第95話 二学期の初め


 夏休みが終わって二学期。


 授業より先に、模試が待っていた。


 勉強はしていたので、対策は問題ない。


 鼻歌交じりに解いていく。


 それから、舞台の稽古の夢は夜ひらく。


 いや、夜はやらないけども。


 衣装も壁紙もそこそこ出来ていた。


 灰かぶりの衣服。


 意地悪な姉役の衣装。


 そして春人完全監修のドレスと燕尾服。


 これだけで、手芸部は春人をエースとして迎えようとしていた。


 ちなみに、本人その気無し。


「十二時になるとこの魔法は解けますよ」


 魔女の言葉。


「殿下……」


 ホロリと言葉を漏らす私。


「それでも貴女が好きだから」


 情がこもっていた。


 他のクラスの連中まで見入っている始末。


 ちなみに私は陰キャです。三つ編みおさげ。極太フレームの伊達眼鏡。五十鈴とは釣り合わないモブキャラ。


 それが今の私でした。


「ぶっちゃけ役者不足じゃね?」


 との声も。


 全く同感。


「ダメです」


 半眼の五十鈴でした。


 そーは言ってもさー。普通にモブキャラの私では五十鈴に釣り合わないというか……なんというか。


 そうやって文化祭の準備は進んでいきます。


 模試も終わって「勉学も再開」となれば、「余計な事を考えずに済む」も正しいわけで、


「この時の係数は」


 との教師の言葉も、安楽安楽。


 学費免除なので、気楽に授業を受けています。


 午後は授業が無く、文化祭の準備に充てられます。


 他のクラスは、喫茶店や、プラネタリウムや、なんやかや。


 ちょっと面白そう。


 そんなことを思いつつ、


「くあ」


 欠伸をしながら練習練習。


 文化祭は二週間後だ。


 私たちのクラスは、


 ――申し訳ない。


 演劇になったので、夏休みも潰して動いていたけど、他のクラスは二学期初日からの動きとなる。


 ざわめく学校の空気。


 どうしても文化祭は、テンションを高めるようだ。


 私にはわかんないけど。テンション上げるのは難しい。クールが格好良いとは思わないけど、然程気にする事項でも無かったりして。


 ――こういうところで損してるなぁ……とは思い申して。


 そんなこんなで、日にちは過ぎて、


「もうちょっと心込められない?」


 演劇部の部長さんが、私に駄目出し。


「然もあらん」


 恋する乙女は演じきれない。


 私は恋をした事がない。


 主にお兄ちゃんのせい。


 イケメンが周りに居るのも困りもの。


「あはは」


 凜ちゃんが笑っていた。


 ――叩き割るぞ。


 少し、そう思う。


「日高先生?」


 部長さんの御言葉。


「笑うのは良くないかと」


「ええ。気をつけます」


 穏やかスマイル。


 イケメンに許される超奥義だ。


「ま、いいですけど……」


 と赤面しながら、ぶっちょさん。


 やっぱり凜ちゃんは無敵だ。


 お兄ちゃんと合わせて、無敵艦隊。


 ――スペインも目じゃないぜ。


 ってな具合。


 授業。


 後の芝居の演技。


 それを丁寧に繰り返した。


 少しずつ文化祭に近付いていく。


 その実感が手に取れた。


 とはいえ演技には没頭も出来ないんだけど。こっちの事情を向こうが知る由もないし、期待もしてはいないけど、ロマンスは私向きじゃないのだ。


 二学期になって、やる事が増えた。


 春人も奮闘しているし、五十鈴も王子様役を頑張っている。私だってシンデレラの役に近づけようとはしている。やるからにはそれなりに。


 別に愚痴じゃない。


 けれど忙しいのも事実で。


「なんだかなぁ」


 そんな感じ。


 勉強くらいしか取り柄が無いんだけど――というと驕っているだろうか?


 ちょっと自己嫌悪。


 けど本当に勉強くらいしか私に出来る事はあらじ。なのに次々と要求もされ申し。どうしたものかな?


 少しそう思う。というか他に思えない。私は私というカードしか切れないんだから、どうなるにせよ私に帰結はする。


 それすらも、


「規定事項」


 と言えるけれども。


 何だかなぁ。

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