第1話 遅刻

 優人は最近、音楽を聴くことに狂ったようにハマっている。ボーカロイド曲や、K-POPが多く聴かれるなか、邦ロックにここまで熱中している中学生はそういないだろう。とはいえ、優人自身、この学校にもう1人同じ趣味の人間がいることを知っている。

 その奇人こそ、優人の幼馴染み、真瀬凛まなせりんである。

 来月、一緒にあるバンドのライブイベントに行くことが決定していて、優人はそれが楽しみで仕方ない。

 だから今も、ワイヤレスイヤホンをアンビエントサウンドモード(外音取り込み機能をオン)にして、そのバンドの曲に浸りながら歩いている。すると、ポケットからバイブレーションが。

----通知音。

少し気になってスマホをポケットから取り出す。そして通知の一覧が表示されている画面からそのメッセージを読む。

 「あ……」

その間抜けな声が漏れるのと同時に、優人はスマホの上部、現在時刻の表示を見た。

 現在、8時21分。

 登校時刻、8時15分。

 こんな阿呆あほに対して、優しい凛が教えてくれたのだ。

 今日から本格的に部活動が始まるというのに情けない男である。

 (どうせ遅れるんだし……)

 優人は急ぐ素振りを見せず、むしろいつも以上にゆっくり歩いて学校へと向かった。

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