

 声から、回された腕から伝わってくる。ものすごく心配を、かけていたのだと。

 後ろで、ご無事でよかったです。そう声をかけてくるロイからも、俺の身を案じていてくれていたのか感じ取れた。

 そんな状況で、振り払えるわけがない。いくらイベントが見たいという、腐男子としての願望があれど、空気くらいは読めるのだ。


「レイザード? ごめん! 怪我をしていたと、聞いていたのに……」

「大したことはない。気にするな」


 なにも返さずにいたら、誤解を与えたらしい。


 違う。俺はお前が、萌えを散布しないから不満を覚えていたんだ。べつに痛くて、無言になっていわけじゃない。

 なんて言えるわけがない。それに俺のことを案じてくれていたこいつに、余計な心配をかけるのも気が引けて慣れないフォローを入れるはめになった。


「随分と、仲がいいみたいだな」

「ええ何時も、仲良くしてもらっています。まだ彼のことでお礼を、申し上げていませんでしたね。レイザードを助けて下さって、ありがとうございます」

「礼を言われる筋合いはないさ。レイザードを助けるのは、当然のことだ」


 なんでお前が、俺を助けたことに礼を言うんだ。お前は俺の保護者か何かか。いやまて一応は、友人という体で来ているのだから『友達を助けてくれてありがとう』くらいは言ってもおかしくないな。

 それよりいつの前に、俺とお前が仲良くしたんだ? それになんで、若干だが上から目線が入っている。


 ―― いや違うな


 何かを牽制しているようにも見える。なんというか言葉の感じが、いつもより硬くて冷たい。いつもの軽さが、どこかに吹き飛ばれたように印象が違う。


 もしかしてロイを、取られると警戒しているのだろうか。攻略キャラたるシーディスさんに、牽制をするのは分からなくもない。このゲームは、途中までは同時攻略が可能だからな。ルートが確定していないのなら、その警戒も納得できる。


 だがそれは、別の機会にやってくれ。忙しいのに、色々と動いてくれたシーディスさんにかなり失礼だ。

 

 止めようとしたが、そのまえにシーディスさんが言葉を発する。

 何だろうか。ブリザードが、吹き荒れている気がする。そんなわけがないのに、室内の温度が一気に下がった気さえした。


 それにしても、ジルベールの奴は一体どうしたというのか。いくらロイに関して、牽制しているとはいえこんな態度をとるやつではないはずだ。


 ―― お前は目上キャラには、きちんとした態度をとれる奴だっただろう


 そう全力で、視線を向けて訴えてみるがまったく効果がない。口に出して言えばいいのだろうが、この空気に割って入る勇気などない。

 そんな中で、ロイは微笑んだままジルベールに温かい視線を送っていた。流石は主人公だ。モブの俺とは違い、強靭な心臓を持っているらしい。


 ―― できれば見守っていないで、ジルベールを止めてくれないだろうが


「ジルベール先輩は、先輩のことをとても心配されていたんですよ」


 訴えるために、向けた視線を斜めの方向で勘違いしたらしい。ブリザードを、拭き荒らす二人を放置してロイが声をかけてくる。


「そうか……」


 短く返すと、望むリアクションが返ってこなくてがっかりした。そんな表情をされてしまう。

 一体ロイは、俺に何を期待したのだろうか。

 謎だ。謎だが、ロイが二人に声をかけることで吹雪が止んだ。流石は主人公である。モブにはできないことを、あっさりとやってのける。


 そのまま二人と話しを、続けてイベントをおこしてくれ。俺はそっと、見守っているから。

 強く願ってみたのだが、どうやらモブの願いは聞き入れられなかったらしい。ロイがなぜか、また俺に話を振ってくる。そうして主人公と、攻略キャラがそろっているおいしいシチュエーションにモブが混ざるという悲惨な状況が作り出されてしまった……












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