第2話 ダメだったよ
「ギルー! どうだった?」
執務室から出て、クラン拠点の中にある自室に戻ってきた僕の耳に、とある女性の甲高い声が届いた。僕の名前を大声で呼び、長髪の金髪をなびかせて走り寄ってきたのはティナという名前の女性だった。
「うるさいよティナ」
「不機嫌だねぇー!」
今の行動からも分かる通り普段から明るくて活発な女性で、僕とよくパートナーを組んで魔物を狩りに行くような仲間だった。そして、彼女も僕の性別が男だと知っている人物の一人である。今日も駄目だと言われて落ち込んでいる僕の事を見つけて、嬉しそうに煽ってきた。
「それで、どうだったの?」
「今回もダメだったよ」
もう一度、ティナから尋ねられて僕は先ほどの結果を彼女に教えた。クランを脱退したいと訴えたが、聞き入れてもらえなかった事。レオノールから執務室を追い出された後は自室へと戻ってきた、という事を。
ティナに話しているうち無意識に、僕は地面に手をついてショックを受けていると一目見て分かるような、うなだれている体勢になっていた。少しでも男性だとバレないようにと、カモフラージュの為に伸ばしていた自前である長髪の黒髪が地面に垂れる。
「ほらほら、よしよし、気を落とさないでよギル。そんな格好で座ったら、綺麗な髪が汚れちゃう」
「うぅぅぅ……、いいんだよ僕の髪なんか汚れたって……」
ティナが項垂れている僕の側にしゃがんで、地面に垂れていた髪の毛を集めて結ぶと、その後に頭をヨシヨシと撫でてくる。子供じゃないんだからと手を振り払う気力もない。さっきまで煽ってきていたのに、今度は優しくしてきたりする。
クラン脱退を聞き入れてもらえず、レオノールに部屋から追い出された後は彼女に慰められる、というのがよくあるパターンだった。そして、今日も残念ながらクランから脱退することは叶わずに、ティナから頭を撫でられているという情けない結果となってしまった。涙が出そうだ。
「もう、クランから出ていこうとするの諦めたら? いくら言っても、レオノール様は許可してくれないと思うけれど……」
僕の頭を撫で続けてくれているティナは無情にも、クラン除名を諦めたらどうだと僕を説得しようとしてくる。どうやら、彼女はレオノール側の人間だったらしい。
「いやいやいや! いつ僕が男だって事がバレるのか、怖くて夜も眠れないんだよ。だから、男だってバレる前に先にクランから除名されたほうが良いと思うんだ」
「(その可愛い見た目じゃ、多分バレやしないと思うけどなぁ)」
「え? なんだって?」
「何でもないよ!」
何かボソッと呟いたティナに何と言ったのか聞き返してみれば、明るい笑顔で何も言っていないと誤魔化されてしまった。もしかして、馬鹿にされたのか。悲しい。
とにかく今の所は髪を伸ばしたり、女っぽい仕草や服装を意識してみたりと、色々な創意工夫によって男だという事が他のギルドメンバーにはバレていない。けれど、注意しなければならない。
いつか、僕が男だという事がバレてしまう日が来るかもしれないのだから。それは今日かもしれないし明日なのかもしれない。
そういう危機感を僕は常に抱いているんだと、ティナに訴えかける。だけど彼女は僕の危機感を正しく理解してくれていないのだろう、幸せそうな笑顔を浮かべて僕の話を聞いてくれるだけだった。
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