第51話 幕間

 ライフル弾が身体を抉った。

 不思議と痛みはない。

 引き金を引き続ける男に向かってバットを振り下ろす。


 頭は砕けなかったが、首の骨は折れたらしい。

 嫌な音がして、そのまま倒れた。



 ふと見ると、自分の身体は血まみれだった。



 映画みたいだ。

 だけど、何で死なないんだろう。

 映画じゃないのに。



 理由に思い当たった。



 そうか。私はもうからだ。



 すでに死んでいるから、何をされても痛くないのだ。



 恐慌に駆られた武装警官がライフルを振り上げ、殴りかかってきた。

 私はバットでそれを受け止め、左手の指で目を抉る。

「うがっ」


 そのまま、ライフルを奪って、口に銃口を突っ込む。

 延髄から銃弾が抜けていく。



 警官はどうと倒れた。



 あの日、私は死んだ。

 雅を連れて、車でファミレスへ向かっていた時。

 車の事故で私は死んだ。



 雅が生き残ったのは幸いだった。



 私は神様に感謝した。



 だけと、生き返った。

 もう少しだけ、生き延びて、智哉とあの人と、そして雅と暮らすことができた。


 いつまで、このおまけみたいな人生が続くかどうかはわからなかった。

 そのせいか、自分が短気になったような気がしていた。

 でも、そのせいで正直な発言をしてしまって、時には後悔をすることもあったけど、それを補って余りあるほど幸せだった。



 だって、私は死んだのに、もう一度生きられたのだから。

 いや、違う。死者なのに、生者として振る舞うことを許されただけなんだろう。


 だから、こうして鉄砲で撃たれても死なない。

 いや、死なないんじゃない。

 死んでいるから関係ないだけだ。



 三人目に襲いかかる。

 引き金を引くと銃弾が出た。警官と撃ち合い。

 他の警官も撃ち始めた。

 一人に抱きつくと、私と一緒に蜂の巣になった。



 私は死なないけど。



 でも、右手首がもげた。


 あら、銃弾を受けすぎたらしい。



 ちょっと残念。


 これ、気に入っていたのに。



 抱きついていた警官の腰のナイフを左手で引き抜く。



 飛びついて顔をめった刺しにする。

 胸とか腹は、何か着込んでいるのか、やたらと硬かったから、顔。

 顔一択。



 あと二人くらいだったかしら。


 顔を撃たれた。

 顔は、ちよっと痛い。

 それに、顔がなくなるのは、ちょっと嫌だった。


 ナイフを首に突き立てると、ぴゅーっと血が噴水のように噴きでた。



 綺麗。



 背後から殴られた。

 両足を撃たれた。

 あ、ちぎれたっぽい。


 足先に力が入らない。



「私がやろう」



 灰色の変な男が近づいてきた。

 もう駄目かな。

 私は私の動ける時間が尽きたことを自覚した。



 もう駄目か。



 灰色の男がのぞきこんだ。



 私は血に塗れた唾を吐いた。

 灰色の男の頬に、小さく赤い花が咲いた。



「無礼者がっ!」



 足で踏みにじられた。

 次第に意識がなくなってきた。



 ああ、これで終わりか。



 だけど、死んだのに、その後も家族と一緒に入られて。

 きっと、私は幸せだったのだろう。




 雅、ありがとうね。

 真琴さんと幸せになりなさい。



 そして、私の意識はそこで消えた。

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