第2話 訪問者

 女の子になって数日が過ぎた。

 意外とやることがない。


 仕事は、女の子になる前にきちんとやめていた。

 エロいことに時間費やそうと思っても、所詮女の子になって、日も浅い。

 正直、何日もそれに耽溺していることができるほどてもない。

 欲情したって、自分の身体だ。

 次第に、何となく噛み合わなくなってきた。



 オンラインゲームにログインしてみても、もともとアバターは女の子。

 何が変わるわけでもない。

 別に、近所に可愛い幼馴染がいて、僕でファッションショーとかするわけでもなく。

 そんな子と百合カップルになれるわけでもない。

 そもそもコミュ障だから、外に出ないし。

 不登校設定がまずかったか。

 外、出て補導されたら、とか思うとなかなか、ね。

 学校って、大切なんだなあ。


 ついでに、ロングヘアをシャンプーしてみたら、これが超大変。

 洗うのも大変だし、乾かすのも大変。

 あまりシャンプー使いすぎると、髪が痛むとか書いてあるし。


 うん。

 女の子って大変なんだ。



 何のために、僕は女の子になったのか。

 女の子は鑑賞するためのものではなかったか。



 ほんの少し。

 ほんの少しだけ後悔めいたものを感じつつ。


 僕は日々を過ごしていた。




 ぴんぽーん



 呼び鈴。

 僕は呼び鈴の主が誰なのかを想像して。

 そもそも、僕にはリアルの友達なんかいない。

 ついでに、女の子になった後に、友達作れるような甲斐性もない。


 結論。

 セールスかな。



 無視しようかな。

 そう思いつつ、僕はドアモニターに近づいて相手を確認してみた。



 そこには、ショートカットの女の子。

 赤いフレームの眼鏡がどストライク。

 十分に美少女といって差し支えない女の子。



「え、だけど何で」

 自問自答。何でこんな女の子が。


「ねえ、見てる? 開けてくれないかな」

 画面の向こうで女の子が喋っていた。

「あの悪魔からの命令よ。あたしとあなたで協力してお仕事しなくちゃいけないの。開けてくれる?」



「あ、うん。わかった」



 僕はドアを開けて出迎えた。




「こ汚い部屋ねー。男の一人暮らしみたいなもんじゃない」

「ごめん」

 まあ、男の一人暮らしだったんだから仕方ない。

「ねえ、あなた、本当に男だったの?」

 あ、バレてる。

「まあ、男でした」

「しょーもない人よね。悪魔と契約して、望みがそれ? バッカじゃないの?」

 ぐさりと刺さった。

「ごめん」

「わー、何がごめんよ。私に謝ることなんてないでしょうに。卑屈な人ね」

 む。なぜ、そんなに突っかかる。

 とは言え、それを表に出せるようなら、僕はおそらく、今こんな風ではなかっただろう。

「ごめん」

「ほら、いちいち謝らない。精神的にはあたしより歳上なんだから、しゃんとして」

「う、うん」

「あたしは、一条雅。一応、一年くらい前から使い魔やってる。中学一年生。あんたも設定年齢はいっしょでしょ」

「斉藤真琴。設定は中一……です」

 学校行ってない設定だけど。

「知ってるわよ。まあいいわ。お仕事の話をしましょう」

「うん」

 雅は、あたりを見回して、テーブルの横に腰をおろした。

 僕は、一度立って、冷蔵庫からペットボトルのお茶を出す。

「飲み物なんていいわ。まず座って」

「あ、はい」

 何となく怖いな、この子。めちゃくちゃ可愛いのに。


 ショートカット、というかショートボブっていうのか。

 整えられた黒髪に赤いフレームの眼鏡。

 着ているのは、どこか、いいとこの制服。

 おしゃれでとてもよく似合っている。


「何見てるの?」

「いや、あの、その」

「いい。一度しか言わないから聞いて」

「うん」

「あたしたちの仕事は、死体の始末よ」

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