第3部 天上の彼方

プロローグ

 北東の遺跡――女神テスラの終焉の地。

 奥に潜んでいた黒い闇が、微かに動いた。



 ……ついに……わたしだけになってしまったのか。ヒコヤめ……。

 もう失敗は許されない。ヒコヤにも――あの浄化者にも気づかれず、どうにか力を取り戻さなくては。


 ――ユウの身体を返して。代わりに……私の身体をあげるわ。


 あの女……わたしと取引をしたくせに……!


 ――可哀想に……。もう、いいのよ……。


 ジュリアンを抱きしめる力強い腕。

 そうだ……あのときと同じ女だ。二度も、あの女に狂わされた。

 なぜだ……?



 ――いいわ。私の大事な物を……守ってくれるのなら。



 不意に――黒い髪をなびかせた赤みがかった瞳の女の顔が思い浮かんだ。


 

 遥か遠い昔の一人の女を思い出し――闇は小さく震えた。


 今はまだその時ではない。しかし――いつか必ず、力を取り戻す。

 そのためには……――。



 黒い闇はしばらく蠢いていたが――やがてゆっくりとテスラから離れていった。

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