第42話 4人の事情と僕の決心
王国を抜けた僕達5人、最初に向かうのは商業の国。
国の名の通り商業を中心としている国で、本当に大陸中の商人が集まって商売をしている。また、商業の国の周辺にはダンジョンも多く点在していて冒険者も集まる国でもあった。
多くの冒険者達がダンジョンに挑戦して、沢山のアイテムをダンジョンから手に入れ戻ってくる。ソレを商人が買い取って、大陸中へ散って売り歩くといった商人の流れが主でもある。
王国から商業の国へ向かう道は、普通の旅だったら街道を通って行くのだろうけれど、僕たちは、王国から狙われているという可能性があって後ろから王国兵が追ってくるかも知れないと考えて、街道は極力使わないようにした。そのために途中で馬車を手に入れることもなく、ずっと徒歩での移動になった。
こうして、モンスターが出現する道をじっくりと日数を掛けながら進んで行った。
幸いにも戦力的には一切の問題がなかった。
僕とダンジョン攻略してから能力が飛躍的に上昇した、フレデリカさんとシモーネさんのクロッコ姉妹2人。フレデリカさんの力強い大剣での攻撃、シモーネさんの百発百中に近い弓の技術、どちらも凄い戦力となっていた。
王国の諜報部隊に所属していた経験のあるトリュスは、元の能力が非常に高くて、森の中や遮蔽物がある場所ではモンスターから身を隠しながら近づいて、一気に接近して倒すという戦術が無敵の強さを誇っていた。
この中で能力的な事や経験などは一段劣るが、魔法使いとしての能力は一流のフィーネ。特に攻撃魔法で複数体のモンスターを一度に倒せる強力な魔法が使えるので、他の人達よりも殲滅力は高い。
そして、僕は攻撃魔法に回復魔法、支援魔法となんでも使える万能な魔法使いとして、パーティーの助けになっていたと思う。
旅をしている間は、一緒に旅をしている4人と色々な話をした。
トリュスが、僕が王城へ連れて行かれた日に女王の部屋の前に居たのは、あの日に僕がダンジョンから帰還したことを知って、僕の情報を集めている時に、王城へと連行されていくことを知ったそうだ。そして、僕を助け出そうと王城に忍び込んで、あの場所で待機していたらしい。本当は、あの時に女王の執務室へ単身突入して王国兵5人を無効化してから、女王の側に仕えていた魔法使いに牽制して僕を抱えて逃げるつもりだったらしい。
それが、いきなり扉から僕が出てきてビックリしたけれど丁度良いから、計画をちょっとだけ変更して、部屋の中の人達は全員無視し、急いで城の外へと僕を連れて逃げ出したという。
クロッコ姉妹は僕が王城へ連行された日、トリュスが家へとやって来て僕の置かれた状況を説明して王城へ向かったと言う。トリュスからの話を聞いて、フレデリカさんとシモーネさんは僕と一緒に王国を出ることを決心。冒険者仲間に、帰る家を安値で家を売っぱらって出てきたという。
「え? 本当にあの家を売ってしまったのですか?」
「おう、思ってた以上に高く売れたし良かったよ」
僕がビックリして聞き返すと、フレデリカさんは笑顔で答えた。
「たしか、母親から受け継いだ家じゃなかったんですか? 売ってよかったんですか」
「売ってよかったよ。いつかは家を処分して王国を出るつもりだったし、他国のダンジョンを攻略したいと思っていたから、いま売らなくてもそのうち売っていたさ。それに、今回のは丁度いい機会だと思って売ったんだよ。シモーネともちゃんと話し合って賛成を貰ってさ」
母親から受け継いだということは、言い換えれば形見のような物だと思ったが、フレデリカさんにはあの家に執心が残っているようには見えなかった。それに、シモーネさんとも相談しあって決めたのなら、これ以上僕が言えることはないだろう。
フィーネは魔法研究所へ戻った日の夜、自分の部屋に戻って悩んだそうだ。
「ここでエリオット様と別れたら、次に会えるのは何時になるかわからない。1週間でも死にそうな思いをしたのに、次どれだけ会えないかを考えると耐え切れない!」
悩んだ結果、待つことは出来ない、僕と一緒に旅に出れるようにお願いしようという結論を出したらしい。
そして、次の日の朝に魔法研究所を辞める事を偉い方に告げて研究所を飛び出し、クロッコ姉妹の家へと戻った。しかし、そこには既に僕は居なくて、代わりに居たのは旅に出る準備をしているクロッコ姉妹。
詳しくフレデリカさん達に話を聞いてみると、僕が王城に連れて行かれて不穏な状況に晒されている事を知ったらしい。トリュスという女性が、僕を連れ戻してそのまま旅に出るつもりだから、クロッコ姉妹も準備をしている状況だったので、私も連れて行ってと半ば強引にクロッコ姉妹と一緒に街の外にある草原へと向かって行き、そこに居た僕とトリュスに出会い、一緒に旅に出ることを了承してもらうことになったという。
4人の女性の事情を聞いて、色々な物を犠牲にさせていることを心苦しくて思ってしまい、ますます彼女たちの助けになれるよう頑張ることを心に決めた僕は、旅を続けていた。
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