第22話 帰還

 僕達3人組のパーティーは、ドラゴンが居た階層から上へ上へと階段を登っていく。


 最下層へ向かう道中でのモンスターとの連戦、ダンジョンの最下層に到達した特典の神の祝福を受けて、ドラゴンという伝説級モンスターとの戦闘を経た僕達。そして、フレデリカさんとシモーネさんの2人は、非常に濃い経験によって能力が著しく成長した。




  元々は冒険者として能力が平均よりは高かったが、有名になる程には突出してなかったという2人。しかし、成長力も高くて能力が向上する速度が尋常ではなかった。



 多分、王国で冒険者をしているフレデリカさん達と同じぐらいの能力を持っている人たちが同じ経験を積んだとしても、彼女たちのように能力が向上することはないだろうと思う。それぐらいに異常な成長を見せた。


 


 そして、僕もこの数日間で色々な経験をくぐり抜けてきて、研究者になる前に旅していた頃や少しの間だけ冒険者をしていた頃の戦闘の勘や、魔法の使い方や感覚を取り戻してきていた。



 ダンジョンに挑んだ当初はゆっくりと思い出に浸りながら王国を旅立つ事前準備として、ダンジョンに潜って行ってモンスターなどを倒してゆっくりと感覚や勘を取り戻していくつもりだったけれど、今回のようにモンスターとの連戦やダンジョン内での野営、そしてドラゴンという強大なモンスターとの戦いで、錆び付いていた昔の感覚を急速に取り戻していた。


 そんな3人が上手に連携して戦闘に挑むために、ドラゴン戦を超えて以降、向かってくる敵には一切苦戦はしなかった。むしろ、フレデリカさんは上がった能力を存分に発揮したい、出し切りたいと思っているのに、出現する敵が弱すぎると言って全力を出し切れないことにヤキモキしていたりする。



 そして、シモーネさんはこの数日間で上がった能力を一つ一つ検証していくようにモンスターとの戦闘を繰り替えして、自分の事について調べていた。


 戦闘には苦戦は無かったが、このダンジョンは非常に階層が深いようで30層、40層と数えて上がってきたが、一体何層まであるのかが分からないために出口がほんとうにあるのか心配になってきていた。

 道中では他の冒険者のパーティーが一切見当たらなかったので、それが更に不安だった。



 けれど、上へ続く階段は各フロアに必ずあったので上への階段が続く限り、行き止まりになるまで一先ず上へ進み続けようと相談し決めていた。



 新しい階層へ到着したら僕が探索魔法で階段を見つけて、今上がってきた階段と次に登る階段との最短距離を調べて、その通りに先へと向かって進んでいくという繰り返しだった。


 


 そして、とうとう50層目に到着した時。


 


「エリオット君、これ」

 階段を上がった先で何かを発見して指差すシモーネさん。僕とフレデリカさんが一緒に指差す先を見てみると、見覚えのあるものがあった。


 


「お、石碑じゃねえか」

 フレデリカさんがあったモノの名前を口に出す。このダンジョンの最下層で見た、台座の横に置かれていた石碑とよく似たものが階段の脇に設置されていた。一番上の“ケラヴノス”と書かれた文字以降、全く読めない文字がつらつらと書かれている石碑。

 この石碑が階段脇に設置されているということは……。


 


「はぁ、やっと出口のようですね」

「えぇ、そうね。疲れたわ」

「おっしゃ! やっと外に出れるな」

 僕が事実を述べて、シモーネさんとフレデリカさんが今の感想を声に出す。


 


 石碑は一般的にはダンジョンの入口付近と、最下層に1つずつあると言われている。つまり、階段脇のココに石碑が設置されているということから、このケラヴノスというダンジョンの出入口はココだという事らしい。ただ、僕達のいる場所は岩や土で出来たほらあなに薄暗い照明があるだけだで、まだ外に出たわけではない。



 石碑から視線を外して通路を観察する。一本道で、奥の方にダンジョンの薄暗い光とは違う真っ白い光が見える。多分あれが外に繋がる出入口だろう。


 


 リーヴァダンジョンに突入した時の長い通路を思い出しながら、僕は外に出られるであろう一本道の通路を光が小さく見える方向へ向かって歩いていく。

 先に進んでいけば段々と先に見える光が、どんどん明るく大きく見えてくる。ここまで来て僕はようやく、フレデリカさんの言ったようにやっと外に出られるという実感が湧いた。


 


 そして遂に、僕達3人は非常に危険な状況に陥ったものの大きな怪我もなく外へ出ることが出来た。


「はぁ、久しぶりの太陽は眩しいなぁ」

 フレデリカさんが太陽に手にかざしながら見上げていた。僕はずっと薄暗いダンジョンの中に居たせいなのか、目がチカチカと光に慣れず、太陽から目を逸らしつつ出た場所の周りを観察して見た。


 


「この場所は何処だか分かる?」

 同じように辺りを観察していたシモーネさんが聞いてくる。

 リーヴァダンジョンの出入口に比べて非常に小さくて、整備もされていない。ただの洞窟への入り口に見える、その周りは木に囲まれていて、どうやら今居る場所は森のなかのようだった。そして、周りには人が一切居なくて、誰かが管理や警備をしている様子はない。


 


「ココはもしかしたら、未発見のダンジョンなのかもしれません」

「え? 私たちは新しいダンジョンを発見したの?」

 “ケラヴノス”という聞き覚えのないダンジョン。登ってくる途中で冒険者が一切見当たらず、今も出入口の付近には人間が見当たらない。そして、全80層もある深くてドラゴンが出現するダンジョンなら多少は話題になっているはずと思うが、僕達3人は聞いたことがなかった。



 これらの事から、このダンジョンはまだ誰にも知られていないのではないかという可能性を考えた。


「そうだとすると、やっぱりまだ私達が何処に居るか分からないわね」

「そうですね。近くに村か街が有ればいいんですが」


 こうして、ダンジョンから無事に脱出した僕たちだったが、依然として居場所を特定できないでいたので、周りに村か街が無いか、人と会って情報を得るために辺りを探すことになった。


 


 夜までに見つけられればいいなと思っていた僕達だったが、なんと僕達が居たのは王国からほど近い、王国の南にある山の中であることが判明した。そしてすぐに王国へと向かって、日が暮れる前の時間には王国の街へと到着していた。


 


 僕達がリーヴァダンジョンへと向かい、戻ってきた頃には6日間を経過していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る