第2話 平謝りしかできません

 優人が学校に到着したのは8時30分になる少し前。ギリギリHRホームルーム中。

 教室に入ると、そこまで有名人でもない遅刻者に目を向ける人間は数えるほどしかいなかった。そのうち1人が先生。そして、先生以外に、焦がすような視線でこちらを見つめている人間がいることに気づく。しかし、優人は敢えて、その視線の方を向くことなく、先生のところへ、遅刻した理由の説明と謝罪の用を済ませに行った。

 そして自分の席に向かおうとすると、必然的に、その熱烈な視線の源に目を向けることになり、彼女の怒りが露わになる。

 明らかに優人に対して憤りを憶えている、彼女の顔は、それでいて煌びやかで。でも派手じゃなく、素朴な可愛らしさを備えていて、長く茶色がかった髪は、窓を隔てた強い日差しに照らされ、輝いている。整った顔立ちは歪んでも歪みきらない。

(怒っててもかわい……じゃなくて!)

優人は、いつもあれだけ穏やかな凛が、自身の遅刻程度でここまで感情的になっている理由にようやく気づいた。

 教室内にしては急ぎ気味で凛のところへ向かい、すぐに腰を曲げる。

 「ほんっとにごめん!!」

 優人が謝る理由。それは、優人が自分で軽音部員を集めておいて、当の本人が来なかったためである。にも拘らず、呑気に歩いてきた優人は自己嫌悪でいっぱいである。

「許すけどさぁ!」

(このツンデレなとこ最高なんだよなぁ)

----反省即終了のお知らせ。

「ちゃんと後輩にも謝ってきて!」

「はい……。」 

 ここで先生からの冷静な一言。

「まだHR終わってないぞー。席着け!」

 優人のせいでHRが長引くと、クラス全体に迷惑がかかる。こうなると誰でも注目を浴びるのだな、と人間の性質を実感し、皆が座っているのを見て、優人は慌てて自分の席に戻る。すると、日直の「起立!」の声で中学3-3の生徒が全員立つのと同時に8時30分のチャイムが鳴る。

 先生の時間感覚と、自らの遅刻してもHR中には登校する能力の正確さに感心し、「宜しくお願いします」を言っていない分、「ありがとうございました!」に力を込めた。

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