第16話
マレク王宮の地下、鉱山跡を利用して牢獄は作られていた。
牢獄が揺れた。
「近いわね。王都に着弾したわ」
ベルリーネは裸だった。
豊満な体を牢獄の粗末なベッドに横たえていた。
「なんという事だ。あのコジキ王。自身満々にマレクは大丈夫だなどとうそぶきおって」
ズボンを抜きながら禿げあがった頭の男が言った。
「町長さん。ベッドに座った方がいいわよ。まだまだ揺れるわよ」
「フン! こんなカビ臭い所に長居してたまるか!」
ズウンという音が響いて、牢獄が揺れる。
石畳に置かれた金属のタライが振動しながら横に滑っていく。
タライが石畳の角で跳ね上がり、タライの中の液体が男の足に掛かった。
「うわっ! 汚い!」
男はズボンを脱ぎかけた姿勢で飛び上がる。着地の際に転倒し石畳に頭を打ちつけた。
「ハウッ!」と短く発声したのが男の最期の言葉となった。
「あらあら。勝手に死んじゃった。手間を掛けさせない男ねぇ」
ベルリーネはベットに寝ころんだまま器用に服を着ると牢獄を出た。
ベルリーネはひんやりとした洞窟さながらの通路を進む。
時折砲撃の振動で地面が揺れる。ベルリーネは壁に手をつく。壁はむき出しの岩だった。掌に岩の先端が刺さった。ベルリーネは舌打ちした。
暫く行くと大きな鉄の扉があった。その前には看守が一人椅子に座っている。
看守はベルリーネを見ると軽く会釈した。そして鉄の扉に穿たれた小窓を開けると「オイ! 開けろ。町長のお帰りだ」と扉の向こう側の別の看守に向かって言った。
鉄の扉はこちら側に向かってゆっくりと開いた。
扉の向こうも鉱山の内部だった。
とても大きな空間で、ログハウスのような小屋が幾つも立ち並んでいた。ベルリーネが牢獄に入る時と大きく風景が違っていた。今は見渡す限り人がいるのだ。砲撃の揺れが続いているせいで多くの人々は地面に伏せていた。
無言のまま扉を通り抜けたベルリーネに鎧を付けた騎士が近寄ってきた。
「こちらにサインをお願いします」と書類とペンを差し出してくる。ベルリーネはその騎士の息が臭いことに気が付いた。
ベルリーネは「ああ」と言ってペンを受け取ると、書類の直ぐ上の行のサインを見よう見まねで書く。
先程岩壁に手を突いた時の掌の傷が痛んだ。ペンを離す時、ネチャッとした血の感触と鈍い痛みが走る。
ペンを受け取ると騎士は顔を近づけてきた。
「楽しめましたか? 町長? 約束通り団長へのとりなし頼みます」
「ああ、宜しく言っておく」ベルリーネはそう言うと立ち去ろうとした。
その時、砲撃による地震が起きた。天井から剥がれたと思われる拳大の岩の欠片が近くに落ちた。
騎士はそれを避けるために、ベルリーネの直ぐ近くに倒れこんできた。騎士は「失礼」と言った。おかげで騎士の臭い息がベルリーネの顔に掛かる。
チーズのような匂いがベルリーネの思考を奪う。
「テラトロン!」
ベルリーネはそう言っていた。
騎士の頭が火球に包まれ、ボトリと地面に落ちた。
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