第414話 「全滅」
ぐしゃりと六体目の魔導外骨格を魔剣で粉砕。
動きの癖は掴んだのでもう敵じゃないなと考えて俺は次の獲物に魔剣を向ける。
粉砕されたお仲間を見て、俺を取り囲んでいる連中が大剣や大杖を構えつつじりじりと距離を取っていた。
今、俺がいるのは恐らくサンティアゴ商会とやらの本店だ。
どうやってここに来たのかは簡単で、仕留めた連中が持っていた転移魔石を使って連中の懐に飛び込んでやった。 実際使ってみて思ったが、やはりこの魔石は使い辛い。
一瞬で、長距離を移動できるのは便利だが、奪われれば本拠に逆に切り込まれる事を考えると微妙な所だな。
さて、俺は何故こんな危険な真似をしているのかと言うと、ドゥリスコスに俺がある提案をしたからだ。
この状況で奴が降伏すると言っても捕まって殺されるのは目に見えている。
ここの連中から見れば自分達は家族を殺した仇なのだから寝首を掻かれかねないと考えるだろう。
そんな危険な輩を傘下に入れるなんて真似はまずやらないはずだ。
つまり、降伏すると申し出ても適当に理由を付けて殺されるので、奴は取引をしようと考えた。
まぁ、取引材料になるような代物を奴は用意できないようだから俺が作ってやろうと考えた訳だ。
連中の本拠に行って適当に損害を与えるからそれを材料にすればいいと。
当然ながら止められたが、任せろと言って押し切った。
魔導外骨格のサイズを考えると転移先は格納庫の類かと思ったら、どっかの屋敷のエントランスだったのは予想外だったがまぁ、些細な事だ。
即座に取り囲まれたのは寧ろ好都合と言って良い。
俺はその場に居た連中を適当に排除して記憶を吸い出し、この屋敷の戦力と間取りを把握。
魔導外骨格があの程度と考えると普通に何とかなるレベルだな。
王城に突っ込むよりは遥かにマシだ。 何せ転生者も聖堂騎士も天使も権能を使う悪魔も居ないしな。
その場に居た連中を皆殺しにしてしまったので暇潰しに周囲の音を魔法で消して場を整える。
待っているとノコノコと魔導外骨格の団体が現れたので対応。
幸いな事に十体全部来てくれたので探す手間が省けた。
投降しろだのと寝言を言っていた奴から始末して、順番に相手をしていたらあっという間に半分切ってしまい今に至ると言う訳だが……。
ちらりと上階を見る。 一瞬だが人の頭が見えた。
位置から考えてここのボスのブティルとか言うおっさんだろう。
音は消していた筈だがどうやって気付い……あぁ、さっき吹っ飛んで壁に突っ込んだ奴の所為か。
無音にはなるが建物に伝わる衝撃までは殺せんからな。
逃げ足が早そうな奴じゃないしここは本拠だ。
どこに逃げるんだという話だな。
今は放置でいいだろう。 こいつ等を片付けたらゆっくり相手をしてやろう。
……最悪、取り逃がしても問題のない相手だし気楽な物だ。
大杖を構えた奴がでかい<火球>を放とうとしてくるが、
行き場を失くした魔力が暴走して手元が爆発。 当然できた隙を見逃すはずはなく、俺は間合いを詰めて魔剣の第一形態で胴体を掘削して中身を粉砕。
後ろから斬りかかってくる奴には<榴弾>を叩き込むが構わずに突っ込んで来る。
やはり魔法は効きが悪いな。 物理魔法両面でここまでの防御力は本当に大した物だ。
……まぁ、いくらでもやりようはあるがな。
狙いは足。 複数で絡め取って片足が上がったタイミングで引くと間抜けな体勢でその場で転倒。
飛び乗った後、手の平から思いっきり濃くした毒液をぶっかける。
ボロボロと表面が溶け落ち、中身が悲鳴を上げてグズグズと崩れて行く。
酸も有効と。 転倒して立ち上がるのにもたついている所を見るとバランスにもやや問題があるのかも知れんな。
残り二。
腰が引けているのか向かってこない。
かといってその鈍重な動きでは逃げられない事もまた悟っているのだろう。
少し悩んだが煽る事にした。
俺はちょっと小馬鹿にしたように鼻を鳴らしてかかって来いと手招き。
……来ないな。
ならこいつの実験台になってくれ。
魔剣を元の形態に戻して薙ぐように大きく一振り。
刃から黒い火の粉が飛び散って周囲の死体に降りかかる。
すると死体や散らばった手足や臓器が一瞬で燃え上がり、足がある者は起き上がり、パーツは黒い炎を纏ってその場に浮かぶ。
――行け。
そう念じると燃え上がった者達が一斉に魔導外骨格へと殺到。
連中は完全に棒立ちで集られる。
黒い炎は瞬時に魔導外骨格へと燃え移り――
――凄まじい悲鳴を上げて胴体部分が開き中身が飛び出してきた。
そうなると後はゾンビ映画でおなじみのあのシーンだ。
燃え上がった死者の群れに圧し掛かられて悲鳴が徐々に弱まり――消えた。
以前に辺獄でも使用したが、この剣が持つ能力だ。
剣が持つ怨念が凝縮した黒い炎を周囲にまき散らし、触れた者に激痛を与え、死体やそのパーツを怨念で操り痛みの連鎖を広げるという何とも性質の悪い代物だな。
この剣の真髄は他者に痛みを与える嗜虐性だ。
正直、俺の戦い方とは噛み合わないので、有用ではあるかもしれんが使い辛いな。
やはりというか予想通り、辺獄の外では使用の際の魔力消費は自分で賄わなければならないようだ。
向こうではタダで撃ち放題だったが、こちらではそうもいかないらしい。
権能や第二形態使用時程ではないが相応の魔力を持って行かれるので、これはしばらく出番はないな。
一部は魔剣が負担しているのだろうが割に合わない。
それに無駄に痛めつける位なら比較的低燃費の第一形態で磨り潰した方が早いからだ。
悪いが俺はサディストじゃないので、無駄に痛めつけるのは面倒だから好かん。
さて、周りの連中は片付いたし、ここの店長に話を聞くとしようか。
<飛行>を使用して急上昇。
一気に上階まで上がって逃げようとしていたブティルの前に出る。
「ひっ!?」
腰が抜けたのか必死に這いずって逃げようとしていたが、何で逃げてないんだ?
まぁいいか。 楽に捕まえられたし。
背中を踏みつけて動きを止める。
「ぐぇ、ま、待ってくれ! い、いくらで雇われた!? 倍、いや、五倍は出してもいい! こちらに付かんか!? お前ほどの実力と――」
あぁ、もうそう言うのいいからさっさと記憶だけ寄越して死んでくれ。
頭を鷲掴みにして上を向かせて耳から指を突っ込んで記憶と知識を吸い出す。
はい、ごちそうさま。 もう死んでいいぞ。
手を放した後、首を踏み折って仕留める。
さて、適当に損害を与えるだけのつもりだったがうっかり全滅させてしまったな。
良い事だ。 これで交渉なんて余計な真似をせずに済むじゃないか。
後はここにある魔導外骨格と転移魔石関係の資料を頂いて引き上げだな。
……それにしてもやり辛い。
普段ならレブナントを生み出したり配下を増やしたりして地盤を固めるんだが、ここはテュケの息がかかっている可能性が高い以上、余り大っぴらに動けない。
特にレブナントはウルスラグナで派手に使いすぎたのである程度は知れ渡っていると見ていいだろう。
その為、軽々とそう言った行動をとる事は慎んでくださいとファティマがうるさいのだ。
流石に製法までは漏れていないと思うがリスクは回避すべきか。
そんな訳で、仕方なく我慢して人任せにせずに単独行動を行っている訳だが……。
……いい加減どうにかしたい物だな。
一応ではあるがその為の準備は順調に進んでいる。
後少しの我慢だと自分に言い聞かせて俺はその場を後にした。
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