第3話 凜ちゃん


 そんなわけで、こちらの感知しないところで、私は中学を卒業することになった。


 卒業証書は、担任が持って来てくれた。


 で、高校デビューのために、私は凜ちゃんを連れて、眼鏡ショップに来ていた。


 凜ちゃん。


 日高凜ひだかりん


 お兄ちゃんの大学の先輩で、来年度から、泰山高校の新米教師となるらしい。


 何の因果か。


 私の通う高校でもある。


「アンダーリムだと知的に見えるね」


「で、なんで伊達眼鏡なんですか?」


「高校デビューのためです」


 私は、アンダーリムの眼鏡をかけて、ニコッ、と、笑う。


「可愛いんですけどね」


 凜ちゃんもさすがだ。


 存在がキラキラしている。


 整った顔立ちに、高身長。


 学歴申し分なく、乙女心を知る人よ。


「じゃあここは拙が払いますよ」


「いいの?」


「進学祝いと言うことで」


「にゃは~」


 どこまでイケメンなんだ。


 これを素で言うから凜ちゃんは侮りがたい。


「陽子さんは眼鏡キャラでいくつもりで?」


「清楚な文学少女を目指します」


「ギャルも可愛いですよ?」


「あー……ねー?」


「なにか?」


「出る杭は抜かれる」


「なるほど。卒業式も出ないわけです」


 一発でバレた。


「拙で宜しければ相談に乗りますが?」


「凜ちゃん、忙しいんじゃないの?」


「そこはほら、時間は創る物ですので」


 プロ意識が高すぎる。


 らしいっちゃらしいけども。


「どうせのデートですから、昼食にしましょう。奢りますよ」


 とのことで、ラーメン屋に。


 私は豚骨。


 背脂ニンニク乗せ。


 凜ちゃんは醤油豚骨だ。


 ズビビー。


「先生には話せないことですか?」


「モンペになる」


 親じゃないけど。


「イジメ」


「ってほどじゃないね」


 ズビビー。


「SNSで叩かれましたか」


「実音で叩かれました」


「ははあ」


「調子乗ってるとかビッチとか」


「パパ活してたり?」


「それは本当かもね」


 凜ちゃんと一緒に居て、デート代を出して貰ってるんだから。


「陽子さんは魅力的ですから」


 イケメンめ。


「だから陰キャのモブを目指してるの」


「御本人はソレで良いので?」


「どっちにしろ、誘蛾灯はうんざりだし」


「その表現はどうでしょう? 分かる気もしますけどね」


 クスッ、と、凜ちゃんは笑った。


「モテますもんね」


「ぶっちゃけそれよね」


「だからカモフラージュと?」


「三つ編みおさげで、フレームの太い眼鏡かければ、陰キャになれるかなって」


「勿体ない気もしますけど」


 物腰柔らかい話し方は、凜ちゃんの良いところ。


「でもそうですね。陽子さんの魅力は知っている人が知っていればいいわけですし」


「そゆこと」


 ズビビー。


「元々、地頭は良いんですから、学力に見合った友人を作るのも一興かと」


「それは何様じゃない?」


「ですね」


 穏やかに笑われる。


 ツッコミを想定されていたのだろう。


 熟々イケメンだ。


 ズビビー。


「学校では宜しくしてください」


「やだ」


「何故?」


「凜ちゃんモテるもん」


「そうでしょうか」


「お兄ちゃんしか目に入らないの辞めない?」


「陽子さんも入っていますよ?」


 こいつは~。


「愛が重い」


「これは失礼をば」


 クスクス、と、凜ちゃんは笑った。


「その気になれば三股四股出来るだろうに」


「性病が怖いです」


「お兄ちゃんなら良いの?」


「先生になら抱かれても」


「モーホー」


「好きなのは感受性なんですけどね」


 それは確かにあった。

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