第283話 二人きりのダンス
クリスマス……でしたね。
もう終わりそうですけど。
はっはっは! 今日も普通の一日でした!(血の滂沱)
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闇夜に特訓していた帝国元帥を覗いていたら、彼女に気付かれてしまった俺。彼女からダンスという名の試合を申し込まれた。
女性からの誘いを断るのは無礼に当たるんだが、断ってもいい? ダメですよねぇ。
現実逃避をしていたら、その無言は肯定と受け取られたらしい。
槍を構えたブーゲンビリア元帥が獰猛な笑みを浮かべて腰を落とす。今にも突進して槍で貫かれそうだ。
暗部の衣装に身を包んだ俺は自然体で立っている。幻術などを多用しているため、俺が王子だとはわからないだろう。陽炎のように姿が揺れて見えているはず。
「
楽しそうで何よりですな。俺はもう早く部屋に戻って寝たいです。
自主的に警備に参加するんじゃなかった……。
こうなることがわかっていたら、俺は婚約者たちに混ざって寝ていたぞ。
あぁ……甘い香りに包まれて寝たい……。
「異様な気配……王国の恐怖の象徴。国王直属の暗部か。タンジアに御前試合を譲った甲斐があった!」
異様な気配じゃなくて、現実逃避と諦めモードの寂寥感が漂っているだけだと思う。
仕方がない。頑張りますか。ブーゲンビリア元帥の強さを測る丁度いい機会だ。
寝る前の激しい運動だと思えば……全然やる気にならない。
普通のダンスのお誘いならよかったのに。
ウズウズと待ちきれないブーゲンビリア元帥は、律儀に試合前の一礼。俺もゆっくりと礼。
お互いに視線だけは逸らさない。俺は目も開いていない特殊な仮面を被っているけど。
「では、
その瞬間、彼女の姿が掻き消えた。
背筋が凍る。背後に彼女の気配を感じ取った。身体をわずかに逸らした瞬間、その空間を真紅の槍が穿つ。
先手は御前試合と同じ。ランタナが行った方法だ。
一瞬にして背後に回って神速の突き。まだまだ元帥はウォーミングアップ。
連続の突きを俺は最小限の動きで躱していく。
「くははっ! 全てを見切るか! ならば、スピードを上げるぞ!」
歓喜の笑みを浮かべた彼女の攻撃が早くなる。ギリギリで躱していたら切り裂かれた空気に切り裂かれる。真空の鎌鼬が襲ってくるのだ。余裕をもって躱すしかない。
しかしすごいな。ジャスミンたちが魔法で作り出す真空の刃を生身一つで再現しているのだ。恐ろしいほどのスピード。
「どうした? 避けるだけか?」
煽りには乗りません。俺は彼女の動きを観察し続ける。
神速の突きの中に含まれる多彩なフェイント。突きの瞬間に薙ぎ払い。薙ぎ払いの勢いを利用して、クルリと一回転したと思ったら真下から斬り裂かれる。
「これも避けるかっ!? 楽しいな!」
歯をむき出して獰猛に笑うブーゲンビリア元帥。更に攻撃が苛烈になる。
うおっ! こ、これは避けられない。ぼやけて見えるほど速く突かれた槍を、異空間から取り出した白銀の重厚なナイフで受け止める。そして、勢いを利用して逸らせた。
「ほう?」
ようやく取り出した武器に彼女は
あのスピードで繰り出された槍の刃には大抵の武器は負けてしまうだろう。彼女の紅の槍は相当の業物だし。しかし、この気配は……。
「そのナイフ、良い武器だな」
『……我の誇りだ』
ナイフを褒められたのが嬉しくて返答してしまった。何故なら、これは神龍の牙……ソラの牙で作られたナイフなのだ。
俺の愛用の武器。自慢の武器を褒められたら嬉しく感じてしまうのは、武人ならではかもしれない。
言葉を返されたブーゲンビリア元帥は、ふっと微笑む。
『……その槍、もしや龍の骨を削って作られたものか?』
一度喋ったのなら無口キャラでいかなくてもいいだろう。先ほどから疑問に思っていたことを聞いてみた。
彼女の槍からはこのナイフと似た雰囲気を感じるのだ。
「よくわかったな。我が祖が打ち倒した悪しき赤龍の骨から作られた槍だ。白銀の龍を崇める貴殿は不快な気分になるだろうが……」
『……別に不快ではない。龍の素材の武器を使うことはこの国にとって誉れ。我がナイフも神龍様の牙から作られている』
まあ、龍の素材の武器は国宝に指定されるけどな。
ランタナに
龍の素材自体が御神体として信仰の対象になった言い伝えもある。
でも、実際は神龍本人から、使ってください、と毎年大量の素材を渡される。定期的に歯や鱗は生え変わるんだと。俺は無料で配りたいくらい大量の素材を余らせている。
使い道が見つからないので大事に保管しております。
龍の骨から作られた槍を、龍の牙から作られたナイフで迎撃する。
「そうか。少し安心したぞ!」
安心したようには見えない好戦的な笑顔で致死的な攻撃を繰り出してくる。
元帥の紅の瞳が爛々と輝いた。彼女の身体から紅の闘気が溢れ出す。
振り回す槍が空気を切り裂き、ジュッと刃が摩擦で嫌な音を立てる。灼熱の闘気が槍に宿った。
「《屠龍槍・
槍の刃が真紅の炎と化す。そのまま、炎の槍を振り回し、薙ぎ払い―――うおぉっ!?
俺は上半身をのけ反らせて槍の
薙ぎ払いかと思いきや、石突での突き。不意打ち過ぎる。心臓が飛び跳ねたぞ。
のけ反らせて体勢を崩したところに、自身の回転を利用した薙ぎ払い。何とか避けたが、このコンビネーションはヒヤッとした。危ない危ない。
「これも避けられる……素晴らしいな! 貴殿が王国所属なのが悔やまれる!」
それはどうも。帝国に行ったら貴女に毎日戦いを挑まれそうだ。王国に生まれてよかった。
爆風のような攻撃を止めて、俺たちは距離を取った。仕切り直し。
これで前奏は終わり。お互いに身体が温まったところで、ここからが本番だ。一番の盛り上がり。
「貴殿にお礼として一つ情報を教えよう」
ほう? それはどんな情報だ?
ブーゲンビリア元帥は実に楽しそうに笑っている。戦闘中ずっと彼女は笑いっぱなしだ。
「我らがヴァルヴォッセ帝国の最強は弟のタンジアではない。父の皇帝陛下でもない」
……実に嫌な予感がする。
「帝国最強は―――
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【ヴァルヴォッセ帝国の戦闘力トップスリー】
1.元帥ブーゲンビリア・ヴァルヴォッセ第一皇女
2.皇帝ゲオルギア・ヴァルヴォッセ
3.元帥タンジア・ヴァルヴォッセ第一皇子
実際はこんな感じです。
ブーゲンビリア > 皇帝 ≧ タンジア
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