第2話
「俺? うむ……逆ナンパ以上、知り合い未満てとこかな」
ヒロトは一見、普通ぽいけど、どことなく
「ど、どこで知り合ったんですか?」
「そこの公園。ベンチで俺が求人見てたら声かけてきてさ。年上だけど美人だったから話したら、結構可愛いじゃん。俺が独り暮らしって言ったら、飯をごちそうしてくれるって言うからついてきたってわけ」
「フムフム……そうでしたか」
ぼくが次の言葉をもさくしていると、
「ただいま~」
玄関から母さんの声がしました。ぼくが“おかえり”と声をかけようとしたら、
「あ、ヒロトくん、お待たせ」
ぼくの前を素通りして行ったんです。それに、いつもとようすが違ってたんです。なんて言うか……。
「ヒロトくんは、何が食べたい?」
「あ、さっちゃんにおまかせします」
(ゲ。母さんのこと、さっちゃんだって。なれなれしい。それより、母さんはぼくがここにいるの気づいてないのかなぁ……)
「じゃあ、私の得意料理を作るわね」
(いつもは黒っぽいエプロンなのに、きょうはピンクのエプロンなんかしちゃってる。あ、そうか。なんか違うと思ったら、言葉づかいが違うんだ。なんか、ぶりっ子してるみたいだ)
「じゃ、出来るまでテレビでも観てて」
「オッケー」
ヒロトはテレビをつけると、父さんの指定席だったソファーのとこに座って、ドラマの再放送を観ています。
母さんは母さんで、鼻歌まじりで、キャベツなんかきざんでいます。二人とも、ぼくの存在に気づいてないようです。
「ん! ん!」
ぼくがせきばらいをしても、二人がふりむくことはありませんでした。悲しくなったぼくは、しょんぼりしながら自分の部屋に行きました。
夕飯の時間になっても母さんは呼びに来ません。しかたなくリビングに下りると、
「うふふ……」
母さんが少女のような笑いかたをしていました。二人は向かい合って食べながら、なにやら楽しそうです。ぼくはえんりょがちに自分のいすに座ると、
「……お母さん、……ごはん」
小さな声で言いました。
「うふふ……」
ぼくの声が聞こえなかったのか、母さんは少女のように笑ってばかりいました。
「お母さん、ごはん!」
「あら、雄大ちゃん、おかえり」
(ゲ。“雄大ちゃん、おかえり”だって。いつもは、“おう、息子、まだどうていか?”のくせに)
「あ、紹介するわね。江川裕人くん。息子の雄大です」
「ヨッ」
「どうも。……こんばんは」
ぼくはしかたなく、初対面のふりをしました。
「裕人くんはね、大学1年生。バイトしながら大学行ってるんだって。偉いでしょ?」
母さんは、とんかつや野菜サラダをぼくの前に置きながら、ヒロトのすじょうを話していました。
「独り暮らしだから、自分で料理作って食べてんだって。偉いでしょ?」
「……うん。えらい」
「だからね、お母ちゃんがごちそうしてあげてるの。いいでしょう?」
「……いいけどぉ」
「裕人くん、たくさん食べてね」
「はい。このロースかつ、めっちゃうまいです」
「ありがとう。よかったわ、お口に合って。うふふ……」
(また、ぶりっ子笑いしてる。いつもは、ゲヘッとかガッハッハなのに。……けど、なんだか幸せそうです)
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