第32話 魔術師が去った後の森にて-別視点×2-

 即座に忌々いまいましい霧を振り払って辺りを見渡したが、そこにもう人影はなかった……。

 元々希薄きはくだった気配も完全に消え失せている。


 逃げられた……。


 大きな水音が聞こえたし、恐らく湖に飛び込んだのだろう。

 何か分かるかと湖面に近付き水中をのぞき込んでみたが…………。


 これは追えないわね……。


 マナの流れで分かるが湖の水流はメチャクチャになっていて、もし仮に私が後を追って水中に飛び込んでも弾き出されることが容易に想像が出来た。


 水属性の使い手であることは予想できたけど、まさかここまでの力が……。



 執拗しつように正体を隠していたことといい、これだけの能力といい…………こんなのを差し向けてアナタは一体どういうつもりなの?


 この1000年間もの間、思えば一度も顔を合わせていないわね……。

 ああ、まさかアナタまで……。


 お願い……アナタだけは信じさせて……もしアナタまで私を裏切るのであれば、そうなったら…………。



 後向きな考えばかりが頭をかすめていると、ふいに身体から力が抜ける感覚がしてふらつく。


 あ……きっと寝起きのせいで調子が良くないのね……。

 アイツはまた会いに来ると言ってたわ、ということはまだしばらくこの付近にいるということ。


 大丈夫、少し休んで……そしたら今度こそアイツを捕まえるわ。


 いったん聖域に戻りましょう……。




―――――――――――――――――――――――――――……


《同刻 森の上空》


 それに気付いたのは偶然に過ぎなかった。

 たまたま飛竜を使う用があり、たまたま大地の大精霊が住むという森の上空を飛行していたからこそソレに気付くことになった。


 森の中のやや開けた湖のほとりに突然、霧がかかったのだ。あれは魔術による霧だ……。

 時間にしてほんの数秒の短い時間、しかし私の目には妙にその光景が印象に残った。


 なぜなら、その霧の魔術は自分がよく知る人物が使うものによく似ている気がしたからだ……。

 距離が離れているせいで絶対にそうだとは言い切れないが、似すぎてる程度には似てる気がした。


 ……いや、アイツは本国にいるはずだからこんな場所にいるのはおかしい。



 思案しながら霧が消えた場所を見つめていると、その場所にとある人影を見つけた。


 あれは人……ではなく精霊か、こちらも距離が遠くてハッキリしないが容姿の特徴は大地の大精霊のそれに酷似しているように見える。

 だがしかし、それにしてはやや魔力が……。


 そんなことを考えていると、その精霊の姿はフッと消えた。


 ………………。


 念の為、アイツのことについては本国に確認を取っておくか。


 何故だか、妙な胸騒むなさわぎがするからな……。

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