其の名は

あさぎ かな@電子書籍二作目

序幕 其の名は?

 ぼう、と暗闇の中で幽鬼のように姿を現したのは紅の鎧武者だ。

 全身甲冑の武装をしており、腰に携える太刀は絵物語に登場するような業物。頬当てをしているのでその表情は読み取れない。ただ紅蓮に迸る瞳が爛々と輝いていた。


「ほお、ここまで潜り込むとはな」


 対峙する人影は影のような輪郭のみで泡沫のように脆い。


「某の起源を聞いてどうする?」


 対峙する者は鎧武者を説得すべく身振り手振りを動かす。声という声はないのだが、鎧武者との意思疎通は出来ているようだった。


「…………! …………!」


「その様な強権を出されては話すしかないな。しかし──某の話を聞いて、お前の魂が耐え切れるか分からぬ故、心してきかれるが良い」


 影はこくりと頷いた。

 鎧武者は嘲り笑うような声を上げた。


「《其の名》を呼ぶ者は誰もいない。ただの人間だった子どもが鬼に──化物となった物語を騙るとしよう」



 




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