第2話

 

「俺? うむ……逆ナンパ以上、知り合い未満てとこかな」


 ヒロトは一見、普通ぽいけど、どことなく不良ワルを感じさせる17~8歳です。顔は悪くないけど、イケメンまでいきません。普通の上ぐらいです。着てるモノも安っぽくて、わが家の家風にはちょっとそいかねます。


「ど、どこで知り合ったんですか?」


「そこの公園。ベンチで俺が求人見てたら声かけてきてさ。年上だけど美人だったから話したら、結構可愛いじゃん。俺が独り暮らしって言ったら、飯をごちそうしてくれるって言うからついてきたってわけ」


「フムフム……そうでしたか」


 ぼくが次の言葉をもさくしていると、


「ただいま~」


 玄関から母さんの声がしました。ぼくが“おかえり”と声をかけようとしたら、


「あ、ヒロトくん、お待たせ」


 ぼくの前を素通りして行ったんです。それに、いつもとようすが違ってたんです。なんて言うか……。


「ヒロトくんは、何が食べたい?」


「あ、さっちゃんにおまかせします」


(ゲ。母さんのこと、さっちゃんだって。なれなれしい。それより、母さんはぼくがここにいるの気づいてないのかなぁ……)


「じゃあ、私の得意料理を作るわね」


(いつもは黒っぽいエプロンなのに、きょうはピンクのエプロンなんかしちゃってる。あ、そうか。なんか違うと思ったら、言葉づかいが違うんだ。なんか、ぶりっ子してるみたいだ)


「じゃ、出来るまでテレビでも観てて」


「オッケー」


 ヒロトはテレビをつけると、父さんの指定席だったソファーのとこに座って、ドラマの再放送を観ています。


 母さんは母さんで、鼻歌まじりで、キャベツなんかきざんでいます。二人とも、ぼくの存在に気づいてないようです。


「ん! ん!」


 ぼくがせきばらいをしても、二人がふりむくことはありませんでした。悲しくなったぼくは、しょんぼりしながら自分の部屋に行きました。




 夕飯の時間になっても母さんは呼びに来ません。しかたなくリビングに下りると、


「うふふ……」


 母さんが少女のような笑いかたをしていました。二人は向かい合って食べながら、なにやら楽しそうです。ぼくはえんりょがちに自分のいすに座ると、


「……お母さん、……ごはん」


 小さな声で言いました。


「うふふ……」


 ぼくの声が聞こえなかったのか、母さんは少女のように笑ってばかりいました。


「お母さん、ごはん!」


「あら、雄大ちゃん、おかえり」


(ゲ。“雄大ちゃん、おかえり”だって。いつもは、“おう、息子、まだどうていか?”のくせに)


「あ、紹介するわね。江川裕人くん。息子の雄大です」


「ヨッ」


「どうも。……こんばんは」


 ぼくはしかたなく、初対面のふりをしました。


「裕人くんはね、大学1年生。バイトしながら大学行ってるんだって。偉いでしょ?」


 母さんは、とんかつや野菜サラダをぼくの前に置きながら、ヒロトのすじょうを話していました。


「独り暮らしだから、自分で料理作って食べてんだって。偉いでしょ?」


「……うん。えらい」


「だからね、お母ちゃんがごちそうしてあげてるの。いいでしょう?」


「……いいけどぉ」


「裕人くん、たくさん食べてね」


「はい。このロースかつ、めっちゃうまいです」


「ありがとう。よかったわ、お口に合って。うふふ……」


(また、ぶりっ子笑いしてる。いつもは、ゲヘッとかガッハッハなのに。……けど、なんだか幸せそうです)

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