君から始まる恋
蜜缶(みかん)
君から始まる恋 前編
「総司、今度の日曜カラオケ行こー」
「いいけど…他に誰呼ぶん?」
「え?もち2人でだよ!」
オレがデート、デート♪と歌うようにはしゃぎながら教科書を鞄に詰め込んで帰り支度をしていると、周りの友人から「相変わらずラブラブだなー」っと冷やかすような声が挙がる。
「羨ましいだろー」
そう返してじゃあなーと手を振り総司と共に教室を出る。すると、
「…てかさ、お前そのネタいつまで続けんの?」
と総司にジト目で言われた。
「……………え?」
ネタって何のこと?と思いぽかんとしてたオレに向けられたその後の総司の言葉は、衝撃だった。
「デートのネタだよ。いつまで付き合う設定続けんの?
もうすぐ高校も卒業すんのにさ…外じゃ男子校のノリも通じないし、いい加減やめにしない?」
そう、つまり…
総司はオレが2人で出かける時に「デート♪」と言うのをネタだと思ってたらしい(!)
そしてオレたちは付き合ってるのではなくそういう設定だと思ってたらしい(!!)
そしてそれをいい加減に止めたいと思っているらしい(!?!)
(なにそれなにそれなにそれ…)
オレはただただパニックだった。
だってオレは、ネタだなんて思ってなかった。
クラスメートに「お前ら夫婦はいつも一緒だなー」とか冷やかされて「ラブラブですからー」と返すのが定番になってたり、付き合ってるにしては手すら繋いだことのない果てしなく清い交際だとは思っていたが、
それでもオレは付き合ってるって思ってたし、2人で遊ぶ時はいつだって本気でデートだと思ってた。
なのにまさか、総司がそんな風に思ってるなんて…
嘘だろと思いながら総司の顔をみるが、とても冗談を言っているようには見えないし、そもそも総司はそんな冗談を言うヤツではない。
…つまり、本気でそう言ってるんだ。
「……じゃあ、日曜のデートは止めとくか…?」
何とか振り絞って出したオレの言葉に、総司は「おう」と頷いた。
安心したのか、ふっと短く息を吐きながら…
その後は頭が真っ白になりすぎて、どうやって会話して家に帰ったか覚えていない。
いつの間にか自室にたどり着いていたオレは、力なくベッドへ仰向けに横になり、頭を抱える。
(なんで…どうして…)
一体どうしてこんな行き違いが起きてしまったのだろか。
思い返してみてもオレにとっては楽しかった思い出しか浮かばないのに…あれもこれも付き合ってなかっただなんて信じられない。
(オレが好きって言ってた時も、ネタって思ってたってことだよな…)
たしかに、オレたちの始まりは特にどっちかが好きと告白したわけではなかった。
…なんとなくの成り行きだった気がする。
高校が男子校だったからか、周りで男同士で付き合ってる奴らがチラホラいて。
アイツとアイツが付き合ったらしいよー、アイツとアイツも付き合ってるらしいよーって話の流れから、
「オレらも付き合ってみる?」
なんて言い出したのはどっちだったか。
オレだったような、総司だったような。
そんで「いいね、それー」なんつって、本当に軽いノリで付き合いが始まったんだ。
始まりはそんなんだったけど、付き合ってからはデートもしたし、好きだって思ったし、何度か総司にもそう伝えてきた。
周りにもオレらも付き合い始めたんだーって宣言してたし…だからキスとかそういうのがなくても、ちゃんと付き合ってたと思ってた。
(…だけど、そう思ってたのはオレだけだったのか…)
総司はずっと、ただの友だちと思いながらだったのだろうか。
ポケットからスマホを取り出し、無料通話アプリを開いてずらっとならんだ履歴を見ながら総司とのやり取りを思い出す。
…昨日だって、普通に会話してたし。見てたテレビの内容について話した後おやすみのスタンプをしていた。おとといはオレが総司に電話していた。
この時の電話は…なんだっけ。
小テストの範囲がどこかわかんなくて電話したんだっけ。
(付き合ってるって、思ってたけど…)
あれもこれも、ただの友だちといわれても否定はできない内容ばかりだ。
画面をスクロールしてメッセージをたどっていくと、その前はオレがバイト疲れたーって送って、総司がお疲れって返して、その後夕飯の話をして。
その前のはドラマの主人公役の女優さんが最近CMとかでめっちゃ見るけどいくら稼いでるんだろってオレが送って、知らねって返ってきて。
…その前によくやくオレが「好きだー」と恋人らしく送ったものがあったが、「ハイハイ」とあしらわれて終わっていた。
その前はオレが学食がボリュームあるのに安くて幸せって送って、その前はオレがドラマの話して…
その前はオレが…
「……」
(…なんで気づかなかったんだろう)
履歴を眺めているうちに突然あることに気付いて、思わず手が止まる。
(…いっつも、オレからじゃん)
電話も、メッセージも…
どれもオレが総司に連絡をして、総司はそれに返事をするものばかり。
総司が自分からオレに連絡をしてきたものは、1つもないのだ。
信じられずに、必死にスマホに残っている履歴をスクロールしていくが、遡っても遡っても、総司から始まった履歴はどこにもない。
「……ははっ」
思い返してみれば、放課後、遊びに誘うのはいつもオレからだった。
初デートに誘ったのも、初めて「好きだ」って言うのも、たしかにオレからだった。
"オレらも付き合ってみる?"
あの時、あんなことを言いだしたのも、きっとオレだった。
総司はいつだってオレの言動に応えてくれてただけで、総司からオレを求めてたことなんて今まで1度もなかったんだ…
(なんでこんな状態で付き合ってるって思えたんだろう…)
こんなのは付き合ってるなんて言わない。
ただただオレが言い出したことに付き合ってくれてただけで…
総司は初めから、オレと会いたいとも、連絡取りたいとも…なんとも思ってなかったのかもしれない。
「……っ」
情けなかった。
虚しかった。
ゾッとした。
何より、
あんなに一緒にいたハズなのに、総司が今までどんな気持ちでいたのか全くわからないことが、ただただ悲しかった。
オレから連絡をしなかったその日は、当たり前のように総司から連絡がくることはなかった。
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