第1話 嫌いな祭り
「たーまーやー」
掛け声と共にヒューと音を立てながら四尺玉が暗闇の中打ち上げられ空に飲み込まれていく。しばらくするとパァーンと綺麗な音色を奏でながら暗闇だった空に火の花を咲かせた。
「わぁ、今年も始まったわね! 伊織」
そう声を張り上げながら俺に言ってくるのは、三門結月。俺の数少ない友達で夏休みは基本的に家に引きこもっている俺を祭りがある度に駆り出しにくる。
俺は、夏が嫌いだ。あの日を思い出してしまうから。だから、その夏を思い出してしまわないように家に引きこもっているのだが何故か、祭りは好きだ。あいつが、どこかにいる気がして、見られている気がして祭りに参加している時だけは心が落ち着く。だが、同時にあいつの笑顔を思い出してしまい花火が見える頃にはいつも一人涙を流してしまう。今だってそうだ。瞳には、涙が溜まって今にも溢れ出しそうだ。
「ほら、拭きなよ。そんな顔見せて良いの?」
そう言いながら結月は、俺にハンカチを押し付けてくる。そう言う結月だって顔は涙でくしゃくしゃだ。
「結月、ありがとう。結月こそ拭いとけよ。俺は大丈夫だ。」
そう言い俺は結月にハンカチを押し返す。
もうあの日から一年以上たっているのに二人共あいつのこもを忘れた時は無かった。忘れれる訳がない。忘れて良いはずがない。毎日一緒にいたやつが、急に居なくなる。あいつの笑顔がなくなる。日常から、非日常に引き落とされた気分だった。今だってそうだ、あいつが居ないなんて非日常にも等しい毎日だ。だから忘れないように涙で溢れている瞳で火の花が咲く空をを眺め続ける。あいつがいた日々を思い出しながら
「終わったね、花火」
物悲しそうに結月は、暗闇の空を見上げながら言う。
「あぁ、そうだな。今日は、送って行ってやるよ。もう夜も遅いしな」
さっきまで涙で溢れかえっていた、瞼の周りを指で拭き取り立ち上がる。
いつまでもあの日のことを思っていたとしても、あいつが、戻ってこないのは知っている。だから俺は、あいつの分だって結月と一緒に生きようって決めていたのにこれじゃあ、全くダメだ。生きている心地がしないのだから。こんなのじゃダメだって分かっているのに行動に移すことがいつまで経っても出来ていない。だからこそ、俺は結月と目を合わせ、あいつの分も生きると今改めて心に誓った。
「じゃあ、帰ろうか。」
そう言いって結月も立ち上がった。そして俺と結月は、暗闇の空からこちら側を照らしている月を眺めながら帰った。
「じゃ、またな」
俺は結月を送るために結月の家の前まで来て足を止めた。
「うん、バイバイ。今日、楽しかった」
そう言い結月は、笑いながら俺を見る。そして何か思いたったように手を叩いた。
「あっ、そうだ! 家にさ、まだ
手持ち花火が残ってるから一緒に庭でやっていこうよ!」
俺は断る理由もなく即答した。
「おう、やるか。」
俺と結月は、庭に行き早速花火を始めた。
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