第589話 「合体」
取りあえず、現場の事は現場にいる人間に任せろと言う事で俺は俺にしかできない事をする事にした。
まぁ、差し当たっては牢屋で拷問の順番待ちをしている連中の洗脳作業と情報の抜き取りだな。
片端から調べたが、大した内容の物は入ってなかった。 精々、オフルマズドの断片的な内情と、外に出られない事の不満、民や兵士達のと軋轢についてぐらいか。
どうもオフルマズドという国は場所柄なのか余所者を酷く毛嫌いしているらしい。
年齢層が上に行けば行くほどそれは顕著で、逆にその思想に染まっていない若い世代は比較的当たりは柔らかかったという話だが、それを加味してもグノーシス教団の扱いは村八分といっていい物だった。
……ここで生活させられた教団の連中は実質、島流しに近い扱いだな。
赴任と言えば聞こえはいいが、待っているのは自治区からの出入りが厳しく制限され、布教も許されない軟禁状態だ。
聖騎士共も訓練ぐらいしかやる事がなく暇を持て余している者も多かったらしい。
ただ、枢機卿と聖堂騎士だけは例外的にある程度の自由は許されていたようだが、控えめに言ってもストレスの溜まりやすい環境だろうなと察せられる。
表面化こそしなかったが一部の者からは自由に出歩ける事で、妬まれる事もあったようだ。
……まぁ、その辺は本人に聞けばいいだけの話か。
一日かけて、捕虜にした聖騎士や聖殿騎士、聖職者共の洗脳を終えて、最後に残ったのが聖堂騎士の三人だったが――控えめに言っても酷い有様だった。
手酷く痛めつけられたのか全身に痣だらけな上、半裸で両手足の関節を外されて、目隠しまでされている。
数は三人で、全員女。 どれも同じような状態だ。
「くっ!? こ、このような辱めを――殺せ! これ以上の生き恥を晒すぐらいなら……」
俺に気が付いたのか女の一人が喚き散らすが無視。
どうやら何度か自殺を図ったのか口元が血塗れだ。 恐らく、その度に見張りが治療して延命させたのだろう。
いちいち治療するのも面倒なのでさっさと済ますか。
取りあえず、うるさい女、めそめそしている女、もぞもぞしている女の順に洗脳した。
済ませた後、立てるようにしてファティマの所で指示を仰げと言って送り出した所で、今日の用事は終わりだ。
知識の吸い出しを行いはしたが、あんまり面白い情報はなかったな。
他の連中に毛が生えた程度の物だったが、少しだけ面白い情報があった。
グノーシス教団の自治区にある聖堂――その裏手に聖剣を安置してある台座があったのだが、どうやら偽物だったらしい。 なにせ本物は国王が握りっぱなしだったからな。
安置されていたのは良くできたレプリカだ。
記憶を見れば見る程、グノーシス教団がオフルマズドで冷や飯食いだった事が良く分かるな。
情報は最低限しか降りて来ず、アメリアの作った発明品の特許料で金を引っ張られ続け、挙句の果てには碌に還元もしないまま消滅して貴重な枢機卿と聖堂騎士を失ったと。
まぁ、大半は俺の所為だが。
すまんな。 悪いとは欠片も思っていないが。
……だが、結局の所、オフルマズドの目的とやらははっきりせず仕舞いか。
やっている事を加味すれば大雑把な方針は見えて来るが、実際の所はどうだったのかは何とも言えんな。
要はオフルマズドという国は大掛かりなシェルターで、連中は来るべき災害を乗り切るためにせっせと蓄えを増やしていた訳だ。
外からの干渉に対して驚く程の堅牢さを考えれば、引き籠って自分達だけでやって行くつもりだったのは疑いようがない。
実際、過剰なぐらいに食料自給率の引き上げを推進してたらしいからな。
大方、異世界版ノアの方舟と言った所だろう。
それにしても、あの王も聖剣をぶら下げていた割には随分と弱腰だな。
辺獄でもない限り、大抵の敵なら返り討ちにできただろうに、何を恐れていたのやら……。
少しの間、世界の危機とやらについて考えたが、どうせ答えの出ない疑問だと思い直し早々に思考を投げ捨て、この後の事へとシフトしていった。
一夜明けて、戦闘自体は片付いたので現地では後片付けの真っ最中だ。
使えそうな物資の引き上げとオラトリアムが関与した証拠の隠滅。
その二点を片付けて引き上げの予定らしい。
異変が外部に漏れるのは現状、防げており、外からの取引も陸から来る分はこちらで買い取り、海からの来客――要はクロノカイロスからの定期便が来るには少し猶予がある。
それまでに片を付けて撤収するつもりなので、現在急ピッチで作業中らしい。
定期便が来るまでは約二週間後らしいので、一週間以内に作業に決着をつけて引き上げたいとファティマは言っていたが、進捗を聞く限りは少し超過するかもしれんが問題なさそうだな。
さて、引き上げると言う事は残ったオフルマズドの跡地は放棄する事になる。
はっきり言って手に入れた所で旨みがない上、海越しとは言えクロノカイロスが近いので危険な事この上ない。
港は少し惜しいがリスクの観点から放棄が最善と判断したようだ。
だからこそ襲撃の際、派手に壊しまくったんだがな。
特に俺の用事はないし、やる事と言えば――そろそろ魔剣を剥がす事を検討するぐらいか。
フォカロル・ルキフグスにも武器を吸収して形状を模倣する能力があるので、ぶっちゃけた話、ゴラカブ・ゴレブが要らなくなったのだ。
戦闘の際はなるべく片手は空けておきたいので剣は二本も要らんしな。
取りあえず首途の所で例の鎖を複製できないか――おや?
俺の思考を読んだのかは知らんが、ゴラカブ・ゴレブが発光。
は、光った所で無駄だ。 お前の剥がし方は分かって……そう来たか。
この鬱陶しい剣はどうあっても俺から離れる気はないらしい。
何が起こったのかと言うとフォカロル・ルキフグスと合体して一本になったのだ。
両者が光の粒子になったと同時に混ざりあって一本の新しい魔剣として再構成されたようで、刃は相変わらずの黒。 変化としては柄のデザインが若干変わったぐらいか。
後は二本分になった事で流れて来る魔力の供給量が倍になり、両方の固有能力もそのまま使えるようだ。
……使い勝手は良くなったようだな。
なら問題はないな。 そのまま使うとしよう。
ただ、少し面白くなかったのでこれ見よがしに舌打ちしておいた。
「ありがとうございました。 私達でこなせればよかったのですが、配下に引き入れるのはロートフェルト様にしかできない事で――」
「そう言うのはいい。 取りあえず、やる事がないなら俺は少し休む」
場所は変わってファティマの執務室。
一応、グノーシスの連中の洗脳作業が片付いたのでその報告だ。
<交信>で済ませようかとも思ったが、来て欲しいとの事だったのでこうして足を運んだのだが……。
「えぇ、こちらも一段落と言った所ですので、そろそろ今後の予定を伺って置こうかと思いまして」
……あぁ、そう言う事か。
「すぐにどうこうと言う訳ではないが、やる事もあるのでそれが済み次第、隣の大陸を目指す事を考えている」
取りあえず隣のリブリアム大陸を回るつもりだ。
……とは言ってもまだこっちでやる事はある。
手に入れた魔剣の習熟や、やりかけていた改造種の作成と研究もあるから、切りの良い所まで進めておきたい。
その為、しばらくはオラトリアムでのんびりやる事になるな。
「まぁ、しばらくは滞在なさるのですね」
それを聞いてファティマが嬉しそうにするが、別にお前の為に残る訳じゃないぞ。
「そう言う訳だ。 俺が居る内にやって欲しい事があるなら早めに言ってくれ」
「分かりました。 では早速、世継ぎを――」
俺は無視して部屋を後にした。
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