第1197話 「厳戦」

 まいったな。

 今の段階だと簡単にはやられはしないが、勝てる気がしない。

 もはや牽制にしかならない光線を連射しながら俺はどうしたものかと首を捻る。


 タウミエルがどういった特性を備えているのかは凡そだが見えては来たが、これはどうすればいいのだろうか? とにかくこちらの攻撃は通らない上、下手に頑張ると俺に対しての脅威度が更新されて攻撃手段が増える。 つまるところ、こいつは相手に合わせて自動で迎撃するだけの防衛装置だ。 何故かバッティングセンターで淡々と飛んで来た球を打ち返す存在が脳裏を過ぎったがイメージとしてはそんな感じなのかもしれない。


 なるほどと納得が脳裏に広がる。 教皇の記憶もそうだったが、過去に存在したタウミエルに対して理解がある連中が揃って終末装置、滅びを齎すだけの機構などと呼ぶわけだ。

 これはただの装置に過ぎない。 自動で世界を滅ぼすだけのシステム。

 

 ……まぁ、こんな奴に淡々と機械的に処理されたと考えると飛蝗を含め旧世界の連中が納得いかないと化けて出てくるのも無理もない話か。


 それにしても一体何なんだろうなこれは。 タウミエルの発生原因にはそれなりに興味はあるが、今はどう仕留めるかを考えた方が良いか。

 現状、聖剣に戻った魔剣からの恩恵で今の俺の戦闘能力は大幅に強化されている。

 特にエロヒム・ギボールの身体能力強化は凄まじいな。 体が驚く程に軽い。


 自身の想定を上回る動きができるのは良い意味での誤算だ。 後はもう一本――エロヒム・ツァバオトの方は幸運が訪れるらしいが今一つ効果が実感できんな。

 こうしてタウミエル相手に生きていられている時点で幸運の恩恵を受けて居るのだろうか?

 

 さっぱり分からんが、俺に害のある効果といった訳ではないようなので放置でいいだろう。

 現状は内部に残った残留思念が魔剣の核の代わりをしているらしいので、聖剣と魔剣のいいとこどりが出来ているが堆積した怨念が消えた以上、もう魔剣の内部に留まれない。 このまま行けば二本の魔剣は遠からず完全に聖剣へと戻る事となる。


 その為、この状態による恩恵はいつまでも続かないのだ。 粘れば勝てる訳でもないのでどうにかしてさっさと決めに行かないと不味い。

 極伝や十絶陣といった強力な戦闘技能を操れる今の内にどうにかしたいが、それでもタウミエルの守りを突破できるかは怪しい。 飛蝗が使っていた真言マントラとやらを使えればもう少し楽だったのだろうが、知識はあるので概要は理解できるが残留思念の中に扱える存在がいないので今の俺には使えない。


 轆轤を増やして威力をブーストするといった発想は非常に合理的かつ分かり易い。

 上手くやれば極伝の並列使用といった離れ業までできるのだ。 どうにかして俺も使えるようになれないだろうか? 当てさえすればタウミエルでも消し飛ばせそうなのだが、使えない以上は物ねだりか?


 ……応用技なのだから使えそうなのだが――


 そうこうしている内に追撃が飛んでくる。

 現状ではっきりしているタウミエルの攻撃手段は体から生やした樹の枝による攻撃。

 これは一番厄介だ。 恐らく下手に触ればその時点で終わる。 得た知識から恐らくだが、魂そのものを分解して吸収する能力を備えている。

 

 過去に俺を襲って来たのもこれで、アイオーン教団の転生者を襲ったのもこれだったらしい。

 例の橋は転生者を誘き寄せる為の餌であると同時に辺獄よりもさらに深い領域にいるタウミエルへ接触する為のものであるようだ。 要はタウミエルの消化器官らしい。 これの厄介な点は聖剣魔剣も取り込める点だ。 実際、俺を庇った女王が魔剣ごと喰われかけていた。 その為、直接触れないので、間接的な攻撃で処理しなければならない。


 うっかり踏もうものなら中に飛び込んだとみなされそのまま噛み砕かれて終わる。

 タウミエルはこれを用いてさっさと世界のサイクルを回す為に転生者を辺獄の肥料にすると。

 他は吸い上げた知識から再現した能力だろう。 極伝の冷気を防いだのは空間に存在する魔力を集める類の能力か? 最初の風を防いだのは空間転移の類? こちらは気付かなかったので判断がつかない。 最初以降から使っていないので高速移動の類か?


 ……速く動いた程度で躱せる攻撃ではないんだがな……。


 分からん事は考えても無駄なので思考を攻撃への対処へ移行する。

 銃撃に関しては俺の知覚できるスピードを越えてこそいるが、防げない威力じゃないので障壁の恒常展開で対処。 後は枝の次ぐらいに厄介な十絶陣によって生み出された異空間を切り裂いた剣。 恐らく高位の模造聖剣なのだろうが、威力だけならオリジナルを軽く超えている。


 前回ではないのだろうがどうやってあれだけの威力を叩きだせる代物を作り出せるのかさっぱり分からんが、目の前で斬って見せたのだから認めるしかない。

 ただ、制御ができない代物なのか自身から生えた枝も消え失せている点を見ると相応の反動が返って来ているようだ。 場合によっては使わせる事も視野に入れるべきか?


 思考が目まぐるしく切り替わり、体の制御と突破口への可能性を模索しては無理だと否定を繰り返す。

 過去に撃破例がある以上、理屈の上では俺でも倒せるはずだ。 その為の答えを探しているのだが、これといった解が浮かばなかった。 存在しないとは考えない。


 そもそも勝てない相手と戦う訳がないからだ。 方法が見つからないだけで絶対に勝てる。

 俺はそう確信しているからこそ思考を回し続けていた。 脳裏の片隅で無理なので逃げろといった思考はあったが、逃げた所で死ぬしかないだけだ。 無意味な事にリソースを使うなとくだらない思考を握り潰す。


 光線はもうタウミエル本体を狙わず、周囲に生えて来た枝を焼き払うのにしか使っていない。

 あぁ、そういえば、空間を歪曲させる防御もあったな。 アレは魔法や権能で似たような事が出来るので、力技でどうにでもなるだろう。 ただ、押し通す為に必要な溜めの時間をくれるかは非常に怪しかったが。


 今は攻撃を繰り返しながらタウミエルを中心に円を描くように移動している。

 離れすぎるのも問題なので半端な距離で牽制しながら観察するしかないのだ。

 不幸中の幸いは雑魚が湧いてこない所だろう。 後ろと外の連中が頑張っているのだろうが、外の戦力の全滅も時間の問題なので状況は刻一刻と悪化する。


 ……やはり問題は時間、か。

 

 考える時間は欲しいが状況がそれを許さない。

 こうなるとタウミエル本体の情報がなかったのが痛いな。 いや、あったとしても実際に見ないと難しかったか。 枝の増殖が無視できないレベルになり始めた。


 一定量に達すると本体が動けなくなるようだが、手数が違いすぎるのでなんの慰めにもならない。

 

 ……やむを得んか。


 もう一度十絶陣を――使おうとする前に足元が消滅した。

 何がと考えたが、自分が使える以上、より多くの情報を保有しているタウミエルが使えない訳がなかったと納得する。


 我ながら視野が狭い事だ。

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