第305話 囚われの姫

 

 王城は地獄のような慌ただしさだった。

 取り繕うことなく、様々な人が駆け回り、あちらこちらから怒号が飛ぶ。


「《魔物の大行進モンスター・パレード》だ! いちいち報告しなくていい! 事後報告でも構わん! 各騎士団の隊長たちに采配は任せる! 民の安全を最優先にモンスターを殲滅せよ!」


 国王ユリウスからの命令に、伝令が各所に伝えるために走り去った。

 しかし、次から次へと判断を仰ぐ使いがやって来る。

 万が一のために、王妃や王子、王女たちは別々の場所に匿われている。王家の血を絶やすわけにはいかないのだ。

 この場にいるのは、国王の他にシランの母であるディセントラだけだ。


「緊急時のマニュアルに従って、まずは民を避難場所まで避難させなさい。グロリア公爵に王都のことは一任します! 冒険者ギルドにも連絡し、国からの緊急依頼を発令! 現在は親龍祭の期間中です。城の結界も最大出力で展開しなさい!」

「しかし!」

「王国の軍事力を他国に知られるわけにはいかないと? そんなこと気にしている場合ですか! それならば王国の力を見せつければいいでしょう! やりなさい!」

「はい!」


 各国の王侯貴族が集まっているドラゴニア王国の王城。下手に力を加減して、要人たちにケガを負わせるわけにはいかない。

 王妃の命令を受諾し、すぐに城が結界で覆い尽くされる。


「モンスターの種類は?」

「未だ不明です。スライム系かと思われていますが……」

「報告です! 飛行系のモンスターを多数確認しました!」

「方角は?」

「東西南北です!」

「魔法師部隊に連絡! 狙撃して撃ち落としなさい!」

「はっ!」


 時間がない。モンスターの移動が予想以上に早すぎる。飛行系のモンスターがいるならば、到達予想時間よりも早く王都にやって来るだろう。

 国王と第三王妃を護衛する近衛騎士たち。騎士団長のレペンスも指揮に忙しい。


「なに? 貴族たちが護衛のために近衛騎士を呼んでいる? そんなもの無視しろ! 騎士たちは要人たちの護衛を優先だ!」


 話が聞こえた国王ユリウスも口を挟む。


「王国の貴族たちには城で大人しくしているか、自前の騎士団に護衛してもらうために城を出るか、二択を迫れ! うるさいようなら縛り上げろ! これは勅命である!」

「はっ!」


 怒号が飛び交う会議室に、リシュリュー宰相が入ってきた。忙しさにメガネが若干ズレている。

 各国の要人たちの対応をしていた宰相は、真っ直ぐに国王の下へ移動し、報告。


「陛下」

「どうした?」

「ヴァルヴォッセ帝国の皇帝陛下が会談を申し込みたいと」

「……はい?」


 忙しさを忘れ、ユリウスは一瞬聞き間違いかと耳を疑った。

 しかし、宰相は真面目な顔。嘘をついているようには見えない。

 この慌ただしさの中、ヴァルヴォッセ帝国の皇帝が会談を申し込む。一体何の用だろうか。

 熟考している時間もない。


「大至急だそうです」

「……わかった。すぐに向かう。ディー!」

「ここは任せて!」

「うむ!」


 この場はディセントラに任せて、ユリウスは走る。

 悠長に歩いて向かう暇もない。着替える余裕もない。

 今は国の危機なのだ。最悪の場合は王国が滅んでしまう。

 《魔物の大行進モンスター・パレード》は甚大な被害が訪れる厄災。モンスターとの戦争なのだ。

 国王ユリウスは、皇帝ゲオルギアが待つ部屋へとたどり着いた。


「お忙しいところ申し訳ない」


 ゲオルギア・ヴァルヴォッセは第一声で謝罪する。

 二人は向かい合って座る。ダラダラした前置きはなし。

 国王の覇気を纏ったユリウスは、真剣な表情で問いかける。


「単刀直入にお聞きしよう。何用かな?」

「我がヴァルヴォッセ帝国からドラゴニア国王に一つだけお話があって―――」


 皇帝ゲオルギアは武人として獰猛に微笑む。

 長年の宿敵、ドラゴニア王国とヴァルヴォッセ帝国。

 その国王と皇帝が話し合う。



 ▼▼▼



 ヒースはベッドの上でシランとイチャイチャしていた。


「あぁ……シラン様! そんなところダメだよ……!」

「可愛いヒースが悪い」

「もう! シラン様ったら!」


 二人は抱き合ってイチャラブチュッチュ。

 御伽噺の世界から抜け出してきたようなメルヘンチックな世界。

 美しい森の中にお姫様が眠るような天蓋付きベッド。フリルがふんだんに使われている可愛らしいデザインだ。

 美化120%されたシラン。背景には花が咲き誇り、キラキラとイケメンオーラが輝いている。

 大人っぽく成長したヒースはイケメンのシランとキスをする。

 彼の手が、彼女の身体をゆっくりと撫で上げる。

 豊満な胸。くびれた腰回り。形の良いお尻。肉付きの良い健康的な太もも。

 ヒースの理想の姿だ。


「俺にはヒースしか見えていない」キリッ!


 格好つけながらキザなセリフを吐くシラン。


「愛している」キリッ!


「大好きだぁー!」キリリッ!


「俺のヒースは世界一可愛いぃぃいいいいいい!」キラリンッ!


 真っ白な歯から迸る怒涛の愛の告白にヒースはデレッデレ。くねくねと身体をくねらせながら恥ずかしがる。


「いや~ん! シラン様の正直者! エリカが見てるんだってばー!」


 メイド服を着たエリカが悔しそうにハンカチを噛んでいる。

 悔し涙を流す彼女に見せつけるように、ヒースとシランはイチャイチャする。


(服はいらないかな)


 そう思った瞬間、シランの上半身の服が消え去った。気づけば、自分自身の服も消えている。


(キスして欲しい)


 シランからキスしてくれる。柔らかい唇の感触に脳が蕩ける。


(裸になって押し倒して欲しい)


「ヒース……」


 裸になったシランが、同じく裸になったヒースを押し倒した。

 イケメンのシランが覆いかぶさる。

 これから始まるのは愛の行為。甘くて官能的な愛を交わし深め合う。

 この全てが思い通りになる夢のような世界で二人は一つになるのだ。


「……ん? 夢のような世界?」


 ヒースは違和感を感じた。


「シラン様、ちょっと待って」


 言葉通り、シランは一つになろうとする直前で動きを止めた。命令を待つ人形のように凍り付く。

 起き上がってベッドに座ったヒースは、う~ん、と考え込んだ。


「まずシラン様。何このキラキラオーラ。背景に咲く花はどうなってるの?」


 ポンッと音を立てて、キラキラオーラや背景に咲く花が消え去った。

 次にビシッと悔し涙を流すエリカを指さす。


「はいそこ! エリカはそんなことしない! ハンカチを噛みしめることも! いや、一回させてみたいけど! お姉ちゃんならもっと私をぞんざいに扱うはず! ベッドから蹴り落とすとか、私を踏み台にしてシラン様を誘惑するとか! 意外と姉妹丼的なノリになるかも……実際は従姉妹丼だけど。お姉ちゃんなら絶対にベッドに上がってくるはず!」


 ポンっと音を立てて、エリカの姿が消え去った。


「次に私! 違和感なーし! 私可愛い! 超美人! 以上」


 ボンキュッボンに成長した自分の姿は見事にスルー。

 大人っぽく成長したヒースは、周囲をぐるりを見渡す。


「ここどこ? まあ、私が作り出した夢の世界だよねぇ~」


 小川のせせらぎが聞こえるメルヘンチックか森の中。現実には存在しない世界だ。

 全てヒースが憧れて望んだ自分だけの世界。


「私、いつ寝たんだっけ? えーっと……」


 夢の世界に踏み入れる前のことを思い出す。

 歌姫セレンのリハーサル。精神魔法の講義。危うく漏れそうでトイレへと駆けこんだこと。そして、無感情な無表情の女性たち。


「はっ!? もしかして、私攫われた!? ど、どうしよう!? このまま夢渡りでシラン様の意識に……いや、まずは現実の自分の状況を知らなくては!」


 ヒースはフカフカなベッドの上に立ち上がる。胸がプルルンと弾んだ。


「おぉ……って、そんなことをしている場合じゃなーい! 目覚めろ、私!」


 夢魔の力を操って、意識を無理やり覚醒に導く。

 身体が急浮上。青空を飛んで、綿飴みたいな白い雲を突き抜けた。


「私だって成長してるんだもん! いつまでもメソメソしている女の子じゃないんだからぁー!」


 心が急速に成長しているヒースは、ぐんぐん空を飛んで夢の世界から脱出した。

 眠り姫が目覚める。


「んぅ~……んふぅっ!?」


 声が出せない。手足は動かない。体勢は座った状態。

 手足はギチギチに縛られ、口には猿轡。少し体を動かすだけで縄が食い込み、とても痛い。

 隣には似たような状態のセレンの姿もある。


「んふぅ~~~~!」


 囚われの姫は前言撤回。メソメソして泣きたくなった。














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昨日 (2021/1/16) タイトルを変更しました。


変更前タイトル:娼館通いの夜遊び王子

変更後タイトル:夜遊び王子のハーレム譚


これでタイトル詐欺は解消されたはず!


それに伴い、改稿も行いました。

目次をご覧になればわかると思います。

(改稿済み)と書いているので。


伏線も追加されていたりして・・・


本文を読むのが面倒という読者様は、近況ノートをご覧ください。

変更点が二行ほどで簡潔にまとめられています。


これからもよろしくお願いします。

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