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 その時、僕は、声と一緒に海岸を歩いていた。長く続く砂浜の、波打ち際をずっと歩いていたのだった。と言っても、それは、何か目的があっての行動ではなかった。他にすることも無く、ただ何となく歩き始めただけであった。

 しかし、どこまで歩いても同じような風景の続く海岸、代わり映えしない様子に、僕はかなり飽きてしまっていた。だから、いい加減歩くのも嫌になって、僕は質問する。

「この風景は――どこまで同じなんだい」

 声は答えて言う。

「同じ? 世の中に同じものなんてないだろう。同じように見えても――風景は刻一刻と変わっているのさ。もし同じに見えるなら――それは君の心の有様がそうだということだろう」

 僕はなるほどと思いながら、

「それは、僕の心が変わらないということかい?」と言うと、

「まったく――君は分かってないね」と声。「風景は、ゆるやかにだが、変わっているのに――君が同じ物に見えるのだとしたら……それは君の心が同じ物に見えるように変わっているということじゃないのかい」

「それは……」

 僕は、言いかけた言葉を飲込むと、頷いた。なるほど――。声の言う通りだと僕は思った。僕は、自分が自分の心を偽っている可能性を考えて見ていた。世の中は変わっても、それに合わせて自分の見方を変えて、変わっていないと思い続ける。

 それは、もしかして、変わっていないことを認めたくない自分の心が作り出した……。

「――幻だな。君は、君の生が、思うようなものじゃなければならないと、――自分に都合の良い、幻の世界に、直に見えた真実を変えて見て、それをごまかした。実に、十数年もね。その中に生きた」

「十数年?」

「君があの街から離れてから今までのことだよ。君は、失ったものを認めないで、その幻をずっと見て過ごした。ならば、その君の生は、確かに、幻だと言えるのかも知れないね。君の本当の生を見ずに、都合の良い世界を自分の周りに作り出して生きて来たんだよ。それはまさしく幻だ。この風景のように、君の見方によって、退屈にも、スリリングにもなるものさ……」

「スリリング?」

「望むかい」

「望む……」

「それを……」

 僕は、声の言葉に、肯定とも否定とも取れるような曖昧な首の動きをするが、――自分自身には嘘はつけなかった。ならば、空は瞬く間に曇り、強い風が吹いて来た。水平線の向こうに雷光が走り、おどろおどろしい音がした。

「荒れそうだな」

 声は言った。

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