第16話 リリース

「できた!」

 美穂子先輩が叫んだ。


「データください」

「はい」



 僕が担当しているトップページもほぼ完成。


「アップします!」

「ゴー!」



 美穂子先輩が自分のスマホでページを開く。



「できたーーーーー」

「おしまい!」



 僕と美穂子先輩は、脱力して椅子にもたれかかる。

「間に合ったねー。真琴さんのおかげだよ。ホント」

「いえいえ。美穂子先輩がコンテンツ周りをしっかりまとめてくれたおかげです」



「おつかれさまでした」

 そう声をかけてきたのは雅。


 手に紙パックのジュースを持っていた。


「わあ、ありがとう」

 美穂子先輩は、それを受け取ると、律儀に財布を出して、お金を払った。

「こういうことはきっちりしておかなきゃね」

 そう言って、嬉しそうにジュースを飲む。


「これ、生徒会のパソコンから、お知らせとか出せるんですよね」

「出せるよ。というか、ここからは運用の人たちの仕事」

「はい。まかされました。でも、パソコン部としての展示、何かやるんですよね、美穂子先輩」

「あと、二週間あるから、これから考えるわ」

「えっ、まだ何かやるんですか?」

「まあ、文化祭だしね。やった方が楽しいよ。絶対」

「いや、まあ、そうなんでしょうけど……」



「でもまあ、とりあえず、今日は帰らなきゃね。美穂子」

「透子!」

 入り口に立っていたのは、ショートカットの均整の取れた美少女。

 引き締まった手足は運動部をイメージさせる。

「その子たちが新しい部員? 二人も入ったんだっけ?」

「いいえ。こっちの雅さんは、生徒会の子よ。この子の友達。で、この子がパソコン部の期待の新人。斉藤真琴さん」

「こんにちは。私は美穂子の友人で、小松透子。陸上部で短距離やってます」

 手を差し出された。

「えっと、斉藤真琴です。美穂子先輩といっしょに部活やれて楽しいです」

 握手。

「美穂子から聞いているよ。とても優秀な子が来てくれたって。べた褒めだよ。正直嫉妬したいくらい褒めるんだよ。二人でいても君の話題ばかりでさ。ね、美穂子」

「いいじゃない。ようやく、一緒にがんばれる子が入ったんだから。透子は一緒にやってくれないし」

「仕方ないでしょ。正直わかんないもん、何してるのか」


「仲、いいんですね」

 僕の言葉に、美穂子が笑う。

「幼稚舎の頃から一緒だからね」

「そうそう。幼稚舎でおねしょして、ぴーぴー泣いてる頃からだよ。真琴さん」

「透子!」

 美穂子先輩が声を荒げた。



「あー、こわ。冗談だってば。さ、そろそろ帰ろう。もういい時間だよ」

「あ、そうね。戸締まりしなきゃ。真琴さんたちも片付け、片付け」

「あ、はい」



 ばたばたと片付け、戸締まり。


 そして、四人で学校を出る。



「私達はこっちだから」

 出たところで、左右に分かれる。

「じゃあね。真琴さん、美穂子をよろしくね」

「はい」

「ありがと。バイバーイ」



「面白い人だったね、透子さんって」

「そうね。でも、有名人なのよ。あの方」

「有名人?」



「うちの陸上部のエース。うちの学校では珍しく、全国大会出場している方よ。今年から副部長で、皆期待しているの」

「へえ」



「でも、美穂子先輩と仲良かったなんて、知らなかったなあ」

「そうなの?」

「うん。美穂子先輩も、あの方はあの方で有名なんだけどね。空気読まないって」

「あ、何となくわかる」

「だけど、あの二人、全然似てないじゃない。一緒にいるのが、あまり信じられないというか」

「僕たち、似てる?」

「何言ってるのよ、元おじさんのくせに」

「だけど、仲は悪くないよね」



 はっとして、雅が顔を赤くした。



 そして、両手で僕の耳をつまんだ。



「な、何恥ずかしいこと言ってるのよ!」

「あ痛たたたたたたたたた」



「あんま恥ずかしいこと言うと怒るからね」

「いや、もう怒ってる……」

「なあに?」



「あ、ごめん」

「よろしい」



「で、今日は真琴が当番だよね。晩ごはんは何?」

「え、ええっと……、そう、コロッケ買って帰ろう」

「えー。コロッケ?」

「うん。コロッケ」

 思いつきは堂々と。

 ごめん、正直リリースのことばかり考えていたので、夜のメニューとか何も考えてなかった。



「ま、いいか。じゃあ、買って帰ろ」



 コロッケの夕食は、とても美味しかった。

 やはり、こういう時間は割と幸せなものだった。




 スマホにメッセージが飛んでくるまでは。

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