第2話 卒業式をサボる


「……おーい」


 お兄ちゃんが、声をかけてきた。


 高級マンションの一室。


 私の寝室だ。


「朝飯できたぞ?」


「はい」


 鬱屈した精神で、もぞもぞとベッドから這い出る。


「今日、卒業式だよな?」


「だね」


 ダイニング。


 フレンチトーストをもぐもぐ。


「出ないのか?」


「学校行きたくない」


 また陰口がたたかれると思うと、身がすくむ。


「いいんだけどな」


 その辺、お兄ちゃんは大らかだった。


『今日も来ないのか?』


 そんなコメント。


 碓氷くんだ。


 既読スルー。


「何かあったのか?」


「思春期特有の」


「恋か?」


「友情だね」


 友達と思っていたのは、こっちだけっぽいけど。


『迷惑』


『ビッチ』


『空気読めない』


『調子に乗っている』


 合算すればこんなところか。


 私の評価は。


「何かあったらお兄ちゃんに言うんだぞ」


「ん」


 フレンチトーストをもぐもぐ。


「お兄ちゃん?」


「何か?」


「大学って楽しい?」


「それなりにな。人それぞれとも言う」


「烏丸茶人の言葉?」


「単なる一大学生の言葉だな」


「ふーん」


 お兄ちゃんは大学生だ。


 二回生。


 特に何事も無く、最難関の国立に受かった。


 勉強ほどほど趣味全開。


 ついでにシスコン。


「可愛いな」


「可愛い言うな」


 この通り。


 兼業という奴だ。


「ねえ、お兄ちゃん」


 私は質問した。


「私に三つ編みって似合うと思う?」


「部分的になら」


「おさげは?」


「イモになるぞ?」


「そっか」


 それは良い事を聞いた。


「今日は学校は?」


「春休み」


「っていうかサークルは?」


「サボり」


「いいの?」


「強制じゃないしな」


 くあ、とお兄ちゃんの欠伸。


「もうすぐ高校生かぁ」


「いつまで子どもなんだろ?」


「そう思う時期はあるよな」


 クスッとお兄ちゃんが笑う。


「お兄ちゃんもおっさんになるのかな?」


「死ななければな」


「物騒なこと言わないでよ」


「然もあらん」


 フレンチトーストをもぐもぐ。


「仕事の方は順調?」


「さてな。消費物だから」


 さいでっか。


「それでなんで不登校?」


「黙秘」


「喋ってるだろうが」


「そーだけどー」


「お兄ちゃんと一緒に居たかった?」


「キモい」


 それは断言できる。


「お兄ちゃんを好きすぎる妹が理想だ」


「現実は違うってことよね」


 南無三宝。


「陽子はお兄ちゃん以外に靡いちゃダメだぞ」


「たしかにお兄ちゃんはイケメンだけど」


「結婚しよう!」


「絶対ヤダ」


「何故!?」


 自分の胸に聞いて。

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