第707話 「頂上」

 レブナント共がここまで増えるとあっという間でもう頂上が近づいて来た。

 十、十一合集落は間隔が広いので、移動に少し時間がかかったがそれだけだ。 防衛に関しても他より若干固い程度で手応えも薄かったな。

 標高が高いだけあって移動中の眺めは夜ではあったが悪くなかった。

 さて、問題は最後の集落――頂上集落とか言う場所らしいのだが、名称からも察せられる通り他と扱いが違う。


 そもそも入れる奴が本当に一握りで、住民の全てが神職といった場所らしい。

 俺が喰った連中の記憶にも内部の詳細を知っている奴は居なかったぐらいだからな。

 知識によれば例の守護獣様とやらを祀る祭壇と聖剣を祀る神殿の二つがある最重要区画だそうだ。


 ここに関しては情報が少なかった事もあって俺が先頭で行く。

 他と違った深い知識を持っている奴が居そうだったので、うっかり跡形もなく殺して記憶が抜けなくなっても困るからな。


 そろそろ集落に近づいて来た所で――おや、出迎えか。

 武装した連中が集まって待ち構えているのが見える。 先頭には長老とか呼ばれていそうな偉そうな爺さんが居た。 何か来る途中で殺した奴に似てるな。


 「止まれい! ここは神域なるぞ!」


 爺さんが声を張り上げたて来たので、取りあえず左腕ヒューマン・センチピードの間合いに入った所で足を止める。 爺さんは俺を真っ直ぐに睨み、他は俺の後ろに控えているレブナントの群れを見て顔を引き攣らせていた。

 俺が足を止めた所で爺さんは値踏みするように俺を見て――魔剣を見た所でさっと顔色を変える。


 「き、貴様、その、その剣を――その剣をどこで……いや、扱えるのか?」

 「見ての通りだが?」

 

 爺さんはいきなり顔面を汗まみれにしてはぁはぁと呼吸を荒くし始めた。

 何だいきなり? 人の顔見るなりはぁはぁと失礼な奴だな。

 まぁ、何でもいいか。 殺して記憶を抜けば早い。


 「まずは目的を聞きたい。 貴様等は何をしにここを訪れた。 そして何故このような惨い真似をする?」

 「来る途中に出くわした奴にも言ったが、聖剣を貰いに来た」 


 隠す事でもないので素直に答える。

 探すのも面倒だし、もしかしたら差し出してくれるかもしれないしな。


 ……貰ったら皆殺しにするが。


 「聖剣を得て何をするつもりだ?」

 「別に何も? 変な奴に使われて襲いかかられても敵わんので、事前に回収しておきたいだけだが?」 


 俺の物言いに引っかかる物があったのか、爺さんは夜でも分かるぐらいに怒りに顔を赤黒く染める。


 「聖剣は世界を滅びから守護する要! それを私利私欲に利用しようなどと恥を知れ!」

 「――で? くれるのか?」


 ごちゃごちゃと良く分からん事を言っているが、殺さないとは我ながら我慢強くなった物だ。

 あの珍獣女に比べると不快感が少ないので、怒鳴り散らしていても全然許せるな。

 俺の返答が気に入らなかったのか、爺さんは何故かさらに怒り出した。  


 「お主は世界を滅ぼしたいのか!?」

 「いや別に」

 「ふ、ふざけておるのか!? さっきから訳の分からん事を――」


 何を言ってるんだ? 聞かれた事に正直に答えているだけなのに何故こいつはこんなにも喚き散らしているのだろうか? さっぱり分からなかったが、会話が噛み合っていない事だけは良く分かった。

 早々にこれは時間の無駄だと見切りをつける。


 「あぁ、話にならない事は良く分かった。 勝手に家探しさせてもらうとしよう」

 

 俺は大きく頷いて左腕ヒューマン・センチピード一閃。

 頭を外して腰の辺りを狙う。 不可視の百足は爺さんの胴体を薙ぎ――おや?

 手応えがおかしいというよりないな。

 

 「――貴様が邪悪な存在と言う事は知れたわ! 守護獣さまの怒りを思い知るがいい!」


 爺さんはそう言って消滅。 代わりに例の符が現れて燃え尽きる。

 魔法を用いた身代わりの類か。 驚いたな、全く分からなかったぞ。

 同時に周囲に居た連中が叫びながら向かって来たので俺は小さく息を吐く。


 あの爺さんは記憶を抜くとして、後は要らんな。

  

 「殺していいぞ」


 俺がそう呟ようにいうと、レブナント共は待ってましたと言わんばかりに突撃。

 抵抗虚しく次々と餌になっている連中を無視して俺は集落へと踏み込む。

 後ろからはイフェアスが慌てて付いてきていたが無視。

  

 内部に入り軽く周囲を確認。

 山の頂上を削って作ったような集落だったので、露出している部分とは別に明らかに地下がありそうな形状だった。


 取りあえず手近な住民から――いないな。

 人気が全くなかったので、魔法で周囲を調べる。


 「この辺りの建物は全部空か」

 「恐らく守り易い場所に固まって避難しているのでは?」

 「――だろうな」

 

 イフェアスの意見に同意する。 問題はそれが何処かと言う話なのだが、考えるまでもないか。

 地下だな。 さて、何処から入るのが正解なのか――

 魔法で調べながら移動。


 「下に空洞はあるが――あぁ、そう言う事か」


 空洞がかなり広い事と連中の逃げ足が速かった事を考えると、何となく察しは付いた。

 広さを考えてもこの集落の総人口はそう多くないだろう。

 適当な建物に入り、イフェアスと手分けして片端から部屋を調べる。  


 「ありました!」


 早々に見つけたのかイフェアスが声を上げる。

 俺は即座に向かうと、イフェアスが床に隠していた地下への入り口を見つけていた。

 やはりあったか。 いくら何でも対応が早かったからな。


 住民の数もそう多くなかったところを見ると全て――ではないかもしれんが結構な数の建物の中にこういった抜け道があるのだろうな。

 もしかしたら定期的に避難訓練でもしているのか、マニュアルでもあるのかもしれん。

 

 サベージはでかすぎて通らないので外で待たせ、イフェアスを連れて地下へと降りる。

 梯子を下りると広い通路に出た。 通路には所々に梯子が降りている所を見るとあちこちに地下への出入り口があるのだろう。


 向かう方向は山の内側だ。 あの爺さんが守護獣の怒りがどうのとか言っていたので、何か仕掛けて来る可能性が高い。 面倒な奴が出てくるかもしれないなと思いながらも進む。

 道は特に分岐していないので迷わずに済むのは楽でいい。


 しばらくすると開けた場所に出るが――これは凄いな。

 そこには地下神殿と言うべき建造物が存在した。 その手前には広場があり、住民連中が跪いて祈りを捧げているのが見える。


 何だか良く分からんがさっきの爺さんの姿がない所を見ると中か。

 魔剣を第二形態に変形させ邪魔な連中を処理しようとした瞬間、神殿の奥で何かが光った。

 首を傾けると耳元で風切り音。 何かが通り過ぎ、壁に命中。


 ……何だったんだ? 結構な早さだったが、魔法攻撃の類か?


 振り返ると壁に穴が開いており、飛んで来た物が何だったのか良く分からなかった。 

 まぁいいかと神殿に視線を戻すといつの間にか爺さんが出てきたようだ。

 他もさっきので俺達に気が付いたようで険しい視線を向けて来る。


 「やはり来たか! これより降りかかるは守護獣さまの怒り! 絶望の中、己が成した事を自覚し、悔いるがよいわ!」

 

 何だか良く分からんが出て来てくれたのは好都合だ。 誤射の心配がなくなったな。

 展開しっぱなしだった第二形態を発射。 地面を舐めるように薙ぎ払い爺さん以外の連中を一掃。

 住民連中は悲鳴を上げる間もなく即死した。


 「……で? その守護獣様の怒りとやらはまだか?」


 周囲の掃除を終えた後、そう尋ねると爺さんは驚愕の表情を浮かべ何事かを口にしようとして――

 足元から激しい振動が伝わって来た。

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