第262話 夫で父親 後編
すいません。予約投稿が12:00じゃなくて14:00になっていることに今気づきました。
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深く深く頭を下げる父親。
こうも真摯に頭を下げられると、別に俺たちはそんな関係じゃないんだが、とは言い出せない。
確かに、ランタナが行き遅れたら結婚するって約束はしているけど。
……あれっ? 結婚の約束ということは、これも婚約に入るのか?
裸の付き合いもしているし……。
「俺は評判の悪い夜遊び王子ですよ。そんな嫌われ者に大事な娘さんを嫁がせてもいいんですか?」
「おい婿殿。
頭をあげたグーズさんがキッと俺を睨んだ。迫力のある眼光。
俺はその眼光を受け止める。
すぐに、ニカっと少年のように笑って俺の肩に腕を回した。
「今の言葉を聞いてますますランタナを娶って欲しいと思ったぜ!」
「なんで?」
思わずタメ口だったが、グーズさんは細かいことは気にしない。
だってよ、と説明をしてくれる。
「自分の評判が悪いと自覚しながら、変えようとせず、それに甘んじているのは余程の愚か者か何か理由があるやつだ。前者の場合はわざわざ忠告なんてしねぇ! 愚か者だからな!」
うぐっ!? そ、そうか。鋭いな。流石
宿屋を営んでいることで、目利きが鍛えられているのかもしれない。客を一目で見抜くのも接客業では必要なスキルだ。
「理由があるのならそれでいい。オレは興味ねぇ。貴族や王族なんて秘密ばかりだろ。そっちで勝手にやってくれ」
俺も教えるつもりはないので、ありがたく勝手にやらせていただきます。
ここで何も聞かないのは信頼できる。
「それにな、オレたち王都の奴らは、婿殿が孤児院の子供たちを連れて、いや、この場合は連れられてだな、王都を練り歩いてる姿をよく見る。十年くらいまでボロボロだった孤児院が婿殿が出入りするようになって綺麗になった。子供たちは笑顔だ。誰のおかげか、賢い奴ならわかる」
そうだな。ソノラみたいに孤児院を卒業していった子も多い。そこから話が伝わることもあるだろう。
「婿殿がロリコンの可能性もあるが……」
「それはないです!」
俺は即座に否定。
まさか、俺はロリコンだという噂が流れているのか?
まあいいや。今更噂が一つ増えたところで何も変わらない。放っておこう。
「最後に、決定的なのはこれだな。婿殿の女だ!」
「俺の女?」
「そうだ。婿殿の女はとんでもない美人ぞろい。美姫を侍らせることに対する男の嫉妬と、自分よりも綺麗な女に対する女の嫉妬で婿殿は嫌われているが、それは若い奴等だけだ。オレたちくらいになると本当のことがよくわかる。ちなみに、俺は母さんとランタナ以外興味ないがな!」
流れるように付け加える嫁自慢と娘自慢、ごちそうさまです。
「本当のことですか?」
「ああ。王都の奴らは知っている。婿殿の女に手を出すのは厳禁だと。何故か? 女がキレるから」
「それがどうしたんです?」
「まだ気づかないのか? キレるのは婿殿じゃない。婿殿の女だ。普通は逆だろ」
「……あっ!」
「わかったか? 手を出されたり侮辱されたりしてキレるのは必ず女の方だ。むしろ、婿殿は抑え役だ。ただ女を侍らせてもこうはならねぇ。余程婿殿を愛していないとな」
これは考えつかなかったな。言われてみれば確かに、そう考えることも出来る。
まあでも、女性陣のプライドが高いって見方もある……はずだ。
「そこに気づくとよくわかる。女のほうがラブラブオーラをまき散らしていると。なら明確じゃないか。婿殿は女性を大切にする男だ。女好きなのがちと気になるが、でも、雑に扱うことは決してないはずだ。だからランタナを任せられる」
どうだ、わかったか、とバシバシ叩かれる。
大変よくわかりました。
グーズさんは鋭い。もしかしたら、サルビアも気づいているのかもしれない。これが父親と母親というものか。
俺にはまだわからない。
「オレは、娘を泣かせたらただじゃおかない、とか言うつもりはねぇよ」
「……言わないんですか?」
「これはオレの持論なんだが、涙を流すたび男は格好良く、女は綺麗になるんだ。人生嬉しいことも楽しいことも辛いことも悲しいこともある。泣くのは普通だ」
「それもそうですね」
「涙を見せたくなかったら一人で泣けばいい。慰めてもらいたいのなら誰かの前で泣けばいい。気持ちを分かち合いたいのなら皆で泣けばいい。人間、泣いていいんだ。泣いたらいけないとか言う奴に、お前は馬鹿か、とオレは言いたいね」
「俺としては、愛する女性は嬉し涙を流して欲しいですね」
「なら婿殿が頑張れ。頑張って幸せにすればいい。ランタナのことも頼むぞ」
親公認の仲か。もう拒否は出来なくなってる気がする。
俺は別にいいんだが。ランタナは綺麗で可愛いし。俺は好きだ。
後はランタナ次第。
「ランタナの気持ち次第ですかね。本人も自覚なさそうですし」
「だよなぁ~。そこが問題なんだよなぁ~。まあ、頑張って口説き落としてくれ。すぐに堕ちると思うけどな」
それでいいのかよ……。
「実は、ランタナと約束してるんですよ。行き遅れたら俺が貰うって」
「よし! 今すぐ貰ってくれ!」
「いやいや! ランタナはまだ26でしょ! これからですって!」
「いや、もう行き遅れだ! 父親である俺がそう決めた!」
「それでいいんですかっ!?」
何という理不尽な暴論。ランタナが聞いたら何と言うか。
たぶん、ぶっ飛ばされるな。
聞こえていないことを願おう。
「ウチの娘は嫌なのか? ランタナは可愛いだろ? 可愛いよな? 可愛いって言えよ? なぁ?」
「突然面倒臭くならないでくださいよ。折角格好いいと思ってたのに。脅迫しなくてもランタナは可愛いと思っていますよ」
「なら結婚な! 異論反論すべて認めん! 婿殿の返事は『イエス』か『はい』だ!」
あっはっは、と背中をバシバシと叩きながらご機嫌に笑うグーズさん。
実質一択の返事を俺がすることはなかった。
何故なら、ちょうど戻ってきたランタナが手に持ったコップを投げつけたからだ。
顔面にぶち当たったグーズさんは、他の椅子や机を巻き込みながら吹き飛んでいく。
真っ赤になってプルプルと震える彼女は途轍もなく可愛かったのだが、二度目の投球フォームに入ったのを見て、俺は即座に両手を挙げ降伏。
その後、ナイフを抜いてグーズさんに飛び掛かろうとするランタナを俺とサルビアさんが止めにかかった。
ドタバタと騒がしかったのだが、それがとても楽しいと思った俺だった。
<おまけ>
~ 一方その頃、ランタナは ~
「ランタナちゃん! どっちが好み? 右? 左? どっち狙い?」
「……なんで合コンみたいなノリなんですか」
「合コンに行ったことあるの?」
「あるわけないです! 話で聞いたことがあるだけです!」
「あら、お母さんと一緒ね! ちなみに、お母さんの狙いはお父さんよ!」
「知ってますよそんなこと」
「あの子、良い子じゃない。ランタナちゃんから見てどう?」
「えーっと、女誑しですけど、お優しいですし、陰でこそっとさりげなく気配りをされる方ですかね。野営の時は女性の騎士のためにお風呂まで用意してくださったり、気づいたら騎士用のお風呂のアメニティも良くなっていたり……絶対に殿下の仕業ですね」
「あらあら! それでそれで?」
「でも、時々深く落ち込まれることがあって、そこが放っておけなくて……」
「そんな彼をお風呂で抱きしめてあげたでしょ? お母さんが小さい頃のランタナちゃんにしてあげたみたいに」
「な、何故それを!?」
「あら。本当にしてたのね! お母さんビックリ!」
「くっ……! 引っかかりました……」
「ランタナちゃんもやるわね! その調子よ! 目指せ、既成事実! お母さんがお父さんにしたみたいに!」
「両親のそんな事実を聞きたくないんですが!」
ランタナは終始、母のサルビアに弄られ、揶揄われ続けるのだった。
<おまけのおまけ>
「あっ! ランタナちゃん待って! まだ出て言ったらダメよ!」
「でも……」
「シィー! 静かに!」
『実は、ランタナと約束してるんですよ。行き遅れたら俺が貰うって』
『よし! 今すぐ貰ってくれ!』
「っ!?」
「あらあら。もう婚約してるじゃない!」
『いやいや! ランタナはまだ26でしょ! これからですって!』
『いや、もう行き遅れだ! 父親である俺がそう決めた!』
『それでいいんですかっ!?』
『ウチの娘は嫌なのか? ランタナは可愛いだろ? 可愛いよな? 可愛いって言えよ? なぁ?』
『突然面倒臭くならないでくださいよ。折角格好いいと思ってたのに。脅迫しなくてもランタナは可愛いと思っていますよ』
「~~~っ!?」
「良かったわね。可愛いと思ってくれてるんだって!」
『なら結婚な! 異論反論すべて認めん! 婿殿の返事は『イエス』か『はい』だ!』
「くっ!?」
「あっ! ランタナちゃん待って! コップを投げるなら、せめて割れないように投げてぇ~!」
ということがあったらしい。
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あれっ? ランタナのヒロイン章じゃないのにこのヒロイン力……
どうしてこうなった?
でも、可愛いから万事オーケー!
ちなみに、この作品のフォロー数が1万人を超えたらしいです!
ありがとうございます!
10.0Kと表示されるんですね。知りませんでした。
1万人を超える前に9999人を5,6回は見ました……。
なかなか最後の一人が増えず、もどかしかったです。
これからも頑張っていきます!
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