ヴァーチャル・ソルジャー

悠霧

第1話

 春の朝、少年は自分のベッドの上で目を覚ます。少し長い髪をヘアースプレーで整えて、高校の制服に着替える。制服はブレザーで少年はワイシャツの第二ボタンまで締めず、ネクタイも緩めた状態である。彼にとってはオシャレのつもりであった。スマートフォンでSNSを見てから、一人暮らしのアパートの鍵を掛け、出て行く。4月ではあるがまだ、肌寒い季節である。今日は新学期で少年は二年生に進級する。この少年の通う高校は東京都の東側にあり、アパートからは歩いていける距離にあった。


「わりぃー!」


「行くぞ。涼太。村上の奴がうぜぇ―から」


「あぁ」


一年の時からつるんでいる仲間と共に歩いて行った。学校に着くと掲示板に新しいクラス名簿が張り出されていた。掲示板に近づこうとすると、群がっていた生徒達が涼太達の顔を見て、掲示板を見るポジションを譲って離れていく。


「クラス別じゃん」


「マジかよ。つまんねぇーな。お前らと離れるなんて」


涼太とつるんでいた仲間たちは別々のクラスになった。涼太は退屈になるなと思っていたが自分の新クラスの名簿のある名前を見てからは感想が変わった。


「そうでもないかもなぁー。あいつと一緒だ」


「どいつだ?」


涼太はその名前に指を指す。


「こいつか。良かったな。また楽しめそうだな!」


「あぁ、そうだな」


そして、二年生の教室に向かって、涼太は自分の教室に入ると、男女問わずクラスメイトからいろいろと声をかけられた。涼太はさっき話題に上がった名前の生徒の席に近づいく。


「また一年よろしくなぁ!」


声をかけられると、ビクッとして、下を向いて「うん」と返事をする。すると、つるんでいた仲間の一人が出てきて、笑みを浮かべて机を軽く蹴飛ばした。


「ちゃんと返事しろよな。舐めてんのか俺たちのこと」


「イジメだぜそれ。やめとけ!」


笑みを浮かべてはいるが、仲間の一人を止める。それから、体育館で新学期の始業式で新担任の発表から始まった。


「ちっ、飯島かよ!」


涼太の担任は30代の女性であった。その次に校長の挨拶になり、話が長い為、床に座り込んでしまう。すると、「宍倉っ!」と担任から女性の甲高い声で叱られてしまった。皆の注目が一瞬集まり、校長の話している方向に顔の向きが戻る。一方、つるんでいる仲間からは笑われ、三年生のいる方からは一人の凛とした女子から冷たい視線を浴びた。


「さっそくかよ。それにあの会長の冷たい視線」


涼太に冷たい視線を向けたのは、この学校の生徒会長である早乙女由梨だった。やがて校長の長い話が終わると、次に生徒会長が新学期の挨拶をする為に登壇した。


「新入生をこの学校に迎え、新学期をスタートすることになりました。上級生の皆さんは上級生としての自覚を持ち、一年生のお手本となるよう行動して下さい。そして、生徒会長選挙の時にも言いましたが、規則と規律を乱す者は生徒会長として許しませんのでよろしくお願いします」


生徒会長早乙女は全校生徒の前で淡々と宣言した。一年生の一部がコソコソ話し出すとそれを見た生徒会長は冷たい目で一年生の方を見下ろし最後に一言付け加える。


「新入生も同じですので、容赦しません!」


一年生からコソコソ話は止んだ。その時、生徒会長の冷たい目に少し恐怖した。一連の様子を見ていた宍倉涼太も。


「怖っ!マジ勘弁」


涼太は今年もかという気持ちだった。


「それでは以上です」


生徒会長は壇から降りて、自分のクラスの並んでいる列に戻っていった。やがて、始業式が終わり、クラスごとに教室に戻っていく。


 始業式が終わり、休み時間を挟んで、ホームルームが始まる。涼太の新担任の飯島が教室に入ってきた。しかし、他のクラスのつるんでいる仲間と遊んでいて、涼太は遅れて入ってくる。


「宍倉君。遅いわよ!」


「遊んでいて・・アハハ」


涼太が言い訳すると、担任の顔が不機嫌な顔になる。


「早乙女さんの言ったこともう忘れたの。宍倉君、あなたとは後で話があるから、今は席に着きなさい!」


黙って席に着いた涼太。ホームルームはまず担任の自己紹介からスタートした。


「あなた達の担任になった飯島那美です。一年間よろしくね!」


「趣味は何ですか?先生」


一人の女子生徒が質問した。担任は表情を緩めて、ニコッとしながら「ヒ・ミ・ツ!」と答える。


「キモッ!」


涼太はボソッと呟くと一瞬、担任からキツイ視線が飛んできたような気がしたが気にしないことにした。


 その後に、クラスの生徒が自己紹介を始めて言った。自己紹介が長い人や短い人など、涼太の場合は照れくさいと思って短くした。


「宍倉涼太。部活はバスケ部。よろしく!」


やがて全員の自己紹介が終わり、これからのことについて担任が一通り説明をする。担任の飯島が持ってきた手提げから薄いタブレットを取り出した。学校の教室には黒板はもう無い。今は学校教育もデジタル化して、教科書もノートも紙媒体で持ち歩いている生徒はいない。タブレット一つ持ち歩けば済むような時代になり、20年前以前のように毎日重たい教科書などを持ち歩く必要が無くなった。


「タブレット出して!いまからプリントを配るから」


プリントもかつてのように担任が手渡しするのではなく、担任の手元にあるタブレットに入っている送信ボタンをタップするだけでクラスの生徒に一分足らずで届いてしまう。


「じゃあ。プリントを見ながら説明するから。ネットは見たらダメよ!」


担任は一通り、プリントの中身について主にこれからの学校行事について説明して行った。説明していると宍倉涼太がタブレットを頻繁にタップしていたのでまさかと思い、座席まで近づくとプリントの画面だったがしかし、ごまかされなかった。


「宍倉っ!」


涼太に担任の怒声が放たれた。顔を見上げるとお怒りである。


「何やってんの?」


「え?」


聖斗は何のことかというフリをしていたが、通用するわけがない。


「とぼけても無駄よ。ネットは見ないでって。言ったわよね?放課後、部活が終わったら職員室に来なさい。いいわね?」


「だるっ!」


ボソッとそれを言った瞬間、物凄く睨んできた。


「はい。先生」


ホームルームが終わり休み時間になると、つるんでいる仲間達がやってきて、さっきの出来事のことを話す。


「そういうことなら。また、あいつらと遊ぼうぜ。涼太?」


「あぁ!」


彼らは笑みを浮かべ視線の先には、オタクの雰囲気を持った生徒がいた。去年と同様にちょっかいをかけにいく。


「お前ら、涼太が怒られた時にクスクス笑ってたんだってなぁー?」


「笑ってないよ」


否定しているのに涼太達は、詰めよっていく。


「俺は聞こえたけど、お前らの心の笑いが!」


「いいがかりじゃないか。そんなの」


涼太が朝、教室でちょっかいをかけた生徒が出てきた。


「俺に口答えかお前?もっと楽しませてやろうか!」


涼太が拳を振り上げる素振りを見せると、後ろから女子の声がした。


「あなた達、何してんの?私の言ったこと忘れたのかしら!」


「早乙女・・・」


生徒会長の早乙女が現れた。休み時間に変なことがないかと校内を巡回していて見つけた。


「先輩か会長でしょ?」


早乙女から冷たい視線が涼太達に飛んでくる。涼太達でも黙ってしまう相手である。去年は痛い目にあったこともあった。そして、一瞬前に出てきた生徒と早乙女の目が合ったがすぐに視線は戻る。


「懲りないわね。いい加減にしないならあなた達を退学にさせるわよ?」


「脅しか?」


涼太が口を開いて、早乙女に聞いた。


「脅しじゃないわ。本気よ!これ以上風紀を乱されるわけにはいかないから。どうなるかはあなた達次第になるけど」


すると、つるんでいた仲間達は教室からいなくなった。


「ちっ!」


不機嫌になった涼太も座席に座って、携帯をいじくった。


「あなた達何かあったら私に言いなさいよ」


「はい」


早乙女はチャイムがもうすぐ鳴りそうなことに気づき、早歩きで戻っていった。


 放課後になり、涼太はバスケ部の練習に出る。今、体育館でバスケ部と剣道部が使っていて涼太がバスケをプレイ中、妙な視線を感じたので、その視線を何気なく探すと、剣道部の方に生徒会長がいて、涼太の方を見ていた。相変わらず冷たい雰囲気をこちらに向けていた。


「またあいつ。何考えてんだ?」


「どうした?」


涼太の動きが止まったので、同級生の部員が声をかけてきた。今のことを部員に説明すると。


「お前、ついてないな。いっつも問題起こしているから目が話せないんだろ」


「早乙女がダルいんだよ!」


「生徒会長様だからな。それとも、お前に気が・・・」


それを言われて、少し不機嫌な表情をした。


「マジ勘弁。あんなのと付き合えねぇーし、息が詰まるわ!」


同級生の部員が剣道部の方からの視線に気づいた。


「やべぇ。会長がこっち見てるぞ。戻るぞ!」


「あの仏頂面どうにかなれば、少しはかわいんだけど」


涼太と同級生は雑談を止め、試合に戻っていった。一方、涼太達を見ていた早乙女は剣道着を着ているとさらに凛とした印象が強くなる。


「また、私の悪口でも言ってんでしょうね。どうせ」


 涼太は部活が終わり、つるんでいた仲間にさっきの出来事を話していて、いい加減絞めようかという内容も出たが、涼太が「やめとけ!」と否定した。そして、途中で別れ、一人でも帰り道である。辺りもう薄暗くなっていた。


「高校生なのに、部活ばっかりでバイトやったことねぇーな」


涼太はやがて、自分の住むアパートに着くと、暗くなった部屋に明かりを点けた。そして、立体映像のテレビを点ける。この時代では最早、液晶テレビも古い存在になっている。今は液晶テレビのように映像を映し出す為の画面機器ではなく、ホログラムの画面機器を必要としないテレビが主流となっている。全ては一つのレコーダ機器だけで済んでしまい、部屋の場所を取ってしまうというような、問題も無くなった。


『あの悲劇から10年が経ちました』


テレビから女性アナウンサーの声が聞こえてくる。かつて地上波と呼ばれていたテレビはインターネットでも見られるようになり、地上波とネットの境目が完全に無くなった。


『復興は進んできましたが、被害者とその家族の心の傷は未だに言えていません』


かつて2029年に主要各国の都市に人口衛星が多数落下し、甚大な被害を与えた。これが世界同時多発人工衛星落下事件である。それが東京23区の西部にも落下し発生した。


『私たちはこの出来事を忘れてはいけません。これから総理が献花し、追悼の言葉を述べます』


総理が献花しようとするところで、あの日の映像も小窓で映し出されたのでそれを見た瞬間に、バチっとテレビの画面を消した。そうしていると突如、スマートフォンが鳴った。画面に表示されている電話番号に見覚えが無い。電話が鳴り止まず2分以上経過している。


「誰だよ。ひつけぇーな!」


鳴り止むことが無さそうなので、電話の受話器ボタンをタップする。


「もしもし。誰!」


「私です」


涼太は声を聞いた瞬間、忘れていたことを思い出した。


「先生?」


「そうです。放課後、来なさいと言ったでしょ?どういうつもりかしら」


電話の相手はもちろん担任の飯島である。声の感じは怒り気味で大きいのが印象だった。


「すみません。すっかり忘れてました。わざとじゃないです。本当に」


涼太の言うとおり本当に忘れていたのだ。部活に夢中に鳴っていたことと生徒会長のあの視線で余計に頭から抜けてしまっていたのが原因でだった。


「宍倉君、あなたはもう少し真面目に出来ないのですか?格好のことも気になるけど、あなたが一部の生徒に対してのいい噂を聞きません。はっきりというのは止めておくけど、私がもし見つけたら担任でも容赦しません」


「生徒に脅迫ですか?先生」


「全ては宍倉君、あなた次第です。今日はそれを言いたかった。明日、また学校で」


すると、電話が切れた。涼太の様子は少し沈み気味である。


「遠回しにハッキリ言ってじゃん。俺は青春を楽しみたいだけなんだよ」


涼太の方も電話を切って、冷蔵庫にあった残りもので夕食を済ませた。夕食の片づけを終えると、ベッドの下からVR用のヘッドギアを取り出して、セットする。頭に取り付け電源のスイッチを入れると、黒い画面から景色ある映像に切り替わった。そこからインターネットを見れるアイコンの名をつぶやくと、インターネットが開かれる。キーワード検索する時も音声で入力する。早速、求人サイトでこの地域のアルバイト情報を見た。


「こんなもので良いか。とりあえず」


読んでいて興味が湧いた求人内容をお気に入りに入れた。この時代のアルバイトというと学生アルバイトの数は限られている。定番のコンビニの店員はほぼ無人化されてしまい、商品の管理、清算はAIに置き換わっていた。ファミレスチェーン店などに至っては、フロアーにスタッフはいない。ロボットが接客や配膳をしていてフロアー内をクルクル動いていた。あるのは、ファミレスのキッチンやとにかく単純作業以外のものぐらいである。そして、涼太は次に動画サイトを見る。VRで見るので自分がそこにいる感覚に陥ることがあり、物にぶつかってケガをすることが社会問題となっていた。このサイトは配信されてから約34年近くになっていて、サイトの規模は未だ世界1で衰えを見せていない。いろんな動画を見て、1時間以上が経過したころだろうか。1通のメッセージが涼太の元に表示された。途中で動画を止め、メッセージを確認する。


「誰だよ。これ?」


涼太は誰もいない一人暮らしの部屋で呟いた。


「アドレス見覚えねぇー」


次にメッセージのタイトルを確認した。


『VRゲームでみんなを守るお仕事!アルバイト募集』


見た目も中身もリア充の涼太はなぜか興味を惹かれてしまった。本文には応募をして、適性テストの合格者に具体的な内容を説明すると書かれている。不合格なら相手に個人情報だけ渡して終わりになってしまう。この時代は20年前より個人情報に関してはシビアになっていた。超高度情報化社会となり、無数と言っていいほどの情報がネット空間に蔓延している。どこでどう悪用されるかわかったものでは無い。こんなメッセージ、普通なら削除して終わりであるが涼太は今回そうしなかった。続きにはこう書かれている。


『時給1400円』


こんなの増々胡散臭いのだが自然と応募ボタンを押してしまったのである。意外だが涼太はVRゲームに少し興味を持っていて、時々プレイをすることもある。1分足らずして返信のメッセージが表示された。


『受理しました。しばらくお待ちください』


眠くなってきた涼太は部活の疲れも残っていたので、起きて待たずに寝てしまった。


 翌朝、外が明るくなると共に目を覚ますと、日課のごとく髪をオシャレに整える。身なりを整え、スマートフォンにメッセージが入っていることに気づいた。


「帰ってからで良いや!」


涼太はアパートを出て、学校に行く。今日は部活の朝練には参加しないつもりである。気づくといつの間にか前に生徒会長の後ろ姿が見えた。


「ゲッ。早乙女かよ!後ろ姿と雰囲気でわかっちまうな」


涼太は自分が後ろにいることを気づかれないように距離をうまく取って歩いていく。その後、学校で教室移動中に生徒会長とすれ違うことがある。いつものようにポーカーフェイスで冷たい目なのだが一瞬、表情が歪むのを涼太は目撃するのだがすぐに元に戻る。生徒会長についてつるんでいる仲間に話をして聞いてみた。


「あの会長さんはいつもあんな感じだ。俺たちは特に目をつけられてるからな」


「しんどいぜ。マジ!」


「お前なんか余計だな」


放課後、涼太が生徒会室の前の廊下を通りかかると、中から声が聞こえてくる。会長だとわかり立ち止まった。どうやら会議をしているようである。


「風紀を乱す生徒にはこれからも毅然と対応していきます。風紀委員会はさらに徹底を!」


ゆっくりと歩き出し、生徒会室を覗くことが出来るドアにある窓で中を見ようとした時一瞬


目が合ってしまう。生徒会長はその時、ハッとし表情が変わった。しかし、すぐに視線が戻り、いつものポーカーフェイスになる。


(嫌がらせ?)


生徒会長早乙女はそう思いながら会議に意識を戻した。涼太はそのまま帰るために廊下を歩いていく。


「気づくなよ!感が良すぎ」


 あれから涼太は部活の練習に行き、一通りのトレーニングメニューをこなし、模擬試合をする。涼太側のチームが勝つ。いつものように隣半分は剣道部が使用していたが下校まで生徒会長早乙女の姿は無かった。


「今日は思う存分出来て良かったわ」


部活が終わり、下校しアパートの自分の部屋に帰る。早速、今朝のメッセージの内容を確認する為、アプリをタップする。学校にいる時でも見ようと思えば、出来たのだが涼太にはその意識が無かった。


『ご応募ありがとうございました。あなたの個人情報を含めた審査の結果、適性テストを受けて頂きたいと思いますので下記の操作をお願いします』


指示通りに操作をする。ヘッドギアをかぶり、指示にあるURLにアクセスするとパスコードを要求された。これも指示通りに入力する。すると涼太の個人情報に間違いが無いかという確認してきたので”Yes”をコントローラーのボタンで押した瞬間、ここから全てが始まる。テスト内容はFPSファーストパーソン・シューティングゲームで操作内容を確認してスタートボタンを押すと画面が黒くなったかと思えば、突如してリアル感を錯覚するVRの世界が広がった。この世界の舞台は荒涼とした廃都市というイメージである。突っ立ていると標的になりそうなので歩いていくことにする。携帯しているのがハンドガン一丁と手榴弾2つさらにサバイバルナイフの三種類だった。


「久しぶりだな。ゲーム」


涼太は高校に入ってからはゲームをしていなかった。しばらく歩いていたら突如、銃声がして自分の横を銃弾が通っていった。びっくりして体勢を崩してしまう。


「やべぇー!」


急いで物の影に隠れる。そして、ハンドガンを取り出し、いつでも撃てるように安全装置を解除し、引き金の人差し指をかける。再び銃弾が飛んでくる。しかし、敵の居場所は把握出来ない。


「どこだ!」


すると、何かが自分の所に飛んできた。それを見ると手榴弾である。被弾すればHPが0になり、適性テストは不合格になる。


「やべぇー!」


急いで廃墟の建物の中に入っていくと、爆発音が聞こえてきた。


「いつまでも逃げてもしょうがないし。思い切ってやるか」


このテストには時間制限があり、いつまでも隠れていられない。敵の位置を把握して打って出ようとしていた矢先に赤いレーザーがこちらに照射された。その次の瞬間に銃弾が飛んできた。


「向こうは俺の位置をわかってんな」


涼太は物陰から敵の位置を確認した。敵はこちらの方向を見ながら立ち尽くしている。


「あいつの後ろに回り込んで見るか」


物音を立てずにゆっくりと動く。敵は気づいていないようだ。そして、後ろに回り込み狙える位置についた。涼太は敵に赤いレーザーを照射した瞬間、引き金を引く。すると、敵もとっさに距離を詰めようと向かって撃ってくる。涼太は冷静になり、サバイバルナイフを取り出す。こちらも足元を狙いながら打つと敵は足を崩し、倒れた。こちらもつかさず距離を詰め、敵を切りつけた。そして、銃の引き金を引いた。すると敵は動かなくなり、消滅すると、頭上に「TestーEnd」と表示された。


「死ぬかと終わった。死ぬわけないけどなゲームだし!」


独り言を呟いた。そして、画面が切り替わり黒くなったかと思うと「あなたは合格です」という表示が出てきて、次にある動画を見させられた。


― 電脳世界「GーCloud」


ネットワーク上に存在する世界。全体のイメージは宇宙のような暗い空間に惑星の球体が浮かんでいる。球体をアップにしてよく見てみると、黒い球体に円環の形をした物体が覆っていた。その円環にも施設ような建物が立っている。円環から離れた所に衛星が浮かんでおり、さらに離れたところには発射砲のような形をしたものが装備されていた。そこに向かってアメーバ状の生物が攻撃を仕掛けて来ている。それに対して最外周にある発射砲が搭載されている衛星が迎撃し、撃退した。その様子を大きなパラボラアンテナを搭載している衛星から見つめている人間がいる。その人物は女子で雰囲気が凛としているような感じである。


「最近は多いわ。どこか特定出来そう」


「恐らく。いつものところですよ」


後ろに控えている女性が聞かれたので淡々と答えた。


「大佐に報告して、外から支援してもらわないと。時間の問題でシールドもやられるわ」


円環から通信が入り、画面が映し出される。その人物は涼太達によく絡まれていて、早乙女がそれを見つけ、助けていた。


「会長!僕から大佐に報告しておきますよ」


「ここで会長はやめてよ。それより、大丈夫だった?」


早乙女は助け出した後のこと、さらに因縁つけられて来ていないか聞いた。


「それはまぁー」


会長と呼ばれた人物はあの早乙女である。いつもポーカーフェイスのイメージだが少し怖そうな表情に変わる。


「あいつがこれ以上するなら、退学に追い込むから。あいつは学校の癌だわ」


「僕もこれ以上されるなら・・・」


早乙女がその言葉に感づき、懸念を言う。


「それだとあいつと一緒に退学されるかもしれないわ。そんなの私が何とか!」


「それより仕事しないと」


「真田君・・・」


それから、画面は消え、外の方をただ見つめているだけだった。




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