部屋の掃除にて

部屋の掃除にて


 典型的なB型なので、まぁ自己中心的だし、わがままで自分が興味持ったことにしか興味を持てません。

 今日は部屋の掃除に心のベクトルが向いたので、バキバキに掃除をしようと思って思い立ったが休日の昼下がり。


 まずは布団を僕からも部屋からもひっぺがしてそとに連れて行く。 「まだゴロゴロすればいいじゃん」という僕の中の悪魔に対し、「まだゴロゴロしたら幸せだよ」と天使の意見も一致するもそれを一蹴する。よくやった自分自身。

 二階のベランダからは道行く子どもと母親が楽しそうに手を繋いでる。そこにひとりぼっちのため息を落とすように布団をヘリにかける。


 次は洗濯物だ。前にも書いたが僕は洗濯という行為が生きてて一番嫌いだ。洗濯物を洗濯機に入れて回して待って、終わったら干して乾くのを待って、次に取り込んで畳んでしまう。こんな煩わしいことがあるか。というわけである。しかし今日の僕は一味違う。すでに布団と格闘する前に洗濯機を起動させていたのだ。よくやった自分自身。布団を世界に解き放ち終わったころ、洗濯機がピーピー音を鳴らす。想定通りだ、今日ばかりはお前らもすぐに野山に解き放ってやる。とんでもなく悪人ヅラをした僕は乱暴に洗濯物を取り出し、この暴れん坊どもを空に整列させた。


 ここまではまだ序の口、ここから僕の奇跡の軌跡ははじまる。と思った矢先、さっきまでかけていたBGMに急に気を取られた。あれ、グッドミュージックが流れているぞ。そう思ったが最後、気がつけばカチッと煙草に火をつけていた。

 冒頭にも書いたが、僕は典型的なB型なので、まぁ自己中心的だし、わがままで自分が興味持ったことにしか興味を持てません。

 心のベクトルは部屋に充満する聞いたことない軽快なリズムの音楽に向いてしまいました。


 そうやっているうちに時計の針がぐるりとしてしまいました。なんとかもう一度悪人の志を胸に戻して、僕の破壊と再構築が始まります。


 掃除機という文明の利器を片手にコブラよろしく床という床を滑り散らかす。気分は国際指名手配犯だ。軽やかに地上のチリを吸いこむ。これぞ破壊だ、全てを飲み込んで零にもどす。


 そして次はクローゼットの身ぐるみを剥がす。もうとなりのマンションから「ぼうじゃくぶじんー、ちくちょー」と聞こえてくる気がする。

 何着あるかわからない服たちを粗末にソファに投げ込む。ここはもはや四ツ谷、番長服屋敷だ。一枚、二枚、三枚、・・・いや多すぎる。多すぎるぞクローゼット。こんなにもしまいこんでいたのか。この野郎。もはや日本一小さい山くらいは積もったソファを見下ろし少し息が上がっていることに気づく。まだまだ戦いは終わらない。


 ここからDJがレコードを巻き戻すように(まぁDJなんてやったことないし、なんならクソ喰らえと思っている人種だけれども)投げ込んだ洋服をときに丁寧に畳んで、ときにハンガーの向きをそろえ掛け直す。過去の自分に見せてやりたい。お前が投げ込んだ洋服を、未来のお前が歯を食いしばりながら綺麗にしまい直しているぞ。なんと滑稽なんだろうか、それなら最初からクローゼットから出さなければよかったのにな!


 ここまで来るとだいぶいい時間である。終了の十秒前を伝える木槌の音がカンカンと聞こえる。ゴングまであと少しである。もう脚はガクガクに震えて早くコーナーに戻ってしまいたいと後ずさりしている。このままでは布団はそとに締め出したままだし、掃除機をかけたままの部屋のレイアウトはもはや先生がいない幼稚園児たちのように、散り散りになんの規則性もなく拡散されているままだ。

 笑ってる膝を黙らせて再構築を始める。お前はここ、お前はそっちとまるで独裁者。戦慄のワルツを奏でながら何事もなかったかのように時間を巻き戻す。


 そうやってこの部屋に平穏が戻りもう一度煙草に火をつける。天使が「ほら部屋を綺麗にすると心が綺麗になるでしょ?」といい、悪魔が「ごろごろしちまえよ」と囁く。うるさいな、と最後のごみを掃除して今日のミッションは終了である。

 この部屋にはもともと何もなかったのである。とぽわりと天井に煙を吐き出した。

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