第1098話 「言無」

 首途と別れた俺は次の予定を消化するべく別の場所へと向かう。

 ジオセントルザムとその近辺は大雑把だが整備が片付き始めている。

 ただ、ミドガルズオルムが暴れた街の外は派手に壊れているので中々片付かない。

 

 そんな中、比較的ではあるがデカくて無傷な建物へ向かう。

 さて、ここが何なのかと言うと捕虜の収容施設だ。 ある程度は分散させているが管理の問題で固めておきたいといった思惑もあったので無事な建物を転移で引っこ抜いて固めるといった手法を取っていた。


 急ごしらえの門を越えて内部へ入るとファティマの妹であるシルヴェイラが出迎えに現れる。

 シルヴェイラは俺の姿を認識すると頭を下げた。 俺は頷きで応えてそのまま案内させる。

 収容施設は転生者、戦闘員、非戦闘員、後は重要人物の四種類に振り分けて放り込んである。


 転生者は異邦人とかいう戦闘員は皆殺しにしてしまったので、残りは無駄飯喰らいの雑魚ばかりだ。

 エゼルベルトはどうにか助けたいとか言っているが、今まで何もしてこなかった連中が何かの役に立つとは思えないので、グノーシスがやっていたように四大天使の召喚と維持コストに使用するつもりだった。


 しつこく頼むので一応、チャンスはくれてやるつもりだが、教皇の記憶を見た限りでは駄目そうだ。

 餌代もばかにならないしタウミエル戦で使い切れば後腐れもないな。

 戦闘員、非戦闘員は使えそうな連中はグロブスターでレブナントに変えてしまう予定だ。


 数が多すぎるからいちいち洗脳していたらきりがないからな。

 シルヴェイラの案内で俺が入ったのは重要人物が放り込まれている区画だ。

 明らかに金持ちそうな連中が雑に放り込まれている牢屋を横目で見ながら奥へ向かっていく。


 さて、こんな所に何の用かと言うと一応ではあるが顔を見ておきたい相手がいたからだ。

 目的地は最奥。 最も警備と拘束が厳重な場所で、一番取り逃がすと不味い相手がいる。

 

 「こちらです」


 シルヴェイラが警備に声をかけると分厚くて重い扉を開く。

 

 「あれ? また尋問の時間かな?」


 そこには拘束衣に包まれ、その上に鎖や拘束用の魔法道具や装置に囲まれている女がいる。

 自らの意思では首から上以外は一切動かせなくなってはいるが会話はできるようだ。

 ラディータ・ヴラマンク・ゲルギルダズ。 法王直属の筆頭近衛で聖剣使いだったらしいな。


 手酷く痛めつけられたのか顔は青痣だらけだった。 俺が入って来た事に気づき、力なく顔を上げて視線を向けてくる。 捕まった後ここに放り込まれるまで随分とヴェルテクスに痛めつけられたらしく、何度か死にかけているようだ。


 聞けば「色欲」の権能を使われたのが気に入らなかったのか容赦なく痛めつけたらしい。

 それを聞いて納得した。 俺も経験があるので良く分かる。 アレは喰らうと非常に不快になるからな。

 殺さなかっただけ割と自制が効いていたのかもしれない。


 「新しい尋問官? お姉さんちょっと疲れてるから明日にしてくれると嬉しいかな?」

 

 俺は特に相手をせずに頭を掴んで根を送り込んで記憶を参照する。


 「ちょっ、一体何を――」


 何か言っているが無視。 何を聞いてもどれだけ痛めつけてものらりくらりと躱すだけなので尋問は時間の無駄だ。

 聖剣使いは変な細工は弾くらしいから、記憶は問題なく抜けるな。 教皇とファウスティナ同様、前回からの持越し組らしいので、念の為に記憶を抜いておこうとは思ったのだがこれといって目新しいものはなかった。 やはり一人から抜けば充分だったな。


 ざっと見た感じ欠片も信用できなさそうだった。 その為、聖剣使いとして運用するのは無理と判断。

 この女、完全に詰んでいるこの状況でいかに情報を出し渋って生き残るかを考えていた。

 後は聖剣さえ取り戻せばどうにでもなると思っているようだな。


 正直、殺処分が妥当だとは思うが総合的な戦闘能力はかなり高いので後の事を考えると戦力に組み込んでおきたい。


 ……まぁ、レブナント化が妥当か。


 「もういいぞ。 グロブスターを寄生させてレブナントへ変えておけ」

 

 権能が使えなくなるのはやや惜しいが、変異して新しい力にでも目覚めてくれ。

 失敗したら――まぁ、その時はその時だな。

 早々に踵を返した俺を見てラディータは何かを察したのか、何か言い始めた。


 「待って! 話す、話すから――」

 「もういい。 お前と話す事は何もない。 これからお前の信仰心とやらを試してやるから、それを突破して生まれ変わる事が出来たらここから出してやる」


 牢から出るとレブナントがグロブスターを抱きかかえて待機していた。

 シルヴェイラが頷いて見せると俺達と入れ替わりで室内へ入る。 これから何をされるか悟ったのかそうでないのかは知らんがラディータの悲鳴が背後から聞こえたが無視した。

 

 教皇ほどではないが複数の権能展開をできる実力者ではあったし、技量に関してもあのクリステラと同格かそれ以上というのだから是非とも成功して欲しいものだな。

 前回の世界では割と権能は使用頻度が高く、使っている連中の質も高い。 何せ当然のように六以上の権能の展開を行っていたので、どれだけ質が高かったのかが良く分かる。 


 さて、ここで一つ疑問が生まれる。 前回の世界の救世主はそんなに派手に権能を使って大丈夫なのかといった疑問だ。

 当然ながら大丈夫ではない。 そんな派手に使えば魂が摩耗して早々にくたばる事になる。

 ただ、その問題を解消する代物があったのだ。 霊薬だか秘薬だかいう怪しい薬で、飲むと魂の消耗を回復させる効果があるらしい。


 死ぬほど胡散臭いがそれを飲んで数日休めばかなり回復できるようだ。

 そんな便利なものがあればもっと派手に権能を使えるはずなのだが製法は不明。

 前回の世界で失われてしまったらしい。 ファウスティナも知らないらしく、再現は不可能との事。


 前回のエメスのトップ連中しか知らない秘中の秘ともいえる技術らしく、元々下っ端だったファウスティナの所まで情報が下りて来なかったのだ。


 ……つくづく使えない女だな。


 所詮は珍獣の母親か。 いや、意識の高さだけで言うなら珍獣以下だな。

 あんな奴を残すぐらいならもっとマシな知識を持った奴を残して欲しかったな。

 絵に描いた餅を見せられるだけというのは思った以上に不快だったが、ない物は仕方がない。


 取りあえずラディータに関してはあれで問題ないな。


 「聖剣エロハ・ミーカルの選定はどうなっている?」

 「持ち主が生きている限り干渉を受け付けないとの事でしたので、現在は厳重に管理しております。 あの女のレブナント化が成功した場合、念の為に聖剣を扱えるか試した後に選定に入る予定です」

 「分かった。 結果が出たら教えてくれ」


 伝えるべき事を伝えた後はそのまま施設を後にして次の場所へと向かう。

 何だかんだと忙しいな。

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